ナタリー PowerPush - Manhattan Records The Exclusives Japanese Hip Hop Hits Vol.4

「“東京”弐拾伍時」インタビュー

たまたま時代とリンクした

スタッフ 今の話を聞いてて思い出したんですけど、以前MACKA-CHINさんが「ニトロに関してはシーンが動いたんじゃなく、社会が動いたんだ」って話してました。

──どういうことですか?

S-WORD

S-WORD 社会を言い換えると例えば企業のことだよね。気合いで突き抜けると「何かを巻き込もう!」とかそんな打算的なことを意識しなくても、向こうから味方になってくれることもあるし、そこに投資してくれる人も出てくる。

──ニトロが突き抜けることができたのはなぜだと思いますか?

S-WORD 何も考えてなかったからじゃない? もともとは俺らのことなんて誰も注目してなかったハズだから、逆にシーンのしがらみとかいろんな面倒なことを気にしないで好き勝手できたんだと思うよ。あと同じ時期に、宇田川町に世界で一番レコードが集まっていたということもあって。「ここに世界一があった」感覚というか。結果、俺らはその恩恵を受けただけだと思う。みんなが投資したもの、それはお金だけじゃなくて、ヒップホップ含む音楽への情熱や労力が、たまたま俺らに少しだけ流れてきたんだよ。それだけのことだよ。

──タイミング的な追い風もあったと。でもこんな景気の悪い世の中でがんばってる人たちにしてみたら、夢がなさすぎませんか?

S-WORD たしかに俺らが夢みてたことは全部現実になったから、そういう意味では夢なんかないって思うところもある。とはいえ当時の俺らより今のやつらのほうががんばってるような気がするし。みんなすごくストイックでカッコいいと思う。でもB-BOYが思うヒップホップのカッコよさと、世間が求めるカッコよさというのは別物だからさ。そこを突き抜けるやつをみんなが待ってるんだよ。

──なるほど。

S-WORD まあそういうやつが出て来にくい世の中だとは思うよね。君の言う通り、景気はよくないし、社会全体がリスクを怖がってる感じもする。でもヒップホップに限らず、そのハイリスクを飛び越えちゃうやつがボーンって大金稼いじゃったりするわけじゃん。で、そのあと本人もとんでもないことになっちゃうみたいな(笑)。

──与沢翼みたいな。

DJ HAZIME

S-WORD そこは“誰?”でもいいんだけどね(笑)。でもリアルにそういうヤバいやつがいたら、俺らは「東京弐拾伍時」を出してないよ。この曲なんて2~3週間くらいのスピード感で作ったんだから。それでもある程度はカタチになっちゃう。曲単体で比べれば、全然KOHHとかのほうが今っぽいとも思うし。自分たちの曲を聴いて個人的には「クソダサいな」って思うんだけど(笑)。

DJ HAZIME そうなの!?(笑)

S-WORD いやいやジャパニーズFu○kin'謙遜スタイルですよ(笑)。とにかく若い子にはそんなに難しく考えないで、自分たちが気持ちいいと思うことをやってりゃいいんじゃない?と思うよ。もちろん、自己責任でね。「これ言ったらダメ」「あれやったらダメ」っていう範疇の中でヒップホップやっても楽しくないじゃん。

宇田川町のレコード屋から燃え広がった

──今後、ニトロとして何かやるっていうことはないんですか?

S-WORD わかんない。もう俺らが盛り上げる時代ではない気がする。「東京弐拾伍時」でみんなは「キターッ!」って言ってたかもしれないけど、来ないから。来るとしても、それは俺らじゃない。だってさ、俺らが「ニトロで再びシーンを盛り上げよう」って言ったらサムいでしょ(笑)。

──確かに(笑)。

S-WORD だから考えてもしょうがないんだよね。なるようになるっていうか。どうにもならないっていうか。でもね、俺らの上にはこういうデタラメで破天荒な人たちがいっぱいいたんだよ。「それ、全部運任せじゃん」みたいな理解できない生き方してる人が(笑)。

──では今シーンにいるアーティストたちに何か言いたいことはありますか?

DABO

S-WORD さっきさ、君は「成功の秘訣が運だけじゃ夢がない」って言ったじゃない? でもさ、当時の俺たちってのは、大手の芸能事務所が金積んでねつ造しようとしてもできないことを、宇田川町のいちレコード屋から燃え広がって実現させちゃったんだよ。今の時代だからそれができないって理由もないと思うし、運なんていつ転がってくるかわかんないしさ。そのほうが逆に夢があると思わない? それがヒップホップでしょ。

SUIKEN あと補足すると、なんもやってなかったら運も転がってこないですよ。

DABO お互いがんばろう!

──HAZIMEさんは?

DJ HAZIME 言いたいことはないですね。アドバイスなんてしたくないよ、だってライバルに向けて「がんばれ」なんて言えないでしょ。馴れ合いなんてクソ食らえですよ。

左からDJ HAZIME、S-WORD、DABO、SUIKEN。
V.A.「Manhattan Records "The Exclusives" Japanese Hip Hop Hits Vol.4」
2014年7月16日発売 / 2700円 / Manhattan Recordings / Lexington.Co., Ltd. / LEXCD-14016
収録曲 / アーティスト
  1. 東京弐拾伍時 / DABO, MACKA-CHIN, SUIKEN & S-WORD
  2. Interlude / DABO
  3. 45 Fingaz of Death(Remix) / NITRO MICROPHONE UNDERGROUND
  4. Double Trouble / SUIKEN
  5. ナゼナラ / キエるマキュウ
  6. Wonder Wheel / サイプレス上野とロベルト吉野
  7. Fade Away / RIP SLYME
  8. ウワサの真相 feat. F.O.H. / RHYMESTER
  9. Relax Mathaf**ka(23区別注) / G.K. MARYAN feat. MACKA-CHIN, GORE-TEX, GAMA
  10. Interlude / S-WORD
  11. Smokin' Blaff / S-WORD
  12. 夜ジェット / 雷
  13. DA・YO・NE / EAST END×YURI
  14. Interlude / SALU
  15. Spaceboy / SALU
  16. サッカー feat. JAY'ED / AKLO
  17. 23時各駅新宿 / NORIKIYO
  18. 何ひとつうしなわず / BRON-K
  19. O-Town Swinga / DOBERMAN INC.
  20. Let's Get It Started feat. Swizz Beats / ZEEBRA
  21. 夢の痕 / 般若
  22. 病む街 / MICROPHONE PAGER
  23. 字幕 / SOUL SCREAM
  24. HIGH-NEKKEN / 四街道ネイチャー
  25. 彼方からの手紙 / スチャダラパー
  26. 雨降りの月曜 / LIBRO
  27. イッサイガッサイ / KREVA
  28. ゆれる feat. 田我流 / EVISBEATS
  29. 雪ノ革命 / GAGLE
  30. ROLLIN'045 / OZROSAURUS
  31. ミチバタ / COMA-CHI
DABO, MACKA-CHIN, SUIKEN & S-WORD 配信シングル「東京弐拾伍時 」2014年7月9日配信開始 500円
「東京弐拾伍時 」
デジタル版ミックスCD「Manhattan Records Presents "Japanese Hip Hop Hits"(Special Edition)」
「Manhattan Records Presents "Japanese Hip Hop Hits"(Special Edition)」

左からDJ HAZIME、S-WORD、DABO、SUIKEN。

プロフィール(左から)
DJ HAZIME(ディージェーハジメ)

東京・渋谷を中心に国内外で活躍するクラブDJ。「Manhattan Records "The Exclusives" JAPANESE HIP HOP HITS」をはじめ数多くのミックスCDを手がけている。またプロデューサーとしては、SHAKKAZOMBIE、NITRO MICROPHONE UNDERGROUND、DABO、安室奈美恵、PUSHIM、MINMI、RYO THE SKYWALKERらに楽曲を提供。さらに2004年にはソロアルバム「AIN'T NO STOPPIN' THE DJ Vol.1」、2013年には「AIN'T NO STOPPIN' THE DJ Vol.2」をリリースした。最新作は「Manhattan Records "The Exclusives" JAPANESE HIP HOP HITS Vol.4」。

S-WORD(スウォード)

1975年生まれ、東京都出身のラッパー。NITRO MICROPHONE UNDERGROUNDの主要メンバーとして活躍する。メジャーデビュー作品は、2002年3月発売のシングル「KROSS OVA' <斬>」。これまでに「ONE PIECE」「STAR ILL WARZ」「KING OF ZIPANG」といった作品を発表する。CD+DVD仕様の「FORTUNE」では自ら監督を務めた映像作品も収められた。また、FORCE OF NATUREがアニメ「サムライチャンプルー」のサウンドトラックに提供した楽曲「日出ズルSTYLE」にSUIKENとともに参加。

DABO(ダボ)

1975年生まれ、千葉県出身のラッパー。NITRO MICROPHONE UNDERGROUNDの主要メンバーとして活躍する。インディーズでの活動を経て、2001年にシングル「拍手喝采」でメジャーデビュー。「THE FORCE」「HI-FIVE」など多数のアルバムを発表し、「デッパツ進行」など多数の人気曲を残した。また客演ラッパーとしてBoAやPUSHIMといったシンガーからキエるマキュウなどさまざまなアーティストと共演。ANARCHY、KREVAと共演したDJ HAZIME「I Rep」は日本のヒップホップシーンで大きな話題となった。

SUIKEN(スイケン)

1975年生まれ、東京都出身のラッパー。NITRO MICROPHONE UNDERGROUNDの主要メンバーとして活躍する。2000年にリリースされたシングル「ALKMAN」でメジャーデビュー。「SUIKEN PRESENTS SIXTEEN STARS」「STRAIGHT FROM THE UNDERGROUND」「HOT IN POT」「DEVELOPMENT」という4枚のフルアルバムを発表した。さらにSUIKEN×S-WORD名義でアルバム「HYBRID LINK」「MASTER LINK」という2作品を残している。