ナタリー PowerPush - MAGUMI AND THE BREATHLESS / MAGUMI×ハヤシ(POLYSICS)

いつまでも“ニューウェイブ”であること

特集最終回の対談相手はMAGUMIと10年以上の付き合いがあるPOLYSICSのハヤシ。この対談で彼らはお互いのバンドの共通点を“唯一無二”と表現し、自身のルーツやこれからの理想などを語ってくれた。

取材 / 大山卓也 文 / 清本千尋 撮影 / 中西求

POLYSICS=“すんげえ面白いバンド”

左からMAGUMI、ハヤシ。

ハヤシ ポリがまだ始まってそんなに経ってない頃……98年頃だったかな。LÄ-PPISCHに呼んでもらって初めて対バンしたんですよね。

MAGUMI そうだね。(杉本)恭一から「すんげえ面白いバンドがいるよ」って、POLYSICSを教えてもらって、それでもう興味津々でいつライブ観れるんだろうと思ってたの。それでこっちからライブに呼んで対バンすることになって。でも最初にライブ観たときはさっぱり意味がわからなかったんだよ。Devoが大好きな奴らがやってるっていうのはすぐにわかったんだけど、演奏中に食パンを飛ばしてくるんだもん(笑)。

ハヤシ そうですね(笑)。そのとき恭一さんに「お前は本当にギターを大事に弾かないな。いくら高いギターを使ってもお前が使うと高く見えない。いい意味でな」って言われて(笑)。

MAGUMI いや大丈夫。本人も全然大事に弾いてないよ。今はだいぶマシになったけどね(笑)。昔はメインだろうがなんだろうがお構いなしに扱ってて、まあ壊してもローディーが直してくれんじゃね?みたいな感じで(笑)。

ハヤシ あはは(笑)。当時偶然ローディーが同じ方だったんですよ。だからよくLÄ-PPISCHの話は聞かせてもらってました。それに対バンもその後何度かあったり、ポリのDJイベントに出ていただいたりとか。

MAGUMI あ、あと俺ね、サマソニ観に行ってるから意外とポリ観てんだよ。

ハヤシ え! マジっすか。ありがとうございます! 僕らもLÄ-PPISCHのライブあるときはメンバー全員で予定合わせて行くようにしてますよ。

MAGUMI ありがたいねえ。

無国籍なMAGUMIの音楽

ハヤシ アルバム聴かせていただいたんですけど、素晴らしかったです。LÄ-PPISCHのサウンドもそうなんですけど、MAGUMIさんの音楽って無国籍で時代を感じさせないですよね。しかもバラエティに富んでるのに、しっかりと一本筋が通っていてすごいなって思います。めちゃくちゃ楽しく聴けました。

MAGUMI 無国籍かあ。たぶん俺さ、形式美のメタル以外はなんでも音楽聴くから、いろんなものがごちゃまぜになっちゃうんだよね。

ハヤシ そうなんですね。あとアレンジもしっかりされていて聴き応えがありました。曲によっては落ち着いたりもするんですけど、盤で聴いたときにアグレッシブであふれでるパワーみたいなものをすごく感じたんですよ。どの曲も熱量が高くて聴いてて興奮しました。

MAGUMI 俺たちって毎週バンド練習してるのね。それを積み重ねて3年間でこのアルバムを作ってるからたぶん熱量が高く感じるんよ。

ハヤシ じゃあセッションしながら作っていくっていう感じですか?

MAGUMI

MAGUMI うーん、ケースバイケースだな。セッションで作ることもあったし、ある程度キーボードの奴が作ってきたものを合わせて、足りないところを足してみたりとか。

ハヤシ そのセッションで作ってる感じってめちゃくちゃ伝わってきましたね。デモがあってそれに重ねてるっていう感じではなくて、1つひとつのアレンジの駆け引きみたいなのが確かにあるのがわかるというか。だからMAGUMIさんのソロというより、MAGUMI AND THE BREATHLESSっていうバンドのアルバムって感じがすごくしました。

MAGUMI 本当はTHE BREATHLESSでいいんだけどさ、やっぱり一応今のところはMAGUMIってつけておかないと、そのまま世の中に埋もれていきそうで(笑)。

ハヤシ なるほど(笑)。あとジャケの感じを見るとThe Poguesっぽいのかなって勝手に思ったりもしたんですけど、実際はそうじゃないですよね。

MAGUMI ジャケットは友達に頼んで描いてもらったんだよ。とりあえず俺たちの作品を聴かせて「なんでもいいからサイケデリックで! 一切文句言わないから!」って言って(笑)。

ハヤシ それがジャケットに?

MAGUMI そう。それがジャケになったの。「予想とは違ったけどいいね」って言って。まあたぶんこれは見てるとなんか効き目があるんだろうなと思って(笑)。

ハヤシ あはは(笑)。

2人の詞の書き方とハヤシがMAGUMIを尊敬するわけ

ハヤシ LÄ-PPISCHって最初の頃はけっこうスカをベースとしたものをやってたと思うんですけど、途中からサイケなものとかジャンクなもの……ある意味ミクスチャー的なものをやりだしたじゃないですか。あとはもっとラウドロックみたいなアレンジを取り入れてみたりだとか。「FLOWER」が出た頃に、このバンドはもうすでにスカとかパンクっていうジャンルでくくれない存在になってるなっていうのを感じたんですよね。それって楽曲だけじゃなくて、詞にも理由があるなと思っていて。MAGUMIさんの詞って改めて見ると、ストーリー性がすごくありますよね。

MAGUMI それはたぶん昔から(上田)現ちゃんと恭一の間をとって作ってたからだと思うな。現ちゃんは文才がすごくある人で、恭一は感覚で書く人。2人とも全然違う詞を書くから現ちゃんの曲と恭一の曲みたいなのがすぐにわかっちゃってLÄ-PPISCHで作った1枚のアルバムなのに分離して聞こえちゃうんじゃないかなと思ってたんだよね。そこをうまいことつなげたいなっていうのが自分の中でいつもあって、バランスを取って書いてたら自然とこうなっていったよ。

ハヤシ なるほど。それを意識してまた聴き直すと面白いかもしれないですね。

MAGUMI 俺、実は詞書くの大っ嫌いなんだよね(笑)。だからうちのメンバーにも書いてもらいたいんだけど、みんなまだちょっと自信がないって言ってて。今回は俺が書いたんだけれど、みんな書きたくなったら勝手に書くんじゃないかな。ハヤシはどんなふうに詞を書いてる?

ハヤシ 僕は恭一さんと同じで感覚で書くタイプですね。

MAGUMI やっぱりね(笑)。それはライブを観ててもわかる。でもハヤシのすごいところは一貫してPOLYSICSっていうところよ。最初から今まで。

ハヤシ

ハヤシ あはは(笑)。ありがとうございます。

MAGUMI しかもあれはやっぱりPOLYSICSにしかできない技だから。ずっと唯一無二の存在であり続けてるんだと思うし。初期のスタイルは海外からの影響を受けてやってたと思うんだけど、きちんとハヤシの中でミクスチャーされてPOLYSICSの音楽になっててさ。だからそれがまたイギリスとかでウケてるっていうのはすごく面白いことだなって思うよ。

ハヤシ うれしいですね。でもそのミクスチャーの感覚はMAGUMIさんに影響されてるんですよ。テクノポップが基本ではあるけど、そこだけじゃなんか楽しくないなみたいな。ガレージやパンクの要素をもっとめちゃくちゃにやってもいいんじゃないかなって。

MAGUMI 実を言うと俺POLYSICSがテクノに聞こえたことは一度もない(笑)。どちらかというとガレージかパンクに聞こえるね。常に底辺には“ピコピコ”というものを置いて曲を作ってるっていうのはわかるんだけど、ライブスタイルも何もかもそういうイメージはまったくないよ。いわゆるロックバンドだと思ってる。

ハヤシ (笑)。昔フジテレビの「FACTORY」でLÄ-PPISCHプレゼンツの回があって、MAGUMIさんがPOLYSICSを呼んでくれたじゃないですか。そのときの対バンがBADFISHとAGGRESSIVE DOGSとLÄ-PPISCHっていうけっこういかつい感じで。その中でPOLYSICSってめちゃくちゃ浮いてたんですよ。でも逆にそこに呼んでくれたことが本当にうれしくて。で、そのあとMAGUMIさんがPOLYSICSの「NEU」を聴いてくれて、その感想が「ハヤシ、お前こんな変態なアルバム作ってどうするんだ」だったんですよ。それで僕、口では「すみません」って謝りながら心の中でガッツポーズしてました。

ニューアルバム「Demonstration」
2014年5月14日発売 / ATSUGUA RECORDS / 3240円 / ATS-52
収録曲
  1. Beautiful World
  2. Parting Dance
  3. Q Dub
  4. 死角のシルエット II
  5. Electric Discharge
  6. Demonstration
  7. 砂の家
  8. 水槽
  9. Abracadabra
  10. Back Yard
  11. トルコ行進曲
  12. Liar
  13. Good Bye Sunshine
ニューシングル「Electric Discharge」
2014年5月14日発売 / ATSUGUA RECORDS / 1080円 / ATS-51
収録曲
  1. Electric Discharge
  2. 死角のシルエット
  3. Ghost Town
MAGUMI AND THE BREATHLESS
(マグミアンドザブレスレス)

MAGUMI(Vo, Tp)、永井秀樹(G, Cho)、袴塚徳勝(B, Cho)、カサマツマサヨシ(Dr)、島本亮(Key, Sax, Cho)、直江誠治(Per)からなる6人組バンド。LÄ-PPISCHのフロントマンとして知られるMAGUMIのソロアコースティックユニットにリズム隊を加えて2009年に結成された。2011年に2枚のシングルと1stアルバム「delight」をリリース。その後3年間はライブを中心に活動してきた。そして2014年5月には2ndアルバム「Demonstration」とシングル「Electric Discharge」を2タイトル同時リリースする。

POLYSICS(ポリシックス)

POLYSICS

ハヤシ(G, Vo, Syn, Programming)、フミ(B, Vo, Syn)、ヤノ(Dr, Vo)からなるニューウェイブロックバンド。1997年、高校生だったハヤシを中心に結成。1999年にアルバム「1st P」をインディーズからリリースし、2000年にメジャーデビュー。独自の音楽性と過激なライブパフォーマンスで人気を集める一方、2003年にはメジャー1stアルバム「NEU」をアメリカでリリースし、初の全米ツアーも実施するなど海外での活動も本格化させる。2010年3月には初の日本武道館公演を実施し、初期メンバーのカヨ(Syn, Vo, Vocoder)がこのライブを最後にバンドを卒業した。以降は3ピースバンドとして活動を続け、バンド結成15周年を迎える2012年に記念アルバム「15th P」、翌年2013年10月にはミニアルバム「MEGA OVER DRIVE」を発表。2014年1月にはニューアルバム「ACTION!!!」をリリースした。


2014年5月16日更新