音楽ナタリー Power Push - マジカル・パンチライン

メンバーとサウンドプロデューサーが語る“魔法”の作り方

サウンドプロデューサー・Tom-H@ck ソロインタビュー

今の時代、中毒性はあって当たり前

──Tom-H@ckさんはミニアルバム全体にプロデューサーとして関わっているんですよね?

Tom-H@ck

はい。サウンドプロデューサーという立場で、作品全体を手がけさせてもらってます。ただマジパンに関してはグループ立ち上げの初期段階から関わらせていただいているんです。例えばこれまでも何かしらのコンテンツの音楽をまるまるプロデュースするようなことはあったんですけど、コンセプトのプロットから関わらせていただくことは初めてです。スタッフさんからは、グループのコンセプトや、豊富なアイデアをたくさん聞かせてもらって。あと、メンバーもみんな魅力的だし、いろんな要素が詰まったプロジェクトだなというのは最初から感じてました。それを楽曲にどう落とし込んでいくのかが、僕の役目なんです。今回僕は「Magiかよ!? BiliBili☆パンチライン」の作曲と編曲をさせてもらっているのですが、それだけじゃなくてアルバムを通して、どんな曲を入れるか、どういう曲順がいいかなど、全体のプロデュースも手がけています。

──どのようなところにポイントを置いてミニアルバムを作っていったんですか?

まず一番は大衆性、キャッチーさがあるということですね。商業音楽をやっている場合、これはもう絶対条件として中毒性があるというのは当たり前なんです。サトレナ(レナ)ちゃんが「中毒性がある」と言ってたけど、そこは僕ら作り手が強く意識している部分なんです。今回のアルバムではジャズ、オーケストラ、ロックといったからいろいろなジャンルの音楽を駆使して中毒性の基盤となる要素はそろえています。今はアイドル戦国時代ですから、さまざまなアイドルが手を変え品を変え中毒性のある楽曲を提示しているわけなんです。そんな中で楽曲のクオリティは一定のレベルを越えつつ、さらにマジパンならではのオリジナリティを提示しようとしています。

──ハードルの高さを感じながらも、それを越えていく面白さはありましたか?

ありますね。マジパンの話をいただいたときに、改めてアイドルの曲を真面目に勉強してみようと情報収集して。それとメンバーの写真やレッスンの動画をいち早く観させてもらったんです。そこで思ったのは、グループのイメージがスタイリッシュだなってこと。ちまたで話題になっているアイドルはビジュアル含め、「親しみやすさ」を重視しているユニットも少なくないのですが、マジパンはコンセプトや衣装も含めて、トータルで考えて「スタイリッシュ」って言葉がピンときたんです。そこからいろんなグループがさまざまなことをやっている中で、何が面白くて何が求心力があるのか、どういう音楽をやればいいのかを考えていきました。一番悩んだのは、既視感。どこかで観たことあるなっていうグループにはしたくなかった。新しいことをやりつつ、なおかつ中毒性があるものを狙わなければということを意識しました。

土台がしっかりしてると大人が遊べる

──具体的に「Magiかよ!? BiliBili☆パンチライン」を作曲する際に意識したことはありますか?

この曲では、音楽の音階でいう「ド」と「レ」の間にある「ド♯」のような音、いわゆる「クロマチックアプローチ」という音楽理論を取り入れてます。実はこの音、アイドルソングではあまり使われていないんです。なぜかというと、ちょっと不思議な空気感になってしまうというか、中毒性を生み出すのに邪魔になってしまうことがあるんです。でも、今回の「Magiかよ!? BiliBili☆パンチライン」ではあえてこの音をたくさん使っているんです。「ド♯」のような音を入れつつ、ほかの要素で中毒性を保つことにより、ジャズっぽさが出たり、うっすらと不思議な感じ、“魔法感”が漂うように狙っているんです。

──「魔法」というコンセプトが曲に反映されていると。

そうです。それと「Magiかよ!? BiliBili☆パンチライン」は、ミニアルバム全部の曲の要素を詰め込んだ楽曲なんです。ミニアルバムのリード曲でロック、ジャズ、オーケストラなど、さまざまなジャンルの音楽をやるグループなんだということを提示する。ほかの曲はそこまでブッ飛んでないんですけど、この1曲はいろんな要素を詰め込みまくった曲で、言い換えるとグループにとって名刺代わりになるような曲にしようと思いました。

──歌詞について何かこだわりはありますか?

今回は、コンセプトをはっきりさせたミニアルバムだし1人に作詞を任せたほういいと思ったので、僕と同じ事務所「TaWaRa」の作詞家のhotaruに全曲書いてもらいました。彼はコンセプトをしっかり受け止めて情報をまとめる作業が得意だから、この企画に合うなと思ったんです。基本的には曲を先に作って、あとで詞を書いてもらってますが、作業を進めるうえでhotaruとは楽曲のテーマを共有していました。なので、曲を先に書いてはいるけど、歌詞もほぼ同じタイミングで練り始めていた感じですね。マジパンのメンバーはデビュー前からニコ生の配信とかをやっていたんですけど、こういう見た目でこういうしゃべり方だから、こんな言葉を使ったらいいよねって話をしながら、歌詞を作っていたのは面白かったですね。

──いろんなジャンルのサウンドが楽曲に詰め込まれていますが、歌詞の書き手が1人であることによって、作品のストーリー性がブレずにつながっているんですね。

歌詞の世界観もそうですし、サウンド的にも収録曲順に聴いてもらって、作品全体の流れを楽しんでもらえるように作っています。やっぱりそこが一番凝ったところですね。最後は余韻に浸ってもう1回聴きたいと思ってもらえる構成になっています。

──サウンド面で印象的だったのは、エレクトロニックよりも生音が主体の音作りになっていることでした。

Tom-H@ck

「魔法」というコンセプトと相性がいいのは、エレクトロより例えばオーケストラ的なものだとか、生楽器を使った音楽なんじゃないかと思って。「小悪魔Lesson1・2・3♪」や「Prologueは摩訶不思議」はスウィング系のサウンドですけど、それぞれ音の積み方が違うんです。前者はロックの理論に基づいてブラスを積んでいて、後者はジャズやビックバンドの理論をもとにサウンドを作っています。

──「万理一空Rising Fire!」はハードロックとメタルの中間くらいの曲で、「Never Ending Punchline」はスピードメタル。同じロックの枠組みですが、細かくジャンルで分けていくと重なるものがないんですよね。

基本的には日本人が大好きなメロディラインをそれぞれのジャンルの音楽に当て込んで作っています。「Never Ending Punchline」は、最初のミニアルバムのトリを飾るわけだから、しっとり終わるより「次をお楽しみに!」って感じのガツンとした曲で終わりたくて。曲の最後もスネアのロールでステージから退場していくようなイメージで作っています。

──ある意味コンセプトアルバムというか、プログレのアルバムみたいな感覚がありますね。

そう思いますよ。大人が真剣に悪ふざけしてるようなところがあります(笑)。それはメンバーがかわいくて魅力的だっていう土台があるから。そこがしっかりしているからこそ、こちらも遊べるんです。

マジパンにしか出せない音楽が生まれる

──各メンバーについてどういう印象を持っていますか?

いい意味で純粋な感じが魅力的ですよね。最年少のリーナちゃんとヒマワリちゃんは、独特なアイドルの素質を持ってる。純粋な部分が、いい意味でアイドルっぽさを生み出しているんだなって。アンナちゃんは、大人が言ったことを自然と楽しめる子だし、ユーナちゃんは「自信がない」とか言うけど、自分の力で戦ってる強さを感じます。レナちゃんは俯瞰的に全体を見ているような、リーダー的な雰囲気がありますが、それと同時にストレートにすてきな魅力がある。それとメンバー全員にとてつもない伸び代を感じますから、これから成長していくのが楽しみですよね。

──メンバーの歌録りはどうでしたか?

レナちゃん以外は、レコーディング経験がないと聞いていたんですが、録ってみたら初めてとは思えないほどみんな上手に歌っていました。もちろんこれからやらなくちゃいけないことはあるけど、みんなそれぞれちゃんとしたポテンシャルを持っているなと感じました。メンバー全員が個性的な声を持っているし、今後さらに魅力的になるはずです。

──この先の構想はすでに考えていますか?

今はミニアルバムが出た直後ですから、リスナーの皆さんのレスポンスを吸収しているところです。僕がプロデュースするときはいつもそうなんですけど、作品を作るときは情報を詰め込んで、その反応を見てから次に何をしようかなって考える。その上で「裏切り」を展開して行く。次はインパクトがありつつ、さらに大衆性とオリジナリティを伴ったものをやろうと思っています。今回は最初ですし強気な感じで攻めたんですけど、次はいい意味でポピュラリティを増して求心力を上げるものをやりたくて。例えば、「Never Ending Punchline」のようなメタルっぽい曲をオーケストラアレンジで演奏したら、ものすごくファンタジックでキャッチーな雰囲気になるんじゃないかとか。いろいろ考えています。

──これからグループとしての展開も、メンバーの個性も、もっと出てくるでしょうし、リアルタイムでサウンドも進化していくわけですね。

マジパンだけにしか出せない世界観や音楽が、この先どんどん生まれてくると思います。ぜひ楽しみにしていただきたいですね。

ミニアルバム「MAGiCAL PUNCHLiNE」 / 2016年7月20日発売 / ポニーキャニオン
ベガ盤 [CD+DVD] 3500円 / PCCA-04398
アルタイル盤 [CD] 2000円 / PCCA-04399
デネブ盤 [CD+グッズ] 5000円 / SCCA-00043
収録曲
  1. Overture
  2. Magiかよ!? BiliBili☆パンチライン
  3. 小悪魔Lesson1・2・3♪
  4. Prologueは摩訶不思議
  5. 万理一空Rising Fire!
  6. Never Ending Punchline
ベガ盤DVD収録内容
  • 「Magiかよ!? BiliBili☆パンチライン」MV
  • マジカル・パンチライン ドキュメンタリー
マジカル・パンチライン
マジカル・パンチライン

モデルやタレントとしても活躍する佐藤麗奈(ex. アイドリング!!!)を中心に2016年2月19日に結成されたアイドルグループ。メンバーはレナ、リーナ、ヒマワリ、アンナ、ユーナの5人からなる。グループのリーダーであるレナ自身が衣装のデザインやメンバーの審査に携わり、“ガーリー×魔法”をコンセプトに活動を繰り広げている。2016年7月にメジャーデビューミニアルバム「MAGiCAL PUNCHLiNE」をリリースした。

Tom-H@ck(トムハック)
Tom-H@ck

サウンドクリエイター、プロデューサー。株式会社TaWaRaの代表取締役。SuG、ももいろクローバーZ、でんぱ組.inc、T.M.Revolutionといったアーティストの楽曲制作に携わっている。2009年に放送がスタートしたアニメ「けいおん!」にようされたさまざまな楽曲の作編曲を手がけ注目を集める。このほか自身もOxTやMYTH & ROIDのメンバーとしてアーティスト活動を展開している。