音楽ナタリー Power Push - マデオン×中田ヤスタカ(CAPSULE)

日仏エレクトロポップアーティストの邂逅

1人で作るからこそ生まれる独自性

──マデオンさんは楽曲制作のほぼすべてを1人で手がけてらっしゃるようですね。

マデオン

マデオン 海外のポップミュージックの制作には、とにかく大勢の人が関わっていることが多いんです。歌詞を書くのに5人、曲を書くのに5人、プロデュースするのに5人といった具合で。けれども中田さんにしても僕にしても、ほとんどすべてを1人で手がけているから、それぞれ独自の世界観を描くことができるのだと思います。

中田 僕も本格的に音楽をやり始めた頃は、サウンドメイクやアレンジなどをそれぞれプロに頼んでいたのでクオリティはすごく高かったけれど、どうもイメージ通りにならなかった。僕が大切にしたいのは、クオリティよりも頭の中にあるものがちゃんと形にできるかどうかなんです。

マデオン いろんな人が関わるとリスクがない代わりに、安全なものになる。つまりオリジナリティが減ってしまうというか……。

中田 そうそう。僕もデビューした頃は全部自分でやってたわけじゃなくて、分業制でレコーディングしていた。だから自分が作っていたときには「この音はこの曲の中でこの位置だな」と思っていても、ほかの人の手が入るから意図した音の位置が変わっていたり、「このフレーズの生かし方はこうじゃない」って思ってた(笑)。そうなるとすごく整うけれど、やり過ぎていたのが、すべてちょうどよくなってしまう。「やり過ぎ」をやりたかったのに、やり過ぎないで「程よく、程よく」みたいになってしまう(笑)。

制限時間を設けることで完成形が生まれる

──1人きりで楽曲制作をしていると、「これで完成です」という区切りを付けるのが、なかなか難しそうですね。

左からマデオン、中田ヤスタカ(CAPSULE)。

中田 僕は自分で決めていたら、いつまで経っても仕上がらないので、締め切りに関しては「この曲はこの日まで」と周りに決めてもらいます。

マデオン やっぱりそうなんだ。僕は毎年やっていることがあって。24時間の間に3曲をゼロの状態から完成させるというのを自分に課すんです。そうすると普段の自分なら絶対に書かないような曲ができたりするんですよね。締め切りを定めて、その制限時間の中で創造力を発揮することで新しい発見があるんです。

中田 締め切りがないと、ずっとリミックスしていくみたいな感じになって終わらない(笑)。

マデオン その上どんどん違うものになっていく(笑)。

中田 作ってる人は「完成型はこうだ」と、なかなか決められないものね。だから時間である程度は決めてもらわないと。

マデオン 僕はアルバムを作ったとき、けっこう締め切りを延ばし延ばしにしてしまって結局完成が大幅に遅れたんですよ。ツアーで世界各国を回ることも多かったので、どうしてもアルバム制作が中断してしまいがちになって。でもツアーに出るまでに「この1曲を仕上げるぞ」みたいに誓って、中途半端な状態では置きっ放しにしないよう努めました。でも「これで完成したぞ」と決断するのって本当に難しいです。

お互いのサウンドについて

──サウンド面でのお互いの共通点や、相違点はどういうところでしょうか?

中田ヤスタカ(CAPSULE)

中田 さっき海外のポップミュージックはシンプルという話が出ましたが、マデオンのトラックには音自体に切なさがある。僕は曲を作るとき、情緒感のある曲にしたいので、そういうところは共通してるんじゃないかなと思います。僕もそういうの好きだし。でもマデオンは緻密に曲を組み立てているのに、クールなだけじゃなくて衝動的な部分があるのをすごく感じますね。「ガッと感情が出ちゃった」みたいな(笑)。冷静に楽曲を構築していくだけではなく、衝動をトラックに反映させるような作り方をしているのがわかります。

マデオン 確かにそれはあります(笑)。中田さんの音楽を聴いていると、音楽理論などを理解しているのがわかるけれど、僕の場合はけっこう「たまたまこうなった」というフレーズを生かすことが多いんです。僕が中田さんのプロダクションですごく興味深いなと思うのが、最大限の音を詰め込んだ部分と、音が鳴らない静寂部分の対比とバランス感が絶妙なところなんです。

中田 いわゆる「抜き差し」的な。でもそれなら僕よりマデオンの方が得意じゃないのかな。

マデオン いやいや、そんなことないですよ。

マデオン
マデオン

フランス生まれのエレクトロポップアーティスト。1994年に生まれ、わずか11歳で作曲をはじめる。ネット上に音源のアップなどを通じて水面下で注目を集めはじめた頃に、フランスのリミックスコンテストで優勝。2011年、17歳の頃にYouTubeにて公開した39曲のポップソングをマッシュアップした作品「Pop Culture」は現在までに3000万回を超える再生回数を記録している。さらにLady Gaga、Coldplay、Muse、エリー・ゴールディングといったアーティストの楽曲を制作およびプロデュースした経験した経歴を持つほか、ダンスミュージックの祭典「ULTRA MUSIC FESTIVAL」や、野外音楽フェスティバル「Coachella Valley Music and Arts Festival」などの大型イベントへの出演も果たし、世界的なDJとして躍進を遂げた。2015年4月にデビューアルバム「Adventure」を発表した。7月に中田ヤスタカがリミックスを施した「Pay No Mind feat. Passion Pit – Yasutaka Nakata (CAPSULE) Remix」を日本で先行配信リリース。8月には「SONICMANIA 2015」「SUMMER SONIC 2015」に出演した。

中田ヤスタカ(CAPSULE)(ナカタヤスタカ)
中田ヤスタカ(CAPSULE)

2001年に自身のユニットであるCAPSULEにてCDデビュー。以降、Perfume、きゃりーぱみゅぱみゅのプロデュースをはじめ、アニメ映画「ONE PIECE FILM Z」オープニングテーマ曲や「LIAR GAME」シリーズのサウンドトラック、テレビ・ラジオ番組のテーマ曲制作など多方面にてに活躍している。昨今はカイリー・ミノーグやマデオンへのリミックストラック提供をはじめ、映画「スター・トレック イントゥ・ダークネス」の挿入楽曲に携わるなどグローバルに活動を展開。また自身主催によるレギュラーパーティを定期的に開催しているほか、大型フェスやファッションショーなどにも出演している。