ナタリー PowerPush - マチゲリータ

引きこもりV系ボカロP こだわり異色作を徹底解説

マチゲリータが、アルバム「I love Visualizm feat. 初音ミク produced by マチゲリータ」と「In Other Worlds produced by マチゲリータ」を同時リリースした。

マチゲリータは、ヴィジュアル系を思わせるダークでゴシックな「怖い系」「ホラー系」ボーカロイドサウンドの第一人者にして、雑誌「KERA」のコンピレーションアルバム「ケラ!ソン ~KERA SONGS 13th Anniversary Collection~」にプロデューサーとして参加し、メガマソのギタリスト・涼平と共演するなど、目覚ましい活躍をみせている気鋭のボカロP。そんな彼が今回放つ2枚はいずれも超異色作となっている。

「I love Visualizm」はマチゲリータが敬愛するヴィジュアル系バンドの楽曲をボーカロイドアレンジしたカバーアルバム。そして「In Other Worlds」は、これまでにニコニコ動画などで発表してきたマチゲリータのナンバーをヴィジュアル系バンドのボーカリストらの肉声と生演奏でカバーする、セルフプロデュースによるトリビュートアルバムだ。

ナタリー初登場となる今回はその横顔に迫るとともに、この2つの問題作の誕生秘話を語ってもらった。

取材・文 / 成松哲 撮影 / 佐藤類

友達がいないので(笑)

──ヴィジュアル系のマナーにのっとったボーカロイド曲を数多く発表しているマチゲリータさんですが、最初にハマったのはヴィジュアル系なんですか? それともボーカロイド?

インタビュー写真

ヴィジュアル系ですね。今21歳なんですけど、小学校2~3年生のときに、X JAPANのhideさんがちょうどソロ活動を始めて。当時仲の良かった友達のお母さんがX JAPANがすごい好きで、家に遊びに行くとhide with Spread Beaverの「ピンク スパイダー」をガンガンかけてたんですよ。その頃、親の車に乗ってるときにラジオでLUNA SEAとかも聴いていたので、それ以来、ヴィジュアル系というジャンルが気になりだして。中学でthe GazettEやMALICE MIZERなんかを知って完璧にハマったって感じですね。あと、音楽の話をするなら、昔、父親がバンドでドラムをやっていて、僕にもやらせたいからってドラムセットを買ったんです。小さい頃からそれを自宅で叩いたり、その流れで小学校の吹奏楽部でドラムをやったりもしていました。

──バンドを組んだりは?

いや、友達がいないので(笑)。一応友達と呼べそうな人は4~5人くらいはいるんですけど……。

──それだけいればバンドが組めると思うんですが。

ところが全員楽器にこれっぽっちも興味がなかったんですよね、これが。小学校から高校まで一緒だった友達だけは、高校入学と同時に軽音楽部に入ったんですけど、彼も彼でわずか1年で部活を辞めちゃいましたから。

──じゃあ、DTMで曲作りを始めたのは音楽友達がいなかったから?

友達がいないのは認めますけど(笑)、さすがにそれはまた全然別の理由です。音楽をやろうと思ったのは「beatmania」(音楽ゲーム)のアーケード版をプレイしていたからなんです。15歳の頃、ゲームセンターにすごい通ってて「beatmania」の中で使われている楽曲が気になったのをきっかけに、いろんなゲーム音楽を聴くようになって。そのうち「音楽を自分でもやりたいな」って思うようになり。DTMソフトの体験版をダウンロードして使ってみたら楽しかったので、ソフトを購入したっていうのが、打ち込みを始めたきっかけですね。まあ、本音を言えば一度くらいはバンドを組んでみたいし、それ以前に友達も欲しいんですけどね。なので、この記事を読んでくださる方にはぜひお友達になっていただきたいな、と。一緒にゲームをしてくれる方、ぜひともご連絡ください! あっ、ネットゲームで構わないので。会っていただかなくても全然構いませんので(笑)。

supercellをライバル視

──「beatmania」をきっかけにDTMを始めた15歳の少年は、まずどんな曲をコピーしてみたんですか?

やっぱりゲーム音楽なんですけど、なぜか「beatmania」ではなく「THE IDOLM@STER」(通称「アイマス」)の楽曲を(笑)。しかも、純粋なコピーではなく、カバーやアレンジだったんですよ。当時「beatmania」や「DrumMania」をプレイしていた流れで、同じく音ゲーの要素もある「アイマス」にハマって「カバーしてみよう」って思い立って、収録曲の主旋律とかイントロとか、印象的なフレーズを拾ってアレンジして遊んでました。あと、1分くらいのオリジナル曲を作って「muzie」っていう音楽配信サイトに投稿してみたり。

──当時からボーカロイドを使っていたんですか?

いや、最初のオリジナルはインストでした。その後、ボーカロイドを知ることになるんですけど、そのきっかけも実は父親で。父は仕事の帰りに家電量販店を見て回るのが好きで、多分DTMコーナーに行ったんでしょうけど、突然「人じゃないのに人が歌っているように聴かせることのできるソフトを見つけたんだけど、あれ何?」と言い出しまして。ちょっと調べてみたら「KAITO」と「MEIKO」っていうボーカロイドソフトがあって、今度「初音ミク」っていうバージョンも発売されるっていうことを知って、買ってみたんです。そして、オリジナル曲を作ってニコニコ動画に「電子」っていう曲を投稿してみたのが、始まりです。

──その曲の作風って今とは全く違いますよね?

インタビュー写真

そうですね。元々「beatmania」の影響で曲作りを始めてたこともあって当時はテクノやトランスをバンバンやっていたし、あとチップチューンが盛り上がっていたので、ミニマルテクノっぽいトラックにエフェクトがかかった声を乗せてみたらかわいいんじゃないかな、って感じで作ってみました。

──反響はいかがでした?

コメント数10件、再生89回、みたいな(笑)。一応、僕が「電子」を作った時期って、supercellのryoさんやOSTER projectさんが最初にボーカロイド曲を発表した時期とカブってるんですよ。言ってしまえば、ニコ動的には同期なんですけど、それだけに、まあ複雑でした……。というか、当時、ネットラジオをやっていて、その番組で「なんだよ、supercell」ってボソボソとつぶやくくらいには悔しかったですね(笑)。今、聴き比べてみるとクオリティの差は明らかだし、そもそも僕は当時、打ち込みを始めて9カ月目でしたから、あの反響は当然の結果なんですけど、やっぱりライバル心があったし、結果的に「いい曲を作ろう」っていうモチベーションになりました。

アルバム「I love Visualizm feat. 初音ミク produced by マチゲリータ」/ 2012年7月25日発売 / 2100円 /Victor Entertainment / VICL-63900

CD収録曲 / オリジナルアーティスト
  1. 涙猫 feat. 初音ミク / メガマソ
  2. 未完成サファイア feat. GUMI / 少女-ロリヰタ-23区
  3. Vanilla feat. 神威がくぽ / GACKT
  4. クライシスモメント feat. 初音ミク / MERRY
  5. アトリア feat. 鏡音リン / NoGoD
  6. 女々しくて feat. 初音ミク・鏡音リン・鏡音レン・巡音ルカ・GUMI・神威がくぽ・VY2 / ゴールデンボンバー
  7. BOYS&GIRLS feat. 鏡音レン / LM.C
  8. 夏恋 feat. 巡音ルカ / シド
  9. 黒い砂漠 feat. 巡音ルカ / jealkb
  10. スノーシーン feat. GUMI / アンティック-珈琲店-
  11. キスミイスノウ feat. 初音ミク / アヤビエ
  12. ニルヴァーナ feat. 鏡音リン / ムック
  13. 真っ赤な糸 feat. 鏡音レン / Plastic Tree
  14. ブルーフィルム feat. VY2 / cali≠gari
  15. lost graduation feat. 鏡音レン / Raphael

アルバム「In Other Worlds produced by マチゲリータ」/ 2012年7月25日発売 / 2100円 / フロンティアワークス / FFCV-0014

CD収録曲 / オリジナルアーティスト
  1. 淑女ベリィの作り方。/ 赤飯
  2. ロッテンガールグロテスクロマンス / みーちゃん
  3. サンセットラブスーサイド / マコト(ex. ドレミ團)
  4. ツギハギ惨毒 / 団長(NoGoD)
  5. 崩壊歌姫 -disruptive diva- / みーちゃん
  6. キャンディアディクトフルコォス / 赤飯
  7. 襟首 / 団長(NoGoD)
  8. 逆罪行進曲 / マコト(ex. ドレミ團)
  9. インアザーワールズ
マチゲリータ

プロフィール画像

1991年生まれのボーカロイドプロデューサー。2008年よりボーカロイドを使った楽曲をネットで公開し始め、楽曲のクオリティの高さや、耽美でゴシックなサウンドで注目を集める。自らオリジナル曲を歌うことも多く、歌唱力にも定評がある。2012年4月にファッション誌「KERA」のコンピレーションアルバム「ケラ!ソン ~KERA SONGS 13th Anniversary Collection~」にプロデューサーとして参加。同年7月にアルバム「I love Visualizm feat. 初音ミク produced by マチゲリータ」と「In Other Worlds produced by マチゲリータ」を同時リリースした。さらに同月に初の小説「暗い森のサーカス」も発表。