ナタリー PowerPush - マチゲリータ
引きこもりV系ボカロP こだわり異色作を徹底解説
大好きな曲なので最適なアレンジにした
──カバーアルバム「I love Visualizm」についてですが、アレンジと音色選びが楽曲ごとにまるで違っているのが印象的です。原曲や今のマチゲリータさんの作風に近い、生音をシミュレートしたアレンジもあれば、シンセベースを始め、いかにもな電子音をブリブリいわせるアレンジもある。アレンジのプランってどうやって練ったんですか?
僕の中にあるそれぞれのバンドや楽曲に対するイメージを膨らませてみた結果、という感じですね。例えばメガマソの「涙猫」だったら、バンドらしいシンプルな構成にリードシンセやベルの音を絡めた「完璧にヴィジュアル系です」っていうアレンジが似合うだろうとか、少女-ロリヰタ-23区の「未完成サファイア」だったら「涙猫」よりもう少しデジタル感を押し出したアレンジのほうがハマるだろうなってイメージしてみるところから作業を始めました。MERRYの「クライシスモメント」は、悲しくて暗くて重い感じだから、今の僕の作風に近いアレンジにしてみたらいいのかな、とか。どれも大好きな曲ばかりなので最適なアレンジにしたつもりではあるんですけど、結局、アルバムコンセプトや選曲と同じで、僕のワガママなんですよね(笑)。
──ワガママとはいえ最適化を心がけただけあって、どのアレンジも大胆ながらも楽曲にハマってますよね。特に面白かったのが「Vanilla」なんですけど、イントロのリードをすごくチープなシンセブラスで弾いてますよね。あの音を選んだのはなぜ?
あのシンセブラスって実は、ヴィジュアル系のカバーであることを意識した音使いなんです。特にインディーズのヴィジュアル系バンドの中にはチープなシンセブラスを効果的に使うバンドが結構いて、僕自身そういうバンドにかなり影響を受けているので、あえて「まんま」なことをやってみました。ヴィジュアル系をよく聴いているファンの方が、あのシンセブラスを聴いてニヤリとしてくれたらうれしいな、って。さっきワガママなんて言っちゃいましたけど、やっぱり僕はいちヴィジュアル系のファンなので。シンセブラスもそうなんですけど、ファンとして、いろんなジャンルのヴィジュアル系サウンドへの愛を盛り込みつつ、オリジナルなアルバムを作ったつもりではいます。レコーディング中、スタッフさんから「ブラスの音、安すぎない?」って言われも「いや、これでいいんです」って突っぱねるくらいには、音作りとアレンジにこだわりましたから(笑)。
本当に自信を持ってリリースできる
──もう一方の「In Other Worlds」で、まず気になるのは当然ボーカリスト陣です。人選の基準は?
まあ、もちろん僕のワガママですよね(笑)。生演奏と肉声で僕の曲をカバーするという企画が通ってから改めて自分の曲を聴き直してみて、ほかのボーカロイド系の楽曲に比べると、明らかにアクというか個性が強いことに改めて気付きまして。なので、楽曲にガッチリハマるーカリストさんをしっかり選びたかったんです。で、いろんなヴィジュアル系のバンドの曲を聴いてみたり、ニコ動をチェックしてみたりした結果、大好きなドレミ團のマコトさんとNoGoDの団長さん、それから「歌ってみた」の歌い手さんである、赤飯くんとみーちゃんだったら、自分の曲の世界観をしっかり表現してくれるだろうということになって、声をかけました。
──それぞれのボーカリストとは面識や接点はあったんですか?
ニコ動界隈の方とは会ってましたし、実は、マコトさんと団長さんともつながりがあったんですよ。アルバムの制作に入る少し前にマコトさんのTwitterをフォローして、一方的に「フォローさせていただきました」ってリプライを送ってみたら、実は僕のことを知ってくれていて。絶対に怒られるか、気持ち悪がられると思ってたのに(笑)。団長さんも、以前僕が雑誌の「Gekkayo」で書いた、ヴィジュアル系のオススメバンドやオススメ曲、それこそNoGoDや「I love Visualizm」でカバーしたメガマソなんかを紹介するコラムを読んでくれたらしくて、Twitterでフォローしたら「コラムで取り上げていただいてありがとうございます」ってお返事をもらったんです。ちょっと話がそれますけど、メガマソのギタリストの涼平さんともそのコラムがきっかけで、去年「ザタワーオブデカダン」っていう曲を一緒に作りましたし、友達が少ないことにめげずに音楽をやっててホントに良かったな、ネットとTwitterがあってホントに良かったな、と。家から出ないタイプの僕でもいろんな方と連絡を取り合って交流できるようになりましたから(笑)。
──ようやくお友達ができましたか(笑)。しかも、シンプルなバンドサウンドと肉声でアレンジしたことによって、マチゲリータさんの言葉遣いやメロディの面白さが際立つと同時に、原曲とはまた違うヘビーさやダークさを漂わせたアルバムになりましたよね。
ええ。「I love Visualizm」ももちろんそうなんですけど、本当に自信を持ってリリースできる1枚になったと思っています。
──あと、ラストナンバー「インアザーワールズ」ではマチゲリータさん自身も歌ってますよね。他人に歌ってもらったアルバムをリリースするくらいだから、てっきり歌に自信がない方なのかと思ってたんですけど「なんだよ、歌うまいんじゃん!」ってビックリしました。
あはははは。ありがとうございます! レコーディング中は後悔しっぱなしだったんですけどね。
──いざ歌うことになってビビったとか?
いや、歌うこと自体は自分の決めたことなので全然問題なかったんですけど、曲順がちょっと……。「インアザーワールズ」の前に入ってるのが、大ファンであるマコトさんの「逆罪行進曲」なんですけど、レコーディングブースに入った瞬間、そのことに気付いて。「あれっ!? オレの前、マコトさんだ。ヤベーな」ってなりながら歌を録ったんです(笑)。僕名義のCDだから、もちろん胸を張って歌ったし、そういう先輩ミュージシャンに負けないくらいの説得力を持って歌おう、という思いを込めたつもりもあるんですけど、あのときはちょっとビビりましたね。
アルバム「I love Visualizm feat. 初音ミク produced by マチゲリータ」/ 2012年7月25日発売 / 2100円 /Victor Entertainment / VICL-63900
CD収録曲 / オリジナルアーティスト
- 涙猫 feat. 初音ミク / メガマソ
- 未完成サファイア feat. GUMI / 少女-ロリヰタ-23区
- Vanilla feat. 神威がくぽ / GACKT
- クライシスモメント feat. 初音ミク / MERRY
- アトリア feat. 鏡音リン / NoGoD
- 女々しくて feat. 初音ミク・鏡音リン・鏡音レン・巡音ルカ・GUMI・神威がくぽ・VY2 / ゴールデンボンバー
- BOYS&GIRLS feat. 鏡音レン / LM.C
- 夏恋 feat. 巡音ルカ / シド
- 黒い砂漠 feat. 巡音ルカ / jealkb
- スノーシーン feat. GUMI / アンティック-珈琲店-
- キスミイスノウ feat. 初音ミク / アヤビエ
- ニルヴァーナ feat. 鏡音リン / ムック
- 真っ赤な糸 feat. 鏡音レン / Plastic Tree
- ブルーフィルム feat. VY2 / cali≠gari
- lost graduation feat. 鏡音レン / Raphael
アルバム「In Other Worlds produced by マチゲリータ」/ 2012年7月25日発売 / 2100円 / フロンティアワークス / FFCV-0014
CD収録曲 / オリジナルアーティスト
- 淑女ベリィの作り方。/ 赤飯
- ロッテンガールグロテスクロマンス / みーちゃん
- サンセットラブスーサイド / マコト(ex. ドレミ團)
- ツギハギ惨毒 / 団長(NoGoD)
- 崩壊歌姫 -disruptive diva- / みーちゃん
- キャンディアディクトフルコォス / 赤飯
- 襟首 / 団長(NoGoD)
- 逆罪行進曲 / マコト(ex. ドレミ團)
- インアザーワールズ
マチゲリータ
1991年生まれのボーカロイドプロデューサー。2008年よりボーカロイドを使った楽曲をネットで公開し始め、楽曲のクオリティの高さや、耽美でゴシックなサウンドで注目を集める。自らオリジナル曲を歌うことも多く、歌唱力にも定評がある。2012年4月にファッション誌「KERA」のコンピレーションアルバム「ケラ!ソン ~KERA SONGS 13th Anniversary Collection~」にプロデューサーとして参加。同年7月にアルバム「I love Visualizm feat. 初音ミク produced by マチゲリータ」と「In Other Worlds produced by マチゲリータ」を同時リリースした。さらに同月に初の小説「暗い森のサーカス」も発表。