ナタリー PowerPush - マチゲリータ

引きこもりV系ボカロP こだわり異色作を徹底解説

ボーカロイドでもダークな世界観を表現できる

──初投稿が再生89回だったのが、今や100曲以上の楽曲を発表し、総再生回数1000万以上を誇る人気ボカロPになりました。ターニングポイントはどこにあったと思います?

インタビュー写真

4年前の「おかあさん」って曲を作った頃だと思います。元々ヴィジュアル系っぽいダークな楽曲を作りたいと思っていたんですけど、当時の機材や音源はトランスやテクノを作るためのものばかりだったので、バンドサウンドをやるのはちょっとムリだったんですよ。だから、ヘビーなリズムのテクノ系のトラックの上に、主人公がお母さんに襲われるという怖めの歌詞を乗せた「おかあさん」を作ってみたら、メチャメチャ反響があったんです。それがきっかけで「あっ、ボーカロイドでもダークな世界観を表現できるな」って、ちょっと自信を持てるようになって。そのあと、生楽器系の音源を集めて、ゴシック系の「暗い森のサーカス」という曲や、その曲と同じ世界観や物語を持つロック系の曲なんかをいくつか作ってみて「ボーカロイドでヴィジュアル系のロック」という今の作風を確立できたって感じですね。当時、ボーカロイドに怖いメロディを歌わせる人がいなかったので、面白がって「怖い系」なんて呼んでいただくようになりましたし。

──最近ではボーカロイドのコンピレーションアルバムに楽曲を提供したり、「ケラ!ソン」にプロデューサーとして参加したりしていますが、そういう商業ベースでの創作活動を展開するようになったのも、そうやってアクセスが集まって注目されるようになったからですか?

そうだと思います。2008年に知り合いのクリエイターさんの紹介で、今お世話になっている事務所に声をかけてもらいましたから。当時、男性ボーカルの方に僕の曲を歌ってもらうユニットがあって、そのユニットを使った企画をいろいろ考えてくれて。それ以降商業のお仕事をしています。

人と話したり会ったりするのがとにかく苦手

──今から4年前ということは、当時16~17歳ですよね。いきなり見ず知らずの大人に「会って話をしませんか?」って言われたときってどんな気持ちでした?

とにかく緊張しっぱなしでしたね。というか、今、それなりにきちんとお話しできていると思うんですけど、こういうふうになったのって実は6月頃なんですよ(笑)。

──へっ!? 今年の6月ですか?

ええ、ほんの1~2カ月前ですね。それまでは、今の事務所の方と初めて顔合わせしたときと全く一緒。打ち合わせで誰かと会うときは、ずーっと黙ってる上に、常に汗で背中がビッチョビチョでしたから。ちょっと度が過ぎるくらいの引きこもり体質だったので、人と話したり会ったりするのがとにかく苦手で……。面識のあるアーティストさんやクリエイターさんにライブのインビテーションをいただいても「緊張するから、外に出られない」ってお断りしちゃうくらい、人と会うのがダメだったんです。

──それがなぜ急に克服できたんですか?

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今回、レコーディングの現場を経験したおかげだと思います。一応「自分名義のアルバムなんだから、オレがちゃんとしなきゃ」って意識はありましたし、アルバムを完成させたことがすごい自信になりましたから。ただ、急に覚醒したから、そのときスタジオにいなかったスタッフの方に会うとビックリされるんですよ。「えっ、なんでしゃべってるの!?」「この2週間で何があったの!?」って(笑)。

──でも、ニコ動系のクリエイターって、コラボ企画を展開したり、結構横のつながりが強いですよね。実際、マチゲリータさんもユニットを組んでいたし、ライブのお誘いを受けている。そうやってユニットのメンバーやほかのクリエイターの方とお付き合いしていれば、おのずとコミュニケーションスキルも身に付きそうなものですけど。

今でこそちょっと違いますけど、ずいぶん長い間、クリエイターさんとのお付き合いってほとんどなかったんですよ。ちょうど今の事務所の人に声をかけてもらった頃、同人誌即売会でほかのクリエイターさんたちとブースを並べて音源を売ったりもしてたんですけど、僕は16~~17歳じゃないですか。年齢が年齢だけに即売会のあとの打ち上げに参加できないんですよね。しかも、自宅が都心からちょっと遠かった上に、門限もあって。「18時半には家に帰って来い」と。居酒屋での打ち上げには参加できないわ、家は遠いわ、門限があるわってことで、夕方に即売会が終わったら、みんなは飲みに行ったりするのに、僕は1人で帰るしかない。そのせいで引きこもりにも拍車がかかる、と(笑)。そんな調子だったから、ユニットのボーカリストも直接面識があったわけじゃなくて、ニコ動の「歌ってみた」を巡回して見つけた方なんです。

僕のワガママを聞いてもらった

──引きこもったのは、若い才能だったが故でしたか(笑)。ところが、今回リリースする「I love Visualizm」と「In Other Worlds」には、およそ友達が少ない人のアルバムとは思えないほどの豪華メンバーが参加してます。

言われてみれば、そうですね(笑)。

──しかも、挑戦的な2枚ですよね。「I love Visualizm」がヴィジュアル系の楽曲をボーカロイドでカバーしたアルバムで、「In Other Worlds」がマチゲリータさんのボーカロイド曲を、ヴィジュアル系を中心としたボーカリストの肉声と生演奏でカバーするトリビュートアルバム。どちらも、人気ボカロPが満を持してリリースするソロデビュー盤としてはかなり珍しい内容になっています。

簡単に言ってしまえば、僕のワガママを聞いてもらっただけなんですよ。確かにソロデビューにあたって、ネットで人気だった曲をスタジオレコーディングすることでリファインして1枚のアルバムを作ることもできたんだとは思います。実際、そういうアルバムをリリースしているクリエイターの方は多いし、素晴らしい作品も多いので、そのこと自体をどうこう言うことはできないんですけど、僕はネットで聴ける自分の曲を改めてCDという形で欲しいとは思えなかった。それよりももっと楽しいこと、新しいことをしてみたかったんですよね。なので、元々ヴィジュアル系が好きで、歌い方や楽曲の表現方法に関してはかなり大きな影響を受けていることだし、そのヴィジュアル系とボーカロイドを絡めた企画をやってみよう、という話をしてみたんです。

アルバム「I love Visualizm feat. 初音ミク produced by マチゲリータ」/ 2012年7月25日発売 / 2100円 /Victor Entertainment / VICL-63900

CD収録曲 / オリジナルアーティスト
  1. 涙猫 feat. 初音ミク / メガマソ
  2. 未完成サファイア feat. GUMI / 少女-ロリヰタ-23区
  3. Vanilla feat. 神威がくぽ / GACKT
  4. クライシスモメント feat. 初音ミク / MERRY
  5. アトリア feat. 鏡音リン / NoGoD
  6. 女々しくて feat. 初音ミク・鏡音リン・鏡音レン・巡音ルカ・GUMI・神威がくぽ・VY2 / ゴールデンボンバー
  7. BOYS&GIRLS feat. 鏡音レン / LM.C
  8. 夏恋 feat. 巡音ルカ / シド
  9. 黒い砂漠 feat. 巡音ルカ / jealkb
  10. スノーシーン feat. GUMI / アンティック-珈琲店-
  11. キスミイスノウ feat. 初音ミク / アヤビエ
  12. ニルヴァーナ feat. 鏡音リン / ムック
  13. 真っ赤な糸 feat. 鏡音レン / Plastic Tree
  14. ブルーフィルム feat. VY2 / cali≠gari
  15. lost graduation feat. 鏡音レン / Raphael

アルバム「In Other Worlds produced by マチゲリータ」/ 2012年7月25日発売 / 2100円 / フロンティアワークス / FFCV-0014

CD収録曲 / オリジナルアーティスト
  1. 淑女ベリィの作り方。/ 赤飯
  2. ロッテンガールグロテスクロマンス / みーちゃん
  3. サンセットラブスーサイド / マコト(ex. ドレミ團)
  4. ツギハギ惨毒 / 団長(NoGoD)
  5. 崩壊歌姫 -disruptive diva- / みーちゃん
  6. キャンディアディクトフルコォス / 赤飯
  7. 襟首 / 団長(NoGoD)
  8. 逆罪行進曲 / マコト(ex. ドレミ團)
  9. インアザーワールズ
マチゲリータ

プロフィール画像

1991年生まれのボーカロイドプロデューサー。2008年よりボーカロイドを使った楽曲をネットで公開し始め、楽曲のクオリティの高さや、耽美でゴシックなサウンドで注目を集める。自らオリジナル曲を歌うことも多く、歌唱力にも定評がある。2012年4月にファッション誌「KERA」のコンピレーションアルバム「ケラ!ソン ~KERA SONGS 13th Anniversary Collection~」にプロデューサーとして参加。同年7月にアルバム「I love Visualizm feat. 初音ミク produced by マチゲリータ」と「In Other Worlds produced by マチゲリータ」を同時リリースした。さらに同月に初の小説「暗い森のサーカス」も発表。