マカロニえんぴつ「hope」特集 はっとり×奥田民生|“バンドの教科書”ユニコーンから学んだ、真面目すぎないフルアルバム

奥田民生節

──はっとりさんは曲作りに際して、ユニコーンや民生さんの楽曲を参考にすることもありますか? マカロニえんぴつのファンの間では、「ヤングアダルト」がユニコーンっぽいと言われていますが。

はっとり それ、最後の「愛を集めてる」の歌い方ですよね? この曲に限らず、全曲、民生さん節が入ってますけどね(笑)。

奥田 (「ヤングアダルト」を聴きながら)ユニコーンっぽいとは思わないけどね。いろいろ混ざってるというか。

はっとり そうですね。Mr.Childrenの桜井(和寿)さんに似てるって言われることもあります。あとバンド仲間にも民生さんの歌い方が好きなヤツはいっぱいいて、「それは似すぎだろう!」と言うこともあります(笑)。

奥田 歌い方も変わってきてるけどね。昔はビブラートをかけることもあったんだけど、「自分っぽさって何だろう?」と考えているうちに、めんどくさくなって真っ直ぐ歌うようになって。楽器の一部、アレンジの一部みたいな感じもあるんですよ。歌は目立つけど、目立たないところがあってもいいというか。例えばロングトーンで伸ばすところはキーボードと重ねたり。

はっとり(マカロニえんぴつ)

はっとり なるほど。僕は具体的なフレーズなどをマネするというより、「どうやったらこの曲の雰囲気になるだろう?」ということを考えることが多いですね。あと、民生さんやユニコーンのメンバーの皆さんがどんな音楽を聴いてきたかに興味があって。その流れでLed ZeppelinやAC/DCも聴いたし、特にElectric Light Orchestraにはどっぷりハマりました。ユニコーンのルーツになっているバンドだと思うし、オマージュのやり方がイケてるんですよね。ロック愛、音楽愛が滲み出ているし、それはバンドをやることの醍醐味だと思うので。ユニコーン以外で民生さんが作った曲もそうで、例えばPUFFYの初期の曲は、かなりThe Beatlesに寄せてるじゃないですか。

奥田 そうね(笑)。

はっとり レコーディングでも、RICKENBACKER(The Beatlesのメンバーが好んで使ったギターやベースのブランド)を使ってるんですよね?

奥田 そう、あそこにあるギターも(ヘロスタジオの壁にかけてある青色のRICKENBACKERを指さして)。ショートスケールのホロウボディで、何気に珍しいんですよ。買ったのは20年くらい前。そのときはSGが欲しかったんだけど、同じ店にあのギターが置いてあって、意外と安かったから(笑)。弾いてみると、ホントにThe Beatlesみたいな音がして、これはいいなと。曲を聴いて「こういう感じでやりたい」と思ったら、楽器からそろえないとね。

はっとり 再現するためには……。

奥田 形から入るというかね。ギターをいっぱい持ってるのは、そういうことなんですよ。ギターをたくさん所有したいわけではなくて、「こういう音を録りたい」と思って、そのために必要なギターを購入するっていう。録り方もそうだよね。「どうやってレコーディングしてるのかな?」と調べて、試してみて。80、90年代はどんどんデジタルが入ってきたんだけど、「もしかしたら、アナログのほうがいいんじゃない?」って戻したりね。今はデジタル機材が発達しているから、それはそれでいいんだけど。

はっとり プラグインのギター音源も充実しているし、やりたい音に簡単に寄せられますからね。そういう状況はどう思いますか?

奥田 いい音だったら、それでいいと思うけどね。あとは選ぶ側のセンスかな。よく言ってるんだけど、機材のクオリティが上がったことで、「曲は違えど、みんな同じような音で録ってる」ということが起きてる気がして。逆にしょぼい機材を使ってるヤツのほうが、目立ったりとかね。

左からはっとり(マカロニえんぴつ)、奥田民生。

本物の音

──実際、音像やサウンドデザインが似ている曲が大量に存在していますからね。

奥田 そうですよね。例えばギターにしても、昔はアンプの前にマイクを立てて、ギターを弾いて録ってたわけじゃない? 弾く人、録る人によって音が全然違うし、それがバンドの個性になってたんだけど、今はそういう違いは出にくいよね。「BOOM」と最近のアルバムを比べると、音が全然違うでしょ? 「BOOM」のレコーディングをしてた頃は「なんでこんな音になっちゃうんだろう」って思ってた。

はっとり 「BOOM」のレコーディングは思い通りにならなかったと。

奥田民生

奥田 今は気にならないけどね。「だって、何も知らなかったから」って言えるから。その後レコーディングを重ねて、音のことがいろいろとわかってきて、できることも増えて。本物の音を知ってるから、プラグインの音も「これはいい、これは悪い」って判断できるのかもね。

はっとり アレンジに関してはどうだったんですか?

奥田 ユニコーンの最初の頃は、デモテープをカセットMTRで作ってた。中学生の頃から多重録音が好きで、ラジカセ2台とマイクでしょぼいピンポン録音をやってたんだけど、高校のときにスタジオでバイトして、そこにあったMTRを触り出したんだよね。作った曲をギター1本の弾き語りでメンバーに聴かせてもいいんだけど、ある程度、音が入ってたほうがわかりやすいでしょ。

はっとり そうですね。僕も中学のときに宅録を始めました。最初は無料のソフトを使ってましたね。しばらくはしっかりアレンジしたデモを作ってたんですけど、メンバーに任せたいと思い始めて、そこまでガチガチに作り込まなくなって。ここ2年くらいですね、バンドでアレンジするのが楽しくなってきたのは。

奥田 ソロとバンドの両方があるのがいいんだよね、俺は。アレンジを作り込むのはソロのほうでやればいいし、そこは自由っすね。

はっとり ユニコーンではバンドでしかやれないことを?

奥田 そうそう。みんないろんなことを言うしね。「その日一番元気なヤツに任せよう」みたいな感じでやってます(笑)。