ナタリー PowerPush - 坂本真綾
内澤崇仁(androp)との初コラボ 新たな出会いがもたらす刺激と変化
想像力があるからこそ人間は豊かに生きていける
──歌詞は曲の完成を受けてから?
そうですね。
──「レプリカ」は聴いていてハッとする表現が多々ありました。「人類の失敗は望んだこと」みたいな言葉使いや表現は“作詞家・坂本真綾”にとっての新境地だなと感じたのですが。
脚本からインスパイアされたところも大きいんですけど……以前から一度テーマとして書きたいと思っていたことがこの曲ならできるかなって。今まではちょっと説教くさかったり、大風呂敷すぎて形にできなかったものが、このメロディになら乗せても受け止めてもらえるんじゃないかと思ったんです。
──突き抜けたサビで「人類の欠点は見えもしないくせに愛とか絆とか信じられること」というフレーズを、しかも明るめなトーンで歌っているというのがすごいですよね(笑)。
あははは(笑)。CMスポットでサビだけ聴くとどんな曲に聞こえるんだろう(笑)。私がここで描きたかったのは、欠点は才能になり得たり、イコール個性だったりするんじゃないかってことだったんですよね。ないものをあるように扱える動物なんてほかにはたぶんいなくって。ここには絆や信頼があるとか、未来を想像して今はこうしておこうとか、人間って見えない概念への思いが強いですよね。そんなこと考えなくてよければ世の中もっとシンプルでわかりやすいのに。でもそんな想像力があるからこそ、人間は面白く豊かに生きていけるんだと思うし、それはやっぱり人間の長所なんだということが書きたかったんです。「最後に残るもの」は、やっぱり「光」であってほしいというか。
──決して言葉数は多くはないのに、込められた思想や情報が今まで以上に密に、詩的な表現で説明されているように感じたんですよ。作詞家としてまた新たな段階に突入したのかなという。
言いたいことがはっきりとあるだけに、納得できる完成型に持ち込むまではけっこう苦労したんですよ。前作からたった半年後のシングルですけど、私の中ではものすごくひさしぶりに作詞している感覚があって。間にミュージカルに専念していた時期もあって、音楽制作とはまったく違うことをやる時期がワンクッションあったからか、なんだかものすごくひさしぶりな気がしたんです。すっごく苦しんだけど、やっぱり私は作詞が好きなんだと改めて感じた曲ですね。
「坂本真綾に書きたい曲」ってなんですか?
──そして一方のカップリング曲「coming up」ですが、まさか2作連続でバンアパ原さんとのコラボが実現するとは(笑)。
ねえ。たぶん原さんも「また?」って思ったんじゃないでしょうか(笑)。前作でとてもいいコラボレーションができて仲良くもなったし、改めて。前作はアニメとのタイアップで「こういう曲にしたい」という明確なイメージがあった中で作ってもらいましたけど、今回はもともと私の曲を好きで聴いてくださっていた原さんが思う「坂本真綾に書きたい曲」ってなんですか?っていうテーマで丸投げして。しかも「レプリカ」を聴いてもらった上で「これのカップリングです」と。
──あー、それは面白いですね。
少しシリアスな曲が1曲目に来るので、それをちょっと中和するような軽さがほしいかな、とだけお願いしました。
──さすが坂本真綾のヘビーリスナーというか(笑)、これまでさまざまなパターンの音楽に挑戦してきた坂本さんが意外にも一度もやっていないタイプの曲、というピンポイントを突いてきた印象でした。ファンならではの感覚だなと(笑)。
あはは(笑)。原さんは「プラチナ」が好きだと言ってたし、明るくかわいいものが来るのかなと思っていたので、こうきたか!という意外な第一印象でした。
──原さん自身はどうおっしゃっていましたか?
やっぱり最初はいろんなアプローチを試したそうなんですよ。人生でもっとも産みの苦しみを味わったんじゃないかというぐらい煮詰まったらしくて。実際予定していた締め切りを過ぎても音沙汰がなく(笑)。「作ってる間に7回泣いた」って言ってましたけど。
──泣いた?
本当かどうかわかんないけど、声を上げて泣いたって言ってました(笑)。「こんなふうな曲を」というオーダーがあったほうがきっとラクなんですよね。自由にということになると、無限の可能性があるから。でもそんなに苦しんだとは思えないぐらい、サラッとした曲が上がってきて。本当に今までなかった部分を突いてくれたし、すごく気分に合いますね。「レプリカ」はどちらかと言うとアニメの世界観にも合わせて、青臭さも恐れないという気持ちで書きましたけど、「coming up」はまさに今の私の気分に沿っていて。年齢感だったり、こうありたいと思うような力の抜き具合だったり。「レプリカ」とのバランスを考えてもすごくいいなって思います。
“寄る辺のない人々”の直感的なダンスミュージック
──バンドサウンドで作られてはいるものの、ダンスミュージックとも言える曲で。坂本さんのこれまでの音楽になかったのが、このフィジカルで直感的なダンスミュージックという要素だと思うんですね。頭の中で思いをめぐらすよりも、直感的に体が反応する音楽というか。
道端や浜辺でバンドが急にやりだしても踊れる曲というか、そういう不思議な吸引力がある曲だと思っていて。曲としてはずっと一定のテンションなんだけど、ミックスをしていても「このエンディング、あと5分あってもいいかも」って思えるぐらい気持ちよくて。ループ感がクセになるような曲ですね。
──言葉選びも「レプリカ」とは対照的に、スッと流れるような言葉を乗せているような印象でした。音に体をゆだねることを最優先したような。
そうですね。「レプリカ」でけっこう言いたいことは言い切っているので(笑)、なんにも考えないで聴ける曲を目指したんですよ。難しいことは言わないぞって決めて書きました。
──それでも「寄る辺のない人々」とかフックは用意されていますけどね(笑)。ダンスミュージック的なパーティ感はなくて。
そっちに寄っちゃうとたぶん恥ずかしくて歌えなくなっちゃうんですよ(笑)。私が踊るタイプの人間ではないし。でも、そういう言葉遊びがしたくなる曲なんですよね。ライブでやったら、きっと想像以上にアガる曲になっているんじゃないかと思います。
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- ニューシングル「レプリカ」 / 2014年8月20日発売 / FlyingDog
- 初回限定盤 [CD2枚組] 1944円 / VTZL-85
- 通常盤 [CD] 1188円 / VTCL-35190
CD収録曲
- レプリカ
[作詞:坂本真綾 / 作曲・編曲:内澤崇仁 / ストリングス編曲:内澤崇仁・石塚徹] - coming up
[作詞:坂本真綾 / 作曲・編曲:原昌和] - レプリカ -Instrumental-
- coming up -Instrumental-
初回限定盤特典 ミニライブアルバム「DUO」収録曲
- プラチナ
[作詞:岩里祐穂 / 作曲:菅野よう子] - Be mine!
[作詞:坂本真綾 / 作曲:the band apart] - ねこといぬ
[作詞:坂本真綾 / 作曲:菅野よう子] - シンガーソングライター
[作詞・作曲:坂本真綾]
坂本真綾(サカモトマアヤ)
1980年3月31日生まれ。幼少時より劇団で活動し、1996年にテレビアニメ「天空のエスカフローネ」のオープニングテーマ「約束はいらない」で歌手デビューを果たした。声優、女優としても活躍しながら、コンスタントにオリジナル作品を制作している。2012年11月にはシングルコレクションアルバム第3弾「シングルコレクション+ミツバチ」を発表。同年12月31日には東京・中野サンプラザにて初のカウントダウンライブを行った。2013年3月には全曲の作詞・作曲を自ら手がけた最新アルバム「シンガーソングライター」、同年7月には大貫妙子が作詞・作曲を手がけたニューシングル「はじまりの海」を発表した。2014年2月にはthe band apart、鈴木祥子とのコラボレーション楽曲を含む3曲入りシングル「SAVED. / Be mine!」をリリース。8月にはandrop内澤崇仁との初コラボとなるニューシングル「レプリカ」を発表した。