ナタリー PowerPush - 坂本真綾
シングル2枚と“冬”のアルバム 怒濤の3連続リリース
来年もいろんなことがあるけど、大丈夫だよね
──今回、坂本さんの今までの作品になかったようなアレンジや歌い方が多いように感じたのですが、そういった新たなところへの挑戦みたいな意識はありましたか?
コンセプトがある作品を作るとき、短編映画を撮ってるような感じって私はよく言うんです。物語があったり、向かうべき方向がはっきりとして統一感を出していくこととか。全体的な方向性が明確だと、どこか自分がその世界の中で演じるような雰囲気があって。新たな挑戦というのは特に考えなかったですけど、演じる気持ちから今までにない私の見え方が現れてるのかもしれないですね。
──サウンド面で具体的に挙げると、「homemade christmas」はこれまでになかったエレクトロ的なアレンジで驚きました。
この曲はデモの段階ですでにトリッキーな面白い曲だったんですけど、それに対する河野さんのアプローチがまたすっごく意外で。河野さんってこんな一面もあったんだ!みたいな素っ頓狂なアレンジだったので(笑)、歌っててすごく楽しかったですね。
──メロもサウンドもトリッキーだけど、歌詞は坂本さんとしては珍しく、ストレートにクリスマスのことが歌われてるという。
「冬のアルバム」って言うからにはこのくらいやらなきゃな、みたいなところもあったし、やっぱり2011年のクリスマスシーズンに出す曲として「多分来年もいろんなことがあるけど、きっと大丈夫だよね」みたいなことを、このアルバムの中で言いたかったんです。なので、最後の2行を言うためだけの曲ですね。
結婚はどちらかが死ぬのを見ていてあげること
──そして本作には、坂本さんにとって2曲目となる自作曲「誓い」が収録されています。初めて作曲された「everywhere」(15周年ベストアルバム「everywhere」収録)は、ヨーロッパでの一人旅の中からホロリと生まれた曲だったそうですが、今回は?
「everywhere」で作曲がすごく楽しいことがわかったし、もっともっと作りたいなと思ったんですけど、特に意識して取りかからずに「できるときにできればいいや」って放ったらかしだったんです。そして春に始まったツアーが震災で中断せざるを得なくなって、ほかの仕事も延期や中止になって……ツアーのことも、これから先のことも、家にずっといると不安なだけで、すごく気持ちがまいっていたんですね。何日かしてやっと外に出ることができて、久しぶりに事務所で集まってみんなで話したときに「なんでこんなに思いっきり立ち止まってたんだろう」って。「もの作りをやめてはいけない」という気持ちに自分が切り替わったときに、今はステージもないし、スタジオに行くこともできないけど、何かしなくては! こんなときこそ曲を作るか!みたいな感じで(笑)。そのときは歌詞はほとんどなかったんですけど、そうやって作った曲ですね。
──最近はほかのアーティストさんに話を訊いていても、どうしても震災の話に行き当たってしまうんですよね。
冬のイメージって、クリスマスなどの楽しさと同時に、春を迎える前の大きな試練、春を待つ季節という意味合いもありますけど、私としては冬に実るものもあると思うんです。冬も毎年いつかは終わるし、このアルバムが似合わない季節もやってくる。でもまた次の年には冬が来て……そういうふうに止まりたくても押し流されるように、どんどん時が進む中で、押し流されていかなきゃいけない部分もあるんだというか。自分だけがずっと冬でいることはできないし、春になったら春の生き方、夏になったら夏の生き方をしていかなきゃいけないっていうのを言いたかったんです。何があっても冬は終わっていくわけですよね。春もいつか、夏もいつか、って。それをちゃんと自分で感じて、終わらせていかなきゃいけないっていう気持ちがあって。
──ええ、ええ。
今は皆さん自分なりのメッセージを歌いたいときだと思いますし、私にも残しておきたい気持ちもありました。最近自分が結婚したこともあって、誰かの死を、身近な人の死を見届けるということがリアルになったのもあるかと思います。結婚したばかりで何言ってるんだっていう感じですけど(笑)、本当にそう思ったんですよね。結婚したってことは、どちらかが死ぬのを見ていてあげることなんだって思って。それって、一緒にしちゃいけないけどペット飼うときと同じで(笑)。
──あははは。そうですね(笑)。
ペットってすごく癒されるけど、いつか介護しなきゃいけなかったり、その子が死ぬのを見てあげなきゃいけないっていうことまでわかった上で、家に受け入れなければいけないってよく言いますよね。結婚も一緒とは言いませんけど(笑)、やっぱりそういうことなんだって思ったときに、自分の親もその親もみんなそうして生きてきたってことが、すごくリアルに感じられるようになって。どんなに突然であっても、それによって自分が止まってはいけない、その人の死をちゃんと見届けたあとの責任として、自分はきちんと自分の命を全うしなければいけないんです。そうでありたいなということを、この半年の間のいろんな出来事を通して考えていたので、歌詞にはそういう思いが出ていると思います。
鉛筆でソファの角を叩いた音が……
──メロディ作りに関しては、苦労はありませんでしたか?
苦労は不思議となかったですね。ただ、自分で作った歌が一番歌いづらかった(笑)。歌ってみたら難しいな、どこで息するんだろう?みたいな。
──なるほど(笑)。でもそこにはきっと、作曲に長けた人の作品にはないミラクルもあるのでは?
とにかく弾きながら歌うことができなかったので、河野さんにデモを渡すときも、うちにはPro Toolsなんてないので、歌だけ録って、ピアノだけ録って、別々にハイ、みたいな。テンポはこれなんですっていう意味で、鉛筆でソファの角をカンカンカンカンって叩きながら歌ったんですけど、その音はそのままイントロに使われてます(笑)。
──あれって鉛筆とソファなんですか!
河野さんはいつもそうですけど、私がなんとなく入れたピアノのフレーズとかも極力残そうとしてくれるんですよ。今回はソファを叩く音が残っちゃった(笑)。できあがったものを聴くと時計の針の音みたいに聴こえて、きっと誰もソファを叩いてる音だとは気付かないと思うんですけど。
──わかった上で聴くと全然違って聴こえるかもしれません。
言わないほうが良かったかも(笑)。
iPodの中には「サマー」があるけど
──「夏のアルバムを出すとは到底思えない」とおっしゃいましたが、今後も夏をコンセプトにした作品が作られることはないですか?
ないですね(キッパリ)。夏は好きじゃないんで。
──たまに良い音楽にそそのかされて、夏に浮気するようなことは?
夏には夏の聴きたい曲はやっぱりあるし、iPodの中にも「サマー」っていうフォルダがあるんですよ(笑)。ただそこに、私の曲はあんまり入らないです。なんか似合わないと思うんですよ。やっぱり夏に日傘さしてる人は夏の歌とか歌っちゃいけないんじゃないですかね。
──2011年はアルバム2枚、シングル2枚とハイペースでしたが、この先のアイデアもあります?
来年ぐらいまではなんとなくありますね。実はずいぶん前からたっぷり作っていて、かなり時間をかけて丁寧に作っておりますので。そんなにチャッチャとやってるわけではないんですよ(笑)。
収録曲
- Buddy
- something little
- Buddy -Instrumental-
- something little -Instrumental-
初回盤特典CD 収録曲
- eternal return
- 秘密
- DOWN TOWN
- スピカ
- みずうみ
- ボクらの歴史
- キミノセイ
- 悲しくてやりきれない
- ムーンライト(または"きみが眠るための音楽")
収録曲
- おかえりなさい
- A HAPPY NEW YEAR
- おかえりなさい (Instrumental)
- A HAPPY NEW YEAR (Instrumental)
初回盤特典CD 収録曲
- 2011年6月3日、4日公演@東京国際フォーラム ホールA ライブ音源(後編)
- ピース
- 風待ちジェット ~kazeyomi edition
- Get No Satisfaction!
- マジックナンバー
- 光あれ
- トピア
- I and I
- stand up,girls!
- everywhere
収録曲
- Driving in the silence
- Sayonara Santa
- Melt the snow in me
- homemade christmas
- 今年いちばん
- たとえばリンゴが手に落ちるように
- 極夜
- 誓い
- Driving in the silence -reprise-
初回盤特典
- アイルランドロケによるオリジナルショートムービー(約8分)収録DVD
- 12/13~18開催 ライブチケット・CD購入者対象先行予約情報封入
- プレゼントキャンペーン応募ハガキ封入
坂本真綾(さかもとまあや)
1980年3月31日生まれ。幼少時より児童劇団で活動し、1996年にテレビアニメ「天空のエスカフローネ」のオープニングテーマ「約束はいらない」で歌手デビューを果たした。声優、女優としても活躍しながら、コンスタントにオリジナル作品を制作。2010年3月にはデビュー15周年を記念した2枚組ベストアルバム「everywhere」、2011年1月には7枚目のオリジナルアルバム「You can't catch me」を発表した。2011年10月にはシングル「Buddy」「おかえりなさい」、11月9日にはコンセプトアルバム第3弾「Driving in the silence」をリリース。