ナタリー PowerPush - 坂本真綾
シングル2枚と“冬”のアルバム 怒濤の3連続リリース
坂本真綾×松任谷由実
──そして1週間後にリリースされるシングル第2弾「おかえりなさい」。去年、OVA「たまゆら」のオープニングテーマとして作られた松任谷由実さんのカバー「やさしさに包まれたなら」に続き、今度はユーミン書き下ろしナンバーという。この共作はどういうきっかけで実現したのでしょうか。
「たまゆら」がテレビシリーズになるにあたって、新曲でオープニングテーマを歌ってほしいというお話をいただきまして。監督さんの要望も私のイメージも「やさしさに~」の続編というか、あの世界観を汲んだ、どこかノスタルジックな雰囲気だったんです。エバーグリーンな、トラディショナルな楽曲のイメージ。松任谷由実さんに書き下ろしていただくのが、どう考えても一番イメージに近いんだけれども、実際そんなことができるのかなって……。ツアー中だということは存じ上げていたので、忙しいと思いつつも思い切ってお願いしたら、引き受けていただいたけたんです! 打ち合わせでもアルバムの感想をくださったり、とても丁寧に向き合っていただけて。すごくうれしかったです。
──坂本真綾と松任谷由実が手を組むとこうなるのか!という、まさにエバーグリーンな、あたたかい楽曲になりましたね。作詞は坂本さん、作曲は松任谷さんですが、曲作りはどのように進めたんですか?
この曲はまず、アニメの佐藤順一監督から「『おかえりなさい』というテーマで作ってほしい」っていう明確なオーダーがあったんです。松任谷さんは最初にお話ししたときに「必ず『おかえりなさい』っていう言葉が印象的に出てくるようなメロディを書きます」っておっしゃってくださって。どんな詞を書こうかなっていろいろ想像しながらメロディの到着を待っていて、初めて聴いたときは「イメージどおり」というとヘンですけど、まさにこういう曲を待ってた!というぐらい、すべてがしっくり、ぴったりときて、感動的でしたね。ピアノ1本のデモテープだったんですけど、このちょっと朴訥としたあたたかさをアレンジにも残したいなと思って、アナログな雰囲気を活かした仕上がりになりました。
いちユーミンファンとしても大好きな曲
──松任谷さんの曲とあって、作詞のプレッシャーは大きかった?
もちろん。「とにかくいい詞を書かなきゃいけない」みたいな気持ちは最初あったんですけど、書きたいことが自分の中で見えてからは、そんなに迷うことなく書けました。
──カップリングでは、これまた松任谷さんのカバー「A HAPPY NEW YEAR」と。
去年初めてカバーに挑戦して、また試してみたいこともあったし、カップリングはどんな曲がいいんだろうと思ったときに、やっぱり松任谷さんの曲がいいかなと思って。原曲の絶妙なボーカルやサウンド雰囲気をあまり壊さないほうがいいなと思ったので、全体のイメージはあまり変えないようにしました。
──お正月特有のにぎやかさではなく、かと言って「ゆく年くる年」的な厳かさとも違う、独特の空気感を持つニューイヤーソングですよね。いわゆるAメロ~Bメロ~サビ的な展開ではなく、どこか落ち着かない浮遊感のあるメロディから始まって、静かに着地するような。このユーミンマジックがたまらないです。
ですよね。ユーミンの……ずっとユーミンユーミンって一方的に呼んでたのに、一度お会いするとちょっとためらっちゃう(笑)。いちユーミンファンとしても大好きな曲になりました。
自分の感覚に合うクリスマスソングが歌えるんじゃないか
──最後に、3連続リリースの締めくくりとなるアルバム「Driving in the silence」ですが、これは2001年の「イージーリスニング」、2007年の「30minutes night flight」に続くコンセプトアルバム第3弾ということで。
なんとなく何年かごとに出してきて「そろそろかな?」みたいなところがあって。「You can't catch me」はいろんな人とコラボレーションで冒険をしてみた作品だったので、次はまた違った取り組み方で作りたかったのと、次にコンセプトアルバムを作るなら、季節感というか、思いっきりどこかの季節に沿ったものがやりたかったんですね。それに、私は冬が一番好きな季節で。
──ちょうどいいタイミングが来た、と。
はい。クリスマスも大好きなんですけど、今まで明確なクリスマスソングっていうのは歌ったことがなくて。どこか照れがあるっていうか、「日本人のくせにクリスマスに浮かれた歌歌ってていいんだろうか」みたいな(笑)。そんなに「クリスマスだから」のラブソングとかパーティソングとかっていうキャラでもないし、どうなんだろうって思ってて。
──「冬ですか」(2005年発売「夕凪LOOP」収録)だって、だいぶ変化球な冬ソングですもんね。
ほかのアーティストのクリスマスアルバムは結構好きで聴いてるけど、自分で歌うっていう発想はなかったんです。でも、自分の感覚に合うクリスマスソングが歌えるんじゃないかと思って。アルバムに1曲入ってたりするのはなんとなく恥ずかしいから、丸ごと冬にだけ聴くアルバムがあってもいいかな、というのが最初のアイデアですね。
ミニマムでインドアな“冬”のイメージ
──アルバム全体を通しての印象ですけど、音の1粒1粒に、冬のビシッとした空気感が表現された「冬の音」だなと感じました。
アレンジャーの河野伸さんには、全体を見ながら“冬”ってことをとにかく言い続けて、明確に冬っぽさを表現してもらいました。冬とかクリスマスってひとことで言っても、みんなのイメージってちょっとずつ違うと思うんですよね。例えば「みんなで集まる」というイメージも、私ならそんなに大人数じゃなくて、小さな部屋で、本当に大事な人だけで団らんを囲んでいるとか、すごくミニマムなもの、インドアなイメージなんです。
──大人数で、外でパーッと過ごす“冬”ではなく。
はい。そういうことを言い出すとミュージシャンの皆さんも「なるほど、なるほど」「家の中にあるものでやってる感じがいいよね」なんて言って、スプーンでパーカッションを叩いたり(笑)。みんなノッていろんなアイデアを出してくれたので、面白い音になったと思います。
──インドアなクリスマスというのは、個人的な経験や好みですか?
そうですね。やっぱり自分の感覚に合うクリスマス、お正月、冬というとこっち。ちょっと話は逸れますけど、私が夏のアルバムを出すとは到底思えないみたいな。
──あはははは。
「このアルバム冬に出るんですよ」とか「冬の曲なんですよ」って説明をしてから弾いてもらうと、みんなの中の冬っぽさをそれぞれに提案してくれたりするので、真夏にレコーディングしてたとは思えない冷気が漂ってると思います(笑)。今日も聴きながら来たんですけど、「早く寒くなればいいのに」って思うくらい、イントロからすでに冬を連れてくる感じがあって。
──具体的な景色のイメージはありますか?
冬の夜の寒い街をなんとなく出歩いていて……私の中では表参道なんですけど(笑)、そういうのが浮かんできたり。あとはハンドクラップがいっぱい入ってるんですけど、それがみんなで暖炉を囲んでワイワイしてるように聴こえたり、いろんなふうに捉えてもらえるかなと思いますね。
──個人的には「Sayonara Santa」のキーボードの刻みに、猛烈に冬を感じます。この曲はラスマス・フェイバーさんとのコラボですが、ご一緒するのは今回が初めてですよね?
はい。もともと私の曲をカバーしてくれているアルバムを聴いたことがあって、それで私はラスマスさんを知ったんですね。すごくカッコいいアレンジだなと思っていて。冬のアルバムを出すにあたって……粗いイメージですけど「北欧!」みたいな(笑)。北欧っぽい音は北欧の人に頼んだほうがいいんじゃないかみたいなすごく単純な発想でお願いしたら、オッケーをいただいて(笑)。お会いして「冬なんです」とか「インドアなんです」とかいろんなことをやみくもに伝えて。「じゃあ何曲か作るんで、気に入ったら使ってください」みたいな感じで、後日送られてきたのが3曲あったんです。最初はこの中から1曲選ばせていただければと思ってたんですけど、全部気に入っちゃったもんですから、全曲使わせていただきました。
収録曲
- Buddy
- something little
- Buddy -Instrumental-
- something little -Instrumental-
初回盤特典CD 収録曲
- eternal return
- 秘密
- DOWN TOWN
- スピカ
- みずうみ
- ボクらの歴史
- キミノセイ
- 悲しくてやりきれない
- ムーンライト(または"きみが眠るための音楽")
収録曲
- おかえりなさい
- A HAPPY NEW YEAR
- おかえりなさい (Instrumental)
- A HAPPY NEW YEAR (Instrumental)
初回盤特典CD 収録曲
- 2011年6月3日、4日公演@東京国際フォーラム ホールA ライブ音源(後編)
- ピース
- 風待ちジェット ~kazeyomi edition
- Get No Satisfaction!
- マジックナンバー
- 光あれ
- トピア
- I and I
- stand up,girls!
- everywhere
収録曲
- Driving in the silence
- Sayonara Santa
- Melt the snow in me
- homemade christmas
- 今年いちばん
- たとえばリンゴが手に落ちるように
- 極夜
- 誓い
- Driving in the silence -reprise-
初回盤特典
- アイルランドロケによるオリジナルショートムービー(約8分)収録DVD
- 12/13~18開催 ライブチケット・CD購入者対象先行予約情報封入
- プレゼントキャンペーン応募ハガキ封入
坂本真綾(さかもとまあや)
1980年3月31日生まれ。幼少時より児童劇団で活動し、1996年にテレビアニメ「天空のエスカフローネ」のオープニングテーマ「約束はいらない」で歌手デビューを果たした。声優、女優としても活躍しながら、コンスタントにオリジナル作品を制作。2010年3月にはデビュー15周年を記念した2枚組ベストアルバム「everywhere」、2011年1月には7枚目のオリジナルアルバム「You can't catch me」を発表した。2011年10月にはシングル「Buddy」「おかえりなさい」、11月9日にはコンセプトアルバム第3弾「Driving in the silence」をリリース。