ノイズを取り払ってできた「STRSTRK」
──「mortal portal e.p.」を聴かせていただいて、m-floの本質が改めて凝縮された内容だと思ったんですね。オンタイムなクラブミュージックを意識したビートと、ポップスとしても成立する歌のバランス感覚、そしてコズミックなテーマ性もしかり。
VERBAL 2曲目の「STRSTRK」という曲に対して周りから「攻めてますね」と言われるんですよ。
☆Taku 「STRSTRK」は特にスタジオでほかのアーティストに会うと「いいね」と褒められますね。
LISA うれしいね。
☆Taku 「STRSTRK」に関しては資料に“チルトラップ”と書かれているけど、それはレーベルのA&Rが宣伝するときにジャンルとして位置付けたもので。僕自身はチルトラップのトラックを作ろうと思って作ってないんですよ。つまり、僕自身もチルトラップがなんなのかわかってないという。このトラックがトラップの系譜にあるのかもわからない。
──でも、トラップ的なベースミュージックのビートではありますよね。
☆Taku 変なトラックではありますよね。この曲がどのように生まれたかというと、曲があまりにも完成しないからA&Rから曲作りのためのキャンプをしたほうがいいと提案されて。それでグアムのエアビー(Airbnb)を借りて合宿したんです。それぞれの部屋があって、そこで曲を作りながら自分たちでごはんを作ったり、3人で外に食べに行ったり、バーベキューをしたり。そういう環境の中で僕は自分の部屋でトラックを作って、VERBALとLISAはそれぞれの部屋で歌詞を書いたりするみたいな合宿でした。それで「STRSTRK」のトラックを2人に聴かせたときに「何これ!?」という反応があって。僕としてはこの曲は何も考えずに作ったんです。それまでは新曲を作るときに考えすぎちゃっていたんですよ。
──自然に出てきたのがこのビートだったんですね。
☆Taku そうですね。それまではこれからのm-floが何をしたいのかわからなかった。何ができるのかじゃなくて、何をしたいのか。ずっとその模索の旅をしていたと思うんですけど、「STRSTRK」の形が見えてきたとき僕的にはちょっとスパークポイントを感じて、これからのm-floが何をやりたいかが見えたと思うんです。やっぱりどうしても曲を作るときに、世の中の期待とか自分らのエゴとか、そういうノイズが入ってきちゃうんですね。ましてや今はSNS時代でなんでも聞こえてきちゃうから。リスナーがどれくらい聴いてくれるのかというのもそうだし、「ほかのアーティストがどう感じるのかな?」 とかもそう。そういうノイズって常に入ってくるんですけど、結局それは自分の創造性を妨げてしまうもので。でもノイズと関係なく「m-floがこういうことやったら面白い」と思える曲が「STRSTRK」だったんです。
VERBAL 僕らが泊まっていたAirbnbは2階建てだったんですけど、1階にLISAの部屋、2階に☆Takuと僕の部屋が隣同士にあって。☆Takuがドアを開けて作業していたから曲が聴こえてきたんですね。それで「何この曲!?」と思って☆Takuの部屋に行ったんです。ほかの曲はコード感のあるR&Bっぽい曲だったりして、その曲の歌詞を考えてたんですけど、この曲を聴いた瞬間にバーッといろんなアイデアが降ってきて。すぐに4バージョンくらいラップを書いたんです。
LISA 私も歌詞とメロディが降ってきてすぐに歌を録りましたもん。そういうのっていいよね。歌詞にある「I'm so starstruck」というフレーズはその時点で書いてました。
VERBAL なんで「starstruck」って出てきたんだろうね?
LISA わからない。そういうのは降ってくるんだよ。
──この曲、ちょっと不気味なのがいいですよね。例えばNetflixの「ブラック・ミラー」を観ている感覚に近いような。VERBALさんのフロウも感情を持ったAIと人間との恋愛模様みたいな感じに捉えられるし、近未来的でちょっとゾクッとする。それも今のm-floならではの切り口なのかなと。
VERBAL うれしいですね。m-floがデビューしたてのときはけっこう実験的な曲が多かったですし、例えば「mindstate」とかもラップとトラックの相性がすごく不思議な感じで。なので、こういうテイストはもともとm-floのDNAとしてあったものなのかなと思います。最初、わりと今風な……ちょっとメロディアスでドレイクっぽいラップも乗せてみたら、☆Takuからすぐに「違う」と言われて。
☆Taku なんか合わなかったんだよね。
VERBAL 「いいんだけど、この曲はそれ求めてない」と。確かに、と思ってこのラップを書いたらLISAからも「これいいじゃん!」と反応があって。
LISA “奇跡チューン”だったね。☆Takuのトラックを聴いて、すぐにVERBALも私も歌詞やメロディが降ってきて。曲ができるうえでこういうパターンが一番好き。
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