もっと多くの人に届けるためには？

──Hiynさんの意識が変わったのは、やはりメジャーデビュー曲の「Fuwa Fuwa」がきっかけでしょうか？

Hiyn　そうですね。メジャーデビューのタイミングやし、「どれくらいの人に届くんやろう？」というノリで自分なりにキャッチーな曲を書いてみようと思ったんです。そしたら1発目にしてはぼちぼちというか、「がんばればもっといろいろな人に届けられそうだな」という感触を得られました。

──国内ではなく海外にも広がって、台湾のバイラルチャートでトップ3にランクインしていましたね。ぼちぼちどころか、新人バンドとしては異例の快挙だったかと思います。

Hiyn　ちゃんと結果を出せたことで安心しましたね。自分の感覚、価値観は一般の音楽リスナーともそんなにズレていないんだな、ちゃんと人の立場になって曲を書けたんだな、と思えたので。だったらこれからも、より多くの人に届くメロディ、歌詞を作れそうだという安心感から、このミニアルバムの制作に向かっていったという流れです。リード曲の「Send To You」に関しては、「もっと多くの人に届けるためには？」という部分と特に向き合いました。

Sho　Hiynが送ってきてくれたデモ音源を聴いて、「Fuwa Fuwa」以降、その「いろいろな人に届ける」という目標がより具体的になっていったんだろうなと僕も感じていました。彼から直接何か言われたわけではないんですけど、デモから意識の変化を感じたのなら、自分はバンドの一員として、責任を持ってその変化をドラミングにつなげるべきなんじゃないかって。

Zum　楽器隊の僕らもいろいろ考えて、試行錯誤した結果、今の形になっているけど、確かにHiynからは特に何も言われなかったですね。ポップさを握っているのは彼の書く歌詞やメロディだから、それ以外の部分のサウンドやアンサンブルに関しては大きく変えたくなかったのかな？

Hiyn　マジでそう。「日本人は歌をよく聴く」と言うし、確かに俺も音楽を始める前は歌と歌詞に注目して曲を聴いていたから、ソングライターである俺だけが意識を変えればいいのかなと思ったんですよ。だからプレイに関しては何も言わなかったし、この4人に任せました。俺の思考がみんなに伝わりすぎちゃって、マス向けの曲になりすぎるのは嫌だったんですよね。自分の目的は歌をわかりやすくして、luvのサウンドをいろいろな人に届けること。歌詞やメロディを伝えやすくするのは、あくまでも、luvの鳴らすサウンドを大事にしたいと思っているからこその挑戦なんです。

キャッチーさとコア、5人のこだわりが詰まった「Send To You」

──皆さんが目指した通り、「Send To You」では歌モノとしてのキャッチーさとコアな音楽性をしっかり両立できていると思います。

Sho　最初にHiynからデモを受け取ったときは、「ちょっと今までにない雰囲気の曲やな」「おっ、これどうしよう？」と思いました。

Zum　デモの段階からメロディがキャッチーで、リズムがよくて……。

Ofeen　いろいろな解釈ができる曲だから、どういうふうに形作っていったらいいんやろうかとかなり試行錯誤した覚えがあります。

Sho　記憶がおぼろげだけど、みんなで最初に通したときは、8ビートを入れるのも難しい雰囲気の曲だったような……。

Zum　そこから「鍵盤の音色はどうする？」「ギターは？」「トークボックスはどう入れる？」「どんなメロディにする？」というふうにみんなで細かく話し合いました。たぶん、アルバムの中で一番緻密に作った曲なんじゃないかな？

Hiyn　けっこう盛り盛りだからね。コードチェンジも早いし、裏コードバンバン、みたいな。サウンドやコードを分析していくと、ニッチな音楽が好きな人ほど「すごっ！」って感じてくれる曲ちゃうかな？

Rosa　鍵盤に関しては、歌詞と整合性がとれるように、あるいは効果的になるように、音の形やリズムをセクションごとに変化させながら、説得力のある音楽にすることができたと思ってます。

Sho　ドラムに関しては、Bメロのアレンジを作るときに特に試行錯誤しました。後半に進むにつれてフィルで固めていくような構成になっているんですけど、僕は普段フィルをそんなに入れないタイプなんです。

──それはどういう考えから？

Sho　個人的に「フィルインを入れることでドラムを目立たせる」という考え方が好きじゃないんですよ。フィルインはあくまで、曲やメロディの雰囲気が変わるときに「よいしょ」って持っていってあげるような、つなぎ役だと思うんです。だからこそ、僕はできるだけシンプルな……手数は少なくても説得力のある音で「次はこんな雰囲気に変わります」と伝えられるようなフィルインをずっと求めている。理想の形にはまだ全然届いていませんけど、「Send To You」のフィルインが「この曲、なんかいいな」と感覚的に思える理由の1つになっていればうれしいですね。

Rosaの顔面指揮

──「Fuwa Fuwa」と「Send To You」は伝わりやすさを意識したという話でしたが、ほかの曲はいかがでしょうか？

Hiyn　ほかはけっこう好き放題やらせてもらいました。

Ofeen　僕は「LUV」の間奏が特に好きです。「タッタ タッタ」っていうリズムをそのまま鳴らすのは面白くないから、ちょっとだけよれて聞こえるようにしているんですよ。

──独特のタイム感ですよね。

Hiyn　実はこの曲のキーボードは連弾で、上段をRosaが、下段をOfeenが弾いています。ギターやベース、ドラムも含めていっせーのせで録ったんですけど、強弱の付け方とかを合わせるにあたって、Rosaが全部指示してくれて。

Ofeen　顔面で指揮してくれました。

──顔面で!?

Hiyn　そう。顔動かしながら笑かしてくるんですよ。

Sho　一発で録り終えようとしてるのに！

Rosa　（笑）。

Ofeen　だけど顔面指揮のおかげなのか、各々やりたいことをやりつつ、みんなのノリもピタッとハマるという、めちゃくちゃいいところにまとまって。演奏していて気持ちいい曲ですね、「LUV」は。

──個人的には「柔軟剤DOPE」が好きでした。演奏のカッコよさと歌詞の内容のギャップが最高です。

Hiyn　最近気付いたんですけど、僕は「人と被りたくない」「普通の内容を歌いたくない」という気持ちが強いみたいです。単純なラブソングは絶対に嫌で、なんか1つ気持ち悪いものがほしい。まあ、この曲はちょっと気持ち悪すぎますけど（笑）。

独自の作詞のルーツにあるのは“空耳”

──Hiynさんはラブソングを書くときの着眼点が素晴らしいですよね。「Send To You」の歌詞には2人の人物が登場しますが、2人は最後まで出会わない。会話を交わすことも触れることもないけど、相手を思っている時間だけを描いているのが、かえって色っぽいなと思いました。

Hiyn　いや、本当にそうなんですよ。「Send To You」はもともとソロで作ってた曲で、最初は「銭湯でブラジルの人がサンバしてる」みたいな内容の歌詞でした。だけどluvでやることになって、「よりいろいろな人に聴いてもらえるように」と意識しながら、ラブソングに落とし込んでいったときに、「銭湯ってラブソングの舞台にはいいんじゃないか？」と思って。男湯と女湯に別れているから、同じ空間にいるけど隔たりがある。2人は触れ合ったこともしゃべったこともなくて、たまたますれ違うことはあったかもしれない、くらいの距離感なんですよね。その状態からお互いの妄想が膨らんでいくというラブソングは、今までなかったんちゃうかな？

──挑戦の多かった今作でのソングライティングを振り返ってみて、いかがですか？

Hiyn　「Send To You」のようなユニークな歌詞が書けてよかったですけど、ダジャレっぽい歌詞が多いことにあとから気付いたので、次からはちょっと気を付けようかなって（笑）。

Rosa・Ofeen・Zum・Sho　あはははは！

Hiyn　そうなったのはたぶん、“空耳”が僕のルーツにあるからなんですよ。父親が家でJ.B.（ジェームス・ブラウン）とかをずっと流してて、俺がそれを聴き取って歌っていたら、父親がテンション上がって踊ってくれる、みたいな。

Zum　ふふふ。いいね。

Hiyn　父親とのやりとりが楽しくて耳コピをがんばっていた時期が、僕のルーツになっている。そう考えたら、このダジャレっぽい歌詞も自分らしくていいかもしれないです。

Zum　歌詞で言うと、僕は「胃袋ラブストーリー」の「ブロッコリー包んでみて」という部分が特に好きだな。「えっ、ブロッコリーって包むものなの？」と思って、Hiynに直接聞いたんですよ。そしたら、彼の家の食卓では、どうやらブロッコリーをハムで包んで食べるらしくて。

Hiyn　うちでは包むんですよ。バランみたいなノリで、ブロッコリーをハムで巻いたやつをお弁当に入れたのが始まりだった気がする。

Zum　その話を聞いたときに「ああ、かわいいな」と思ったんですよね。Hiynはこのバンドのフロントマンで、カリスマ性やスター性、ステージの真ん中に立つ人特有の圧倒的存在感がありますけど、そんな彼の家庭観がこの歌詞からは少しだけ見える。

Hiyn　ブロッコリーは包むもんだとナチュラルに思いながら生きてきたから、こんなふうに言われるとは思わなかったです（笑）。

リスナーに「ありがとう」を伝えたい

──初のミニアルバムを完成させた今、どんな気持ちでいますか？

Ofeen　最高です！

Zum　浅いなー（笑）。

Ofeen　（笑）。カッコいい系もあれば、しっとり系も、ハッピーになれる曲もあって。「luvらしさをどう大衆に届けるか」という挑戦もありつつ、今までの自分たちを全部出しきって、「luvはこれやぞ」と言い切れるアルバムに現時点ではできたかなと思ってます。でも、これからですね。このアルバムを聴いた人たちの反応を見て、ここからまた試行錯誤を重ねていくことになると思います。まだ実験の途中です。

──3月には初の全国ワンマンツアーが始まりますね。

Ofeen　ワンマンは台湾ではやったことがあるんですけど、日本では初めてです。しかもツアーですからね。「こんなに長い時間ライブをやったことはないけど、どうなるのかな？」「自分たちだけでお客さんを楽しませられるのかな？」ということで不安もありますけど、それ以上にめっちゃ楽しみです。

Hiyn　luvはライブ経験がまったくない状態でスタートしたので、今までのライブは盛り上げてくれるお客さんのおかげで成り立っていたと思ってます。今回のツアーではその人たちに「ありがとう」と伝えたいと思っているし、もちろん新しく来てくれる人にも自分たちの音楽をしっかり届けたいですね。