大阪発の現役大学生フューチャーソウルバンド・luvをご存知だろうか? Hiyn(Vo, G)、Ofeen(DJ)、Rosa(Key)、Zum(B)、Sho(Dr)の5人からなるluvは、2023年6月の結成からわずか1年でメジャーデビューを果たし、初ワンマンを台湾で開催して成功を収めるなど、独自の音楽性と精力的な活動で音楽シーンの中で特異な存在感を放っている。
そんなluvの初のミニアルバム「Already」がリリースされた。本作には全国のラジオ / CSの39局で2月度のパワープレイを獲得した「Send To You」や、台湾のSpotifyバイラルチャートでトップ3入りを果たしたメジャーデビュー曲「Fuwa Fuwa」、フロントマン・Hiynの独自の作詞センスが光るダンスチューン「柔軟剤DOPE」など全8曲が収められている。
音楽ナタリー初登場となるこのインタビューでは、メンバー同士の関係性や、結成からメジャーデビューまでの怒涛の1年間、ミニアルバム「Already」の制作秘話について話を聞いた。また特集の後半では、まだまだ謎の多いluvを深く理解するべく、メンバーのルーツにある楽曲3曲をそれぞれのコメント付きで紹介する。
取材・文 / 蜂須賀ちなみ
フロントマンHiynによるメンバー分析
──皆さんは大学に通いながらバンド活動をしているんですよね。
Zum(B) 今ちょうど春休みに入ったところで、4月から4回生になります。
──ミニアルバムの制作もありつつ、学期末の課題もあってこの冬はお忙しかったでしょう。
Hiyn(Vo, G) そうですね。みんなで入れ替わり立ち替わりで制作しつつ、学校に行ったりスタジオに行ったりと移動も激しくて。その中で、ギリ8曲できた!という感じです(笑)。
──ミニアルバムのお話はのちほどじっくり伺いますが、ナタリー初登場ということで、まずはバンドのプロフィールや今までの活動について教えてください。
Hiyn 結成当初はアシッドジャズを含むブラックミュージックを全般的に捉えながら、自分たちが生まれる前の時代、90'sのようなムードの音楽を鳴らしたいなと思っていました。リファレンスは特になくて、この5人が持っている個性をぐちゃぐちゃっと混ぜ合わせていくような感じだったんですけど、活動を重ねていくうちに、自分たちの強みがだんだんわかってきて。今は70~80'sの温かいソウルサウンドに、日常を汲み取るスタンスの歌詞を合わせた楽曲を鳴らしていきたいと思っています。クールに落とし込むというよりは、“多幸感ソウル”をやっていこうという方針に変わりました。
──作詞はHiynさん、作曲やアレンジはメンバー全員で行っているんですよね。
Hiyn そうですね。特に最近は、曲作りにおいてみんなに任せる部分が増えてきてます。マジで個性のあるメンバーなんですよ。まずDJのOfeenとは、友達歴が一番長くて。バンドで会ってる回数より友達として会ってる回数のほうが全然多い。こいつは音楽を始めたタイミングが5人の中で一番遅いんですけど、センスはホンマにずば抜けてると思います。制作中に「どうしよう?」となったときは、いつもこいつが普通じゃ思いつかないような案を持って来てくれる。そうやって助けてもらったことが何回もあります。今はDJだけでなく、トークボックスやシンセもやってもらっていて、上モノマシーンみたいになってます。吸収力がすごいんです。
Ofeen(DJ) あざっす!
Hiyn キーボードのRosaは、バンド内で唯一音楽理論をしっかり学んでいて。僕はけっこう感覚派なんですけど、彼がしっかりまとめてくれるので助かってます。曲の解釈が早いし、プレイが正確。レコーディングのときの演奏が、プリプロとほぼ変わらんクオリティなんですよ。ミュージシャンとしての能力を表す五角形のグラフがあるとしたら、全項目、満点に近いんじゃないですかね。
Rosa(Key) えっと、これは褒め褒めの時間ですか?(笑)
Hiyn こういうことをメンバーの前で言うのは初めてなんです(笑)。ドラムのShoとは、高2ぐらいで初めてスタジオに入ったときからずっと一緒に音楽をやっていて。今思えば、luvはそこから始まった。そう考えるとかなり付き合いが長いので、曲の解釈やフィーリングがバンド内で一番俺に似てると思います。俺がいろいろと試行錯誤しながら曲を書いていく中で、方向性をちょっとシフトすることもあるんですけど、そういうときに「ここはこうして」と指示しなくても、思った通りにフレーズを作ってきてくれるんですよ。歌とドラムのフィーリングが違うだけで曲のよさって一気になくなっちゃうので、ドラマーが“もう1人の自分”のような人でよかった。Shoはけっこう感覚派なんですけど、ベースのZumは、いつも丁寧にベースラインを組み立ててくれて。ジャズ研部長ということもあって、けっこう真面目なのかな。それにシンプルにベースがうますぎる。性格が真逆なShoとZumが、バンドの土台をしっかり作ってくれてますね。
Sho(Dr) 確かに性格は真逆やな。この前Zumに「会社に対して、憧れってある?」って話を振ったんですよ。そのとき僕がちょうど会社が舞台のアニメを観ていたのと、周りの同世代が就活をし始めたタイミングだったので。そしたら「確かに、安定した生活には興味があるかも」って言ってたよね?
Zum うん。安定した生活ってめちゃくちゃ魅力的じゃないですか。だけどShoは「俺は絶対に会社とか向いてないわ」と言っていて。やっぱり僕らは価値観が逆なんやなと思いました(笑)。
Hiyn Zumは堅実志向だけど、なんか極端だよね。ここにいる5人、全員が社会不適合者なんですけど、Zumだけ気分の上がり下がりのタイミングが違っていて。ほかの4人がしんどそうにしているタイミングで、なぜかこいつだけリミッター外れてて、そのおかげで全員のボルテージが上がって、助かったなってことが今まで何回もあったんですよ。
Zum それは、俺がズレてるってこと?(笑)
Hiyn そうかもしれない(笑)。だから一番、音楽してないと無理な人間やろなって思う。ベースがうまくてホンマによかったですよ。
結成からメジャーデビュー、怒涛の1年を振り返る
──周りの人たちが就活を始める中で、皆さんはどのタイミングで「音楽でやっていこう」と腹を決めたのでしょうか?
Hiyn 去年の7月にメジャーデビューしたタイミングですね。それまでは「これからどうする?」という話を5人であんまりしてこなかったんですよ。その話題に触れたらいよいよって感じがあって、誰も話したがらなかったけど、メジャーデビュー曲の「Fuwa Fuwa」をリリースしたタイミングで「がんばるか」って話をみんなでしました。
──結成からメジャーデビューまでの1年間は、怒涛の日々だったでしょうし。
Hiyn そうですね。最初の頃はずっと自分たちだけでやってきたけど、メジャーレーベルに所属させてもらって、初めてスタッフさんがついてくれることになって。俺らのために動いてくれる大人の数が増えたことで、ようやく実感が湧いてきました。
──バンド結成から今までの間に、初めての経験をたくさんしたのではないかと思います。特に印象に残っている出来事を1つずつ挙げていただけますか?
Sho 僕は、メジャーデビュー後の初めてのミュージックビデオ撮影が印象に残っています。メジャーデビューしてからは何をするにも大人の人たちが付いてくれるようになって。それまではMVを撮るにしても、僕らメンバー、カメラマンさん、手伝ってくれる知り合い何人かという少人数体制だったんですけど、今では本当にたくさんの人がサポートしてくれていて。撮影現場で初めて会う人もいるくらいなんですよ。
Hiyn 俺らのために動いてくれる大人の量がえげつなくて。「俺ら、こんな感じでホンマに大丈夫なんかな?」って思うよね。
Sho うんうん。メイクしてもらったり、髪の毛を整えてもらいながら、「あっ、僕、メイクとかされちゃってる」と思って(笑)。後日YouTubeに上がったビデオを見たら、スタッフさんのおかげで僕らがめちゃくちゃきれいに映っていてうれしかった。観た人からリアクションを数多くいただけるのも面白くて、そのリアクションを見ながらまた自分たちが楽しむっていう。今までにはなかった体験ができています。ありがたいですね。
Zum 僕は、去年の10月に開催した初めての自主企画が印象に残ってます。お客さん0人のライブハウスでライブしたこともありましたけど、来てくれる人がだんだん増えてきていることを実感していた中で、その日のライブでは会場が満員になって。「これだけの人が僕たちのライブを観に来てくれたんだ」と感動しましたね。
Ofeen 僕は今年1月に「S-POP LIVE」に出演させてもらって、初めてZepp Osaka Baysideのステージに立ったときのことを挙げたいです。見たことがないくらいの会場の広さ、天井の高さ、お客さんの多さで。Zeppにはよくライブを観に行ってたんですけど、ステージからだと何倍もデカく見えて、観る側から演奏する側に変わったことをそのとき強く実感しました。
──ステージが大きいと緊張しますか? それともテンションが上がりますか?
Rosa うちはテンション上がるタイプの人はいないんじゃない?
Hiyn 5人とも、どんな規模のライブハウスでも緊張します。だからステージに出る直前、SEが鳴ったくらいのタイミングで、全員でチョけてなんとか緊張をほぐそうとするんですけど(笑)。そのときの雰囲気はマジで部室みたい。
Rosa この流れで言うと、僕にとっては「舞台に立ってお金をもらう」という経験が大きかったと思ってます。今までやってきたアルバイトとは違って、自分たちの持っている特出したスキルでお金を稼ぐというのは、もちろんうれしさや楽しさがあるけど、「文化的なものを残していかないといけない」という責務も感じます。求められるうれしさもプレッシャーも感じることができました。
Hiyn “求められる音楽=自分の好きな音楽”とは限らないからね。僕はバンドを続けていく中で「バンドは好きでやっているけど、エゴだけで音楽を作っていてはいけない」というジレンマを感じていて、その経験は初めてでした。結成1年目のluvはけっこう好きなようにやってきましたけど、今は自分たちの音楽をマスにどう広げていくかを考えていて。僕も曲を書くときに「この曲はどう聴かれるかな?」と気にするようになりました。
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