LUNA SEA「MOTHER」「STYLE」セルフカバーアルバム特集|INORAN & Jソロインタビュー (4/4)

30年経った先にまだ続きがあった

──レコーディングするにあたって、改めて当時の音源を細かく聴いたり、どんな機材を使ってたかまでさかのぼったりしたんですか?

特別にそういった作業はしてなくて、けっこう覚えているものなんですよ。当時使っていた楽器や機材もそうですし、レコーディングしていた部屋の景色も覚えています。記録していたわけではないけど、記憶にある。Pro Toolsなんてない時代だから、レコーディングできるクオリティになるまで練習し、今では考えられないくらい長時間がむしゃらにレコーディングしていたなあ、とかね。サウンドに関しても、フレーズに関しても、Jのベースを確立しようと本気で追い求めて、自分自身のスタイルが完成した2枚でもある。だから、ベースのフレーズはあえて以前のまま弾いている部分がほとんどなんですよ。変えてしまうと軸がどんどんブレてしまいそうだったし、特にベースという楽器は楽曲の背骨みたいな部分もあるので、しっかりと土台を作らなければと思って。そのうえで、じゃあ今の俺だったらどういうふうにやるんだろう?と考えていきました。とにかく当時の楽曲をさらにグルーヴさせることを最大のテーマとして、置き換えるんじゃなくて、本当の意味で超えるんだと。そういう意味では、フレーズを変えなくても勝算があったというか、変えてしまったほうがうやむやになりそうだなと思ったんです。あと、俺自身けっこう保守的な人間なので、外タレのリマスター盤とかでも、オリジナルからアレンジが変わっちゃってると嫌なんですよ(笑)。

──わかります(笑)。改めて、オリジナルの「MOTHER」と「STYLE」に対してどんな印象がありますか。

俺たちが当時成し遂げようと思っていたのは、やはり「LUNA SEAというバンドここにあり」ということを証明すること。音楽的な部分も含めて、世間に対してLUNA SEAのすべてを高々と掲げようという思いで曲を作り、レコーディングしていましたね。当時はシーン自体がまだ夜明け前のタイミングだったけど、俺たちは自分たちの音楽を信じていたし、絶対いけるはずだと確信していた。そして、世の中の色んなことを塗り替えていくことができて、毎日刺激的で楽しかったけど、それがいまだに続いているので俺たちは幸せだなとすごく思います。

J

──今回は、各自でレコーディングをして、データをやりとりしながら制作を進めた形ですか?

そうですね。スケジュール的に、順序立ててやれない部分もあったり、仮のフレーズの上に音を重ねるみたいなこともありましたけど、そこはもう阿吽の呼吸で。ずっと一緒にやってきたバンドとしての強さを感じました。

──ほかのメンバーのサウンドを聴いて、今作への向き合い方は共通していると感じました?

そうですね。それぞれ今の自分自身がカッコいいと思うことに、どこまでアジャストするかを考えていたと思います。当然30年も経てばいろんな音楽が生まれて、時代の呼吸があって、大きな流れがあって、その中で音楽はいまだに先端にいて前に進んでいるわけだから。今というものをしっかり注ぎ込めなかったら噓になると思うし、それがなければ単純にノスタルジックなものになってしまう。そこは柔軟に、かつ自分たちがやってきたことに対しては頑固に。相反するところもあるんですけど、それをうまく調理するのがバンドとしての力量じゃないかなと感じているので、やりがいはすごくありました。

──音源を聴いて、オリジナルの持つすごさを改めて感じるとともに、新作と言ってもいいほどの進化を感じました。いわゆるリマスター的な「音がよくなっている」だけではなくて、なんというか……。

言葉がないでしょ?(笑) ないんですよ、俺たちでも言葉がないんだから。さっきも言った通り、30年経った先にまだ続きがあったんだという感覚ですよね。だから、今自分たちがこういう作品を作れたことを誇りに思うし、自分たち自身も、作品から驚きと喜びとエネルギーをもらっている感じがします。過去の作品をたくさん聴いて、大好きで愛してくれてた人たちにとっても、本当に楽しめるアルバムになっていると思う。

──さきほど「自分自身のスタイルが完成した」とおっしゃっていましたが、当時確立されたものが、今でもブレずにJさんの軸にあるように感じます。ご自身の中に変わらずにあるものを言葉にしていただくと、どういう感覚ですか?

前提として、俺は楽器を始める前からロックミュージックはカッコいい音楽だよね、バンドはカッコいいものだよねと、いまだにそう感じている人間なんです。いろんな理屈の前に、「カッコいいね!」って言えるものを信じているんですよ。ほかにも文化的なものとして、ファッションや映画、写真、アートなどもあるけど、その時代の空気感を吸収して吐き出す速度が一番速いのは音楽だと思っていて。いつの時代も、そのエッジのギリギリを歩むアーティストがいっぱい出てくるでしょ? 俺もそういうものが大好きだし、そんな感覚だけでここまで来ちゃってる感じがしますね。だからこそ、ベースサウンドに関しても、使っている楽器がどうとか、アンプがどうとかいう前に、「あ、カッコいいじゃん」と言えるものを出していけるベーシストでありたいなとは当時から思っていた。そう、弾く前からカッコいいよね、みたいな(笑)。

──(笑)。

それベーシストなの?って感じだけど、もしそうだったらもう無敵じゃん(笑)。いまだにそうなりたいと思っていますよ。

──いやいや、もう体現されていると思いますよ。フレーズ1つ取っても、本当にJさんの“記名性”は高いですし。「ROSIER」はもちろん、「FACE TO FACE」や「IN FUTURE」など、これまでたくさんの人がコピーしてきたフレーズがある曲と思いますが、弾きたくなるというか、全然色褪せないですよね。

そう言ってもらえるのはうれしいですね。今言ったような「カッコいいじゃん」というものは考え尽くして生まれるものではなく、一瞬で降りてくるものなんだと、いまだに信じてる自分もいるし、逆にそれがどの時代でも鳴り続けるものなのか、ちゃんと確かめたいと思う自分もいるんです。レコーディングに入るまでは夢中でそのフレーズを突き詰めていたりするのでちょっと変なんですけど。

LUNA SEAもロールモデルとして存在していけたら

──再録する作業を通してしっかりと作品に向き合い、当時のセットリストをよみがえらせつつライブをしていく中、何か気付いたことはありましたか?

ライブはまた音源とは違って。自分たちはある種のコンダクターとして、各会場を最高の場所にする役目だから、アルバムの方程式がそのまま当てはまる部分もあれば、当てはまらない部分もあるんですよね。だからこそ、そこはライブバンドとしてずっとやってきた感覚を最大限注ぎ込んでやっている感じがします。そのうえで、会場に来てくれたみんなの期待感と、2枚のアルバムを早く聴いてもらいたいと思うメンバーの熱量が、すべてをポジティブに運んでいってくれている感じがすごくする。あと、当時の熱量と今を比べて何が違うかと言ったら……今の俺たちと当時の俺たちとは、やっぱり流れている“時間”の意味が違うんですよ。冒頭にも言った通り、今、俺たちが何をやるべきか、何ができるのかを考えて、今を楽しみ尽くす、今を感じ尽くす。そういう気持ちがあるからこそ、今回のツアーは紛れもなく最高なものになっていると思います。1人でも多くの人たちとその瞬間を楽しみたいですね。

J

──ライブを拝見して、皆さんそれぞれからその気迫が伝わってきました。特にRYUICHIさんは、昨年の「復活祭 -A NEW VOICE-」(参照:LUNA SEA「復活祭」でRYUICHIが新たな歌声披露、アンコールでGACHI SEAと一夜限りの共演)で復帰して以降、さまざまな努力をされてきた中で、今回のツアーを機にさらにネクストレベルに進んだ印象を受けて。

そうですね。ちょうど福岡公演のあとに直接彼にも話したんだけど、聴いているだけでここ数年とは明らかに発声が違うんですよ。戻ってきていますよ。俺はRYUの右斜めうしろにいるわけですけど、ステージでの歌の響きが全然違う。楽器はシールドを刺せば音が鳴ってくれるけれども、ボーカリストは体が楽器ですからね。一度クラッシュしたものは元に戻るのかと言ったら、正直戻らないわけじゃないですか。でも、そこからまた新たに再生した肉体でどう自分の表現をしていくのかという手探りの中で、やはり彼自身の声が戻ってきたのをすごく感じます。彼は本物のボーカリストだし、勘がいいから、こういうふうに声を出したらこういうふうにリスナーにもっと届くだろう、という感覚をつかんで、そこにしっかり照準を当てられている。今のツアーでは、新生RYUICHIを見てもらえているんじゃないかなと思います。

──ツアーは12月31日まで続き、その間にはひさしぶりのフェス出演となる「FM802 ROCK FESTIVAL RADIO CRAZY」も控えています。

すごい年末ですよねえ。このアルバムを1人でも多くの人に届けたいと思うし、こういう作品を作ったバンドは最強なんだという思いがみなぎっているからこそ、いろんな場所に行かせてもらえるんだと思います。「RADIO CRAZY」は初めて参加させていただきますが、全力でいかせてもらいますので!

──まずはアルバムのリアクションが楽しみですね。今回、初めてLUNA SEAの新譜を買うという世代もいるかもしれないですし。

確かに。今は全然俺らの存在を知らずに、ただバンドが好きでいろいろ聴いていたら見つけた、みたいな人もいるみたいだし。時代は何周もしてるけど、俺らはずっと5人だけで作品を作ってきて、このアルバムにもLUNA SEAの基本的な形が詰まっていると思うので、ぜひ聴いてもらえたらいいなと思いますね。そういう意味では、DTMでの音楽制作が当たり前の子たちにとっては目から鱗の部分もあるかもしれない。昔から聴いてくれている人には、バンドとしてLUNA SEAが最高に高まっているということを強く感じてもらえると思います。来年35周年を迎えるんですけど、さらにいろいろ考えていますから。

──そうですよね。35周年と聞いていかがですか?

はははは! もう未知ですね。でも、「ロックは若いやつらのための音楽だ」と言われてた時代から音楽を聴き始めたけど、自分たちが影響を受けた先輩方や僕らの世代から、やっと年齢関係なくバンドを楽しむ空気がこの日本にもできあがったような気がするので。自分たちも1つのロールモデルとして存在していけたら、新しい世界が広がっていくんじゃないかなと思います。いいモデルかはわからないですけどね(笑)。

──35周年の計画はもう練り始めているんですか?

メンバーの中では、アイデア出しも含めて、ずっと話していますよ。来年はまたさらにデカいことをぶちかましたい、なんて思っているので、ぜひ期待していてください。

左からINORAN、J。

ライブ情報

LUNA SEA DUAL ARENA TOUR 2023

  • MOTHER OF LOVE, MOTHER OF HATE
    2023年10月7日(土)神奈川県 Kアリーナ横浜
  • UN ENDING STYLE
    2023年10月8日(日)神奈川県 Kアリーナ横浜
  • MOTHER OF LOVE, MOTHER OF HATE
    2023年11月4日(土)福岡県 マリンメッセ福岡
  • UN ENDING STYLE
    2023年11月5日(日)福岡県 マリンメッセ福岡
  • MOTHER OF LOVE, MOTHER OF HATE
    2023年12月2日(土)宮城県 ゼビオアリーナ仙台
  • UN ENDING STYLE
    2023年12月3日(日)宮城県 ゼビオアリーナ仙台
  • MOTHER OF LOVE, MOTHER OF HATE
    2023年12月16日(土)愛知県 日本ガイシホール
  • UN ENDING STYLE
    2023年12月17日(日)愛知県 日本ガイシホール
  • MOTHER OF LOVE, MOTHER OF HATE
    2023年12月30日(土)大阪府 大阪城ホール
  • UN ENDING STYLE
    2023年12月31日(日)大阪府 大阪城ホール

プロフィール

LUNA SEA(ルナシー)

RYUICHI(Vo)、SUGIZO(G, Violin)、INORAN(G)、J(B)、真矢(Dr)からなるロックバンド。1989年に現編成での活動を開始し、1991年にYOSHIKI(X JAPAN)主宰の「Extasy Records」から1stアルバム「LUNA SEA」をリリース。翌1992年に2ndアルバム「IMAGE」でメジャーデビューを果たした。1994年のシングル「ROSIER」がロングヒットを記録し、東京・東京ドームや神奈川・横浜スタジアムなどでライブを行うなど日本を代表するロックバンドへと成長する。しかし2000年11月に“終幕”を発表し、同年12月26、27日に行われた東京ドーム公演をもってバンドの歴史に幕を下ろした。終幕以降も各メンバーはソロアーティストとしてのキャリアを重ね、精力的な音楽活動を展開。2007年12月24日に東京ドームで一夜限りの復活ライブを行い、このライブをきっかけに2010年8月に“REBOOT”と称して本格的な再始動を発表した。結成25周年を迎えた2014年5月29日には東京・国立代々木競技場第一体育館でスペシャルライブ「LUNA SEA 25th ANNIVERSARY LIVE -The Unfinished MOON-」を実施。2015年6月には主催フェス「LUNATIC FEST.」を千葉・幕張メッセで行い成功を収める。2018年6月に2回目の「LUNATIC FEST.」を開催。12月には埼玉・さいたまスーパーアリーナでメジャーデビューアルバム「IMAGE」と、メジャー第2弾にして通算3枚目のアルバム「EDEN」をフィーチャーした内容の2DAYS公演を行った。2019年5月29日に結成30周年を迎えるとともに両A面シングル「宇宙の詩 ~Higher and Higher~ / 悲壮美」をリリース。2023年11月に代表作「MOTHER」「STYLE」のセルフカバー盤を同時発表した。この2作に伴うアリーナツアーを12月末まで行っている。