「Soul Friendly」のサウンドにつながった、あの頃のモヤモヤ
──「Soul Friendly」からは、一側面としてバックトゥルーツを感じました。自分の心が動くものとなると、トレンド的なものよりも、自分の原点にあるものがもう一度出てくるというか。「LIGHTHOUSE」や「恋あおあおと」を聴いて、個人的にはPassion Pitを連想したりもして。
トロ・イ・モアの2ndや3rdの質感とか、やはりずっと好きなものはありますね。最近Digitalismのアルバムを聴き直してヤバいなと思ったり、Justiceが復活したのもありますけど、それらを聴いていた頃の自分の熱狂は心の動きと連動してたと思います。当時はまだ作品を思うように作れなくて、夜勤とかやりながらつらい思いをして、曲を作るのは楽しいけどよくわからない、みたいな。あの頃のモヤモヤした感じが「Soul Friendly」のサウンドにつながっているような気もしますね。
──The Flaming Lipsもお好きですか? 「LIGHTHOUSE」にはその雰囲気を感じました。
好きですね。「Race For The Prize」っぽいシンセストリングス感とか。The Avalanchesとかも好きで、ああいう音楽に人間の心の解放があるなと思います。ただ、そういうサウンド感をイメージして作ったというよりは、作ってる中で自然にそうなってきたというほうが大きいかもしれないです。
──光の感覚だったり、泣き笑いの感覚だったりを突き詰めていったら、結果的にそういうアーティストともシンクロするものになったと。
メンバーにデモを聴かせたときに同じようなことを言われて、それで自分も気付いて、確かにその感じが出てるなと思いました。ジェイミーXXの新作にThe Avalanchesが参加していたり、The Avalanches的な概念が今自分の中で非常に重要なダンスミュージックの要素としてすごくあって。ああいう“光の音楽”、心をふわっと宙に浮かせてくれるような感覚に対してすごく共鳴してるところはあると思います。
メンタルヘルスと、暮らしの中で実感できる愛
──「Soul Friendly」の歌詞に関しては、改めて「心」にフォーカスすることによって、メンタルヘルスの問題も1つの軸になっているように感じました。やっぱりこの10年はSNSの広がりも含めて、メンタルヘルスとどう付き合うかが音楽シーン、ひいては社会的な関心事であったわけで、それも今作の背景になっているのかなと。
社会的なものもあるんですけど、自分自身もそんなに強くないですし、傷付くことが当然ある中で、そういう傷付きとどう付き合っていくのか、あるいはそうならない環境をどう作っていくのかということにはずっと興味がありますし、自分のライブはそういう環境でありたい、お客さんが傷付いていても踊ることを許容される空間であってほしいとずっと思っていて。そこはメジャーデビュー以降そんなに変わってないのかな。そういううっすらとした自分の心の黒い部分に対してずっと回答し続けているかもしれない。
──確かに、ずっと向き合い続けているテーマではありますね。
そのうえで今思っているのは、個人のパワーで何かを動かしてしまう行為に反発があるというか、やはり人とのつながりの中で安心する時間を作っていかなくてはいけないということ。そこは自分の中で変わってきた部分かもしれない。もともと僕は勉強や運動がすごくできたわけでもないですし、不良グループにいたわけでもなく、静かな人間としてずっと過ごして、そういう中でも起こる傷付きに対して音楽で救われてきました。そこから生まれたのがLucky Kilimanjaroだと思うんですね。ただ、これまで個人のパワーや思考回路で解決するというふうに捉えていたものが、活動を続けて、みんなと一緒に踊る中で考え方に変化があって、それで「Soul Friendly」を作るに至ったような感じもあります。
──そういうシリアスなテーマを日常に落とし込んで描くのもラッキリらしさで、お風呂について歌った「フロリアス」だったり、日常にこそ解決の糸口があるように感じます。
大きなイシューの話をしてしまうと自分事ではない感じがしますけど、やはりみんなの心の話ですし、結局リアリティに本質的なその人の心を癒す何かがある。お風呂に入ったり、人にコーヒーを淹れたり、そういうことがもうゴールで、それを続けることに意味があると思うんです。自分の中では大きな、漠然としたテーマを考えてますけど、そのテーマを実際のアクションに落とし込んだときには意外と普通のことをやるんだっていう、それが「フロリアス」や「コーヒー・セイブス・ミー」なのかなと。暮らしの中でいかに愛を実感できるかを伝えていきたいし、少なくとも僕はそれを受け取った感覚があるので、僕も人に伝えることが大事だと思ってます。
──「フロリアス」のライナーノーツに書いてある「フロの精霊にも歌ってもらいました」っていうのは、メンバーの大瀧真央(Syn)さんのことですね。
そうですね。しっかりと歌ってもらったのは初めてなんですけど、今その空気が面白いかもと思ったし、実際歌ってもらったらいい感じで、今の僕のライトな心の雰囲気がすごく表現できた気がします。
──この日常的なテーマの中で、パートナーでもある大瀧さんが途中から出てきて「あなたはひとりじゃないこと 覚えておいて」と歌い、その後に2人が声を合わせるという。これはめちゃめちゃグッときちゃいましたね。
レゲエの持つ平和の概念とか、今一番こういうことが必要なんじゃないかという考えがある中、去年出たジャネール・モネイのアルバムにもそういう曲が入ってたりして。今はやはりみんなで心を癒し合う感覚がどこか求められている気がするんですよね。そういうふうにフィルタリングされてるのかもしれないですけど、自分が思ってるからこそしっかり伝えていきたいですし、それがいい形になったのが「フロリアス」かなって。
──コーヒーも熊木さんにとって生活に癒しを与えるもの?
はい。大瀧さんがベーグルが好きで、うちの冷凍庫はベーグルしか入ってないんですよ(笑)。で、朝ベーグルを用意してくれて、コーヒーも淹れてくれて、結局こういうとこだよなって。こういうことこそが愛であり、自分が生きてて安心する時間で、でもそれってみんなが日々やってることだと思うんですよね。それを強調したかったんです。
“その人なりの踊り方”にOKを出し合える空間
──EPの最後を飾る「メロディライン」もめちゃめちゃいい曲ですが、どんな着想から作っていったのでしょうか?
自分が悲しいときとか本当につらいときに聴く音楽、戻ってくる音楽ってありますよね。僕は本当にヤバいときにBon Iverを聴くんですよ。そんな“戻る場所”になるような音、という漠然としたイメージから制作が始まり、そういうメロディだけをリフレインさせようと思いました。
──「さぁ歌って 待ち合わせのこのメロディを 隣に何度でも踊り出して」という最後のフレーズが印象的ですよね。これから進んでいく中で過去を思い出すこともあるかもしれないし、そんなときにはこの場所で待ち合わせる、ここに戻ってくるという、10周年のセーブポイントみたいな曲だなと。
まさに、“またここに戻ってきて、安心してほしいという場所としての曲”みたいな感じですかね。なおかつ、この曲だけじゃなくて、僕らの作る音楽や空間がそういう場所になればいいなという思いもあります。
──2作のEPは「10周年だから」とは考えずに制作がスタートしたということですけど、結果的にはいろんなタイミングも重なって、10周年ならではの作品になったような印象を受けます。
フレッシュな気持ちで作ったつもりですけど、むしろ再確認というか、手元に残ったのは「ずっとこういう音楽をやっていきたいと思ってるんだな」という感覚です。先を見てはいますけど、その先に持って行きたいものはずっと同じなんだろうなと。これまでのアルバムでも自分の心を表現していましたけど、より自分の心が色濃く出た作品になりました。そういう作品を一緒に作っていこうと思えるメンバー、スタッフ、お客さんがいることがすごくありがたいですし、これからもダンスミュージックを愛して、自分の人生を愛する状態をみんなで作っていきたいです。
──では最後に、10周年の締めくくりとなるツアー「YAMAODORI 2024 to 2025」に向けてひと言いただけますか?
コロナ禍のいろいろな規制が解除されて以降の自分たちのライブでは、まず「ダンスミュージックってちゃんとみんな踊れるのよ」というのを見せたくて、フェスも含めて、マッシヴな面をずっと見せていたところがあるんですね。でも最終的に僕がやりたいのは「Soul Friendly」的な概念も含めたダンスであって、パワーだけではないんだというところに帰結できるようにしたいなと思ってます。ただ、みんなには僕の考えに共鳴してほしいというよりは、漠然とそれを受け取ってほしい。「自分が変な踊り方をしてるんじゃないか?」とか、そういうことを気にしないで楽しめる、居心地のいい場所をしっかりと作り上げたいっていう思いがあります。そこは表裏一体で、例えば“陽キャ”とか“陰キャ”とかっていうのも、それぞれの人のキャラクターじゃなくて、お互いの関係性の中で生まれるもので、認め合うことができると思うから、そういう空間を作りたい。僕らのライブはダイブしちゃうんじゃないかってくらい踊ってる人もいれば、全然動かない人もいて、それがお互いにOKを出し合えてる空間であればいいなと思ってます。
──体が動いてない人だって心は踊ってるかもしれないし、それこそ「自由に踊る」っていうのは熊木さんがこの10年ずっと言ってきたことでもありますよね。
昔から「自由に踊りましょう!」みたいなことを言うロックバンドはいましたけど、「いやいや、それ難しいよ」と思ってる自分もいて。だからこそ僕はもう無限に言い続けることにしました(笑)。僕だって上手なダンスはできないですけど、それでもその場で自由に踊るし、「自由に踊って!」と言い続けた結果なのか、最近はステージとは別の方向を向いて踊ってる人とかも全然います。自分なりの踊り方をお客さんが選べるといいし、そのための空気作りをするのが僕らの仕事。みんなが当たり前に自由に踊ってる状態になったら、やっと言わなくなるかも。
──「俺が『自由に踊って!』と言わないようにさせてくれ」っていう(笑)。
そこを目指したいですね(笑)。
公演情報
Lucky Kilimanjaro presents. TOUR "YAMAODORI 2024 to 2025"
- 2024年11月17日(日)石川県 金沢EIGHT HALL
- 2024年11月23日(土・祝)香川県 高松MONSTER
- 2024年11月29日(金)広島県 広島CLUB QUATTRO
- 2024年12月1日(日)熊本県 熊本B.9 V1
- 2024年12月20日(金)北海道 Zepp Sapporo
- 2024年12月22日(日)宮城県 仙台PIT
- 2025年1月13日(月・祝)大阪府 Zepp Osaka Bayside
- 2025年1月19日(日)福岡県 Zepp Fukuoka
- 2025年1月26日(日)愛知県 Zepp Nagoya
- 2025年2月16日(日)千葉県 幕張メッセ国際展示場 4・5ホール
プロフィール
Lucky Kilimanjaro(ラッキーキリマンジャロ)
熊木幸丸(Vo)、松崎浩二(G)、山浦聖司(B)、柴田昌輝(Dr)、ラミ(Per)、大瀧真央(Syn)からなる6人組バンド。2014年に音楽活動を開始。「世界中の毎日をおどらせる」というテーマを掲げて活動している。2018年にドリーミュージックよりEP「HUG」でメジャーデビュー。2020年にメジャー1stアルバム「!magination」を発表した。結成10周年となる2024年の4月に東京・日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)でワンマンライブ、6月から7月にかけて全国ツアーを開催。7月と10月に対となる2作のEP「Dancers Friendly」「Soul Friendly」を配信リリースした。同年11月からは10周年を締めくくるツアー「YAMAODORI 2024 to 2025」を実施。そのファイナル公演を2025年2月に千葉・幕張メッセ国際展示場 4・5ホールで行う。
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