Lucky Kilimanjaro「Kimochy Season」インタビュー|熊木幸丸が最新アルバムで描く“変化”と“季節の移ろい” (3/3)

恥の感情を一時的に取っ払ってくるのがダンスミュージック

──「辻」は恋に落ちる瞬間をつづったダンスミュージックです。

出会いの曲ですね。それは変化というものの中で、一番ドキドキする瞬間かなと思います。誰かと恋に落ちるのもそうですし、ハウスミュージックを聴いて、過去に得ていない感覚を経験することもそう。ワクワクするものとの出会いは突然ですし、複雑な感情の中で育っていく関係性があると思うので、そのことをできるだけそのまま歌った曲です。制作としては冒頭のフレーズを歌っているときにできた曲なんですけど、この曲は最初からハウスミュージックにしようと決めていました。このメロディ、このフィーリング、このコンセプトを歌うならこの感じだと思っていました。

──それはご自身にとってハウスがそういうものだから?

やっぱりラブを歌うのがハウスミュージックにおけるいい曲だと思うんです。愛に対してちゃんと歌っていく、それは例えばカルヴィン・ハリスもそうですし、昔からラブというものがハウスのコンセプトの1つとしてあると思う。「辻」には作っているときからそことつながるイメージがありました。

──前作「TOUGH PLAY」のインタビューでも、カルヴィン・ハリスの名前を挙げていましたよね(参照:Lucky Kilimanjaro「TOUGH PLAY」インタビュー)。

90年代のハウスのニュアンスを大事にしている人ですし、彼の音楽にはエモーションがあり、ソウルミュージックのアルバムも出している。僕がいいと思っている音楽の部分をちゃんと体現している人だなと思います。それでこの前、リアーナがカルヴィン・ハリスの作った曲を歌っているところを見て、とても感動しました。

──スーパーボウルのハーフタイムショーで歌った「We Found Love」ですね。

さすがに泣きましたね。海外の人のほうが感情に対して素直な曲が多いなと思います。日本は表裏の文化、つまり本音と建前の文化だと思っていて、ある種直接的でいることに対して恥を感じる文化だと思うんです。でも、ダンスミュージックというのは、そういうものを一時的に取っ払ってくれるものだから。それがLucky Kilimanjaroという表現に必要な部分なのかなと。

熊木幸丸

日本語の美しさを意識した「山粧う」

──そして最後の「山粧う」です。まず「山粧(よそお)う」という言葉がきれいですね。

季語の美しさには、本当にハッとしますよね。弾き語りをやりながらできた曲で、アンプに通してガットギターを弾いて、それをもう1回別のアンプに通してピッチチェンジをしているので、普通にギターで弾いても出ない音を使っているんですけど。美しく変化を感じる曲を書きたいという気持ちと、そこで弾いていたギターのメロディから着想が生まれていきました。

──秋の曲にしようというイメージも、その段階で抱いていたんですか?

アルバムの最後に美しい曲を入れたいとは思っていました。秋の紅葉だったり、空が高くなっている青い景色っていうのは画として浮かんでいて、そういう情景から歌詞を書いていきました。

──「辻」の話を踏まえて言えば、熊木さんの曲には海外で生まれたカルチャーへの憧れがありつつ、同時に日本人であるというアイデンティティも感じます。

特に今回は日本語の美しさを意識しました。僕は英語で表現されている音楽のグルーヴ性に惹かれているけど、そこに日本語の美しさをどうやって融合させようかというところが今回のテーマの1つでしたね。

Lucky Kilimanjaroは変化していく

──最後に、今作ができあがってどんな手応えを持っているのか聞かせていただけますか。

今回はコンセプトのフォーカスが定まるまで非常にあっちこっちに行ったので、完成してホッとしたって感じですかね。できてみると「DAILY BOP」や「TOUGH PLAY」とは全然違う変化があって、自分の変化を楽しみながら音楽制作をしていくのが僕の人生なのかなと思います。

熊木幸丸

──Lucky Kilimanjaroというバンドはどんなふうに変化してきたと思いますか?

インディーズの頃のスタイルからもだいぶ変化しましたし、自分の歌い方も変わりましたし、常に「まだ完成していない」という印象ですね。まだ模索を続けている段階で、今もライブで「Kimochy Season」のコンセプトを大々的に打ち出すべく変化している途中なんです。むしろそれを楽しんでいるバンドであり、どんどん進化していくことをお客さんと一緒に楽しむバンドなのかなといます。

──なるほど。

僕は人生もバンドも、もっともっと面白くなると思って生きている。そういう気持ちが反映されているバンドなのかな。

──ツアーで新作がどんなふうに披露されるのか楽しみです。

今回のアルバムは非常に踊れる作品になったと思いますし、過去曲との接続も大事にした作品なんですよね。僕らのライブはDJのようにマッシュアップしたり、インタルードを作ってつないでいったりするんですけど、「Kimochy Season」の曲も含めて、みんなで気持ちよく踊れる時間を作ろうというのが、今一番気合が入っているところでです。

──以前の曲との関連性というところでは、例えば「地獄の踊り場」に「TOUGH PLAY」という歌詞が出てきたり、「千鳥足でゆけ」にも過去曲からの引用がありますね。

「千鳥足でゆけ」には「エモめの夏」からの引用があり、同じBPMで作っています。僕はどの作品でも関連性を大事にしていて、過去の曲の歌詞やフレーズを使うことで、自分の人生の連続性みたいなものを表現するようにしているんですよね。新しい曲を作るということは、Lucky Kilimanjaroという概念に対してどんどんモジュールを足していく感覚というか。レゴのブロックを使って新しい何かを作っていくような感じなんです。それによってみんなのダンスミュージックへの解像度が上がったり、どんどんこの音楽が面白くなっていくんじゃないかなと思っています。

ライブ情報

Lucky Kilimanjaro presents. TOUR "Kimochy Season"

  • 2023年5月28日(日)石川県 金沢EIGHT HALL
  • 2023年6月3日(土)北海道 サッポロファクトリーホール
  • 2023年6月10日(土)大阪府 Zepp Namba(OSAKA)
  • 2023年6月11日(日)愛知県 Zepp Nagoya
  • 2023年6月17日(土)宮城県 チームスマイル・仙台PIT
  • 2023年6月24日(土)広島県 広島CLUB QUATTRO
  • 2023年6月25日(日)福岡県 Zepp Fukuoka
  • 2023年7月1日(土)東京都 豊洲PIT
  • 2023年7月2日(日)東京都 豊洲PIT

プロフィール

Lucky Kilimanjaro(ラッキーキリマンジャロ)

熊木幸丸(Vo)、松崎浩二(G)、山浦聖司(B)、柴田昌輝(Dr)、ラミ(Per)、大瀧真央(Syn)からなる6人組バンド。2014年に音楽活動を開始。「世界中の毎日をおどらせる」というテーマを掲げて活動している。2018年にドリーミュージックよりEP「HUG」でメジャーデビューを果たす。2020年にメジャー1stアルバム「!magination」を発表し、2021年4月には東京・日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)でワンマンライブ「YAON DANCERS」を開催。2022年3月にはメジャー3枚目のフルアルバム「TOUGH PLAY」をリリースした。2023年4月にニューアルバム「Kimochy Season」をリリース。5月からは全国8カ所9公演のツアー「Lucky Kilimanjaro presents. TOUR "Kimochy Season"」を開催する。