ナタリー PowerPush - LOVE PSYCHEDELICO
日常を輝かせるスイッチ 2年半ぶりアルバム「ABBOT KINNEY」
例えば、たまたますごく気持ちのいい朝を迎え、目的地を決めずに出かけてみる。もし道に迷ったら、その街の人に訊けばいい。──日々に忙殺されているのも、もしかしたら思い込みかもしれないし、未知の場所へ出向くのには勇気というほど大げさなものが必要なわけじゃない。ほんの少しの自由な“旅人の気持ち”。それがあれば、サプライズもスペシャルもない、しょぼい現実も輝きを帯びてくる。
そんな気持ちになるアルバムがLOVE PSYCHEDELICO、約2年半ぶりのオリジナルアルバム「ABBOT KINNEY」だ。2008年のUSデビュー以降、表立った露出がなかった2人だが、この間、実に丹精込めて作品作りに向き合っていたという。「今日はユルくなるよ? アルバムの話すると」と、笑顔と柔らかな空気をまとって話す2人に、作品、そして今のLOVE PSYCHEDELICOについて訊いた。
取材・文/石角友香
プライベートスタジオで毎日2人でレコーディング
──ひさしぶりの取材攻勢じゃないですか?
NAOKI そうですね。レコード会社に全然来てなかったから(笑)。
──(笑)まず、アルバムについてなんですが、“LOVE PSYCHEDELICOが帰ってきた”という感じとは違って、とても新鮮な印象だったんですよ。
NAOKI いいね。うれしいね。
──ルーツっぽいサウンドも多いし、今まで以上にチャレンジした部分もあったのかな? と思ったのですが。
NAOKI チャレンジがあるとしたら、音の録り方を自分たちの中で、ルーティーンにしないっていうか。エンジニアに頼らないで7~8割はスタジオでこの1年間、2人だけでどちらかがマイクの前、どちらかがコントロールルームにいて、マイクを立てて音を録ってたからね。評判のいいプロデューサーがいるから海外に飛んでって録ってもらう、とかはなんか違うと思ったし、そこは自分たちでやろうっていうのは決めていたので。
──じゃあ「GOLDEN GRAPEFRUIT STUDIO」(LOVE PSYCHEDELICOのプライベートスタジオ)でずっと録ってたんですか?
NAOKI うん、1年間くらい。
──ミュージシャンとして健全な生活ですね。
KUMI うん、もう毎日。
NAOKI 毎日スタジオに通って、2人しかいないんで、2人で(笑)。
KUMI もう、それが生活だったね?(笑) ただ楽しいから毎日スタジオに行って、その結果アルバムになるといいねって感じだったから。その楽しい日常がそのまんまアルバムになった。そういう感じだったよね?
NAOKI だから無計画といえば無計画なんだけど……20何曲作ってたんで(笑)。
──同時進行で?
NAOKI うん(笑)。“この曲はドラムしか入ってない”とか、“この曲はアコギしか入ってない”とか、そういう途中段階のが23、4曲あって。その中でもアコースティックなものだったり、カントリーだったり、そういうルーツミュージック的なものが詰まってる曲が残った感じはしますね。
ストイックな姿勢はリスナーに伝えなくていい
──LOVE PSYCHEDELICOの場合、特に1st、2nd(アルバム)の頃は、ロックンロールを2000年代に聴かせる上で、NAOKIさんの手法自体が個性になっている感じがしてたんですが、今回はあまりそういう手法が気にならないんですよ。
NAOKI 今回に関しては、よけいなフックとか、それはリフひとつにしてもね、そういうものすらないものでありたい、っていうのはあったよね?
KUMI うん。
NAOKI 言葉で説明するのは難しいんだけど、こう、ストイックに録るけど、その緊張感はリスナーに伝えない。そういうところは徹底して守りたかった。聴く人は、ドライブしながら楽しく聴いてくれればいいけど、そのためのこっちの環境はちゃんと整えよう、みたいな。音楽がもともとある形っていうか、音楽が音楽であるためにマイク1個立てるのもストイックにやるんだけど、そこで“自分であること”とか、“LOVE PSYCHEDELICOであること”とか、そういうことは全然気にせず作ったよね。
──KUMIさんは歌うことに関して、変化はありましたか?
KUMI うーん、もともと自分の歌に関しては客観的なところがあって、“どういう思いを込めて”とか、“この歌詞をこう聴かせよう”とかじゃなくて、もっとこう自分の声色だったり、響きだったり、サウンドに注意を向けて歌うほうなんだけど、今回特にエンジニアリングもほとんど自分たちでやったし、私もいろいろ楽器を弾くようになったし、その響きも気にするようになったから、自分の歌に対してももっと客観的になったかな。
NAOKI プロデューサーがそのままマイクの前に立ってるような感じだよね。
KUMI ははは。だからって完全にクールにはならないというか、なれない、うん。
NAOKI だから声色だったり、サウンドに対する自分のシャウトのトーンだったり、テンションを調整したくてもう1回歌うとかはあったけど、歌が納得いかないからとか、そういうのは全然ないよね。
KUMI うん。
NAOKI だから2人で“もの作り”をしているっていう感じは強かったよね。
CD収録曲
- Abbot Kinney
- Beautiful days
- Here I am
- Secret crush
- Shadow behind
- I'm done
- Hit the road
- Bring down the Orion
- Happy birthday
- This way
- Dr. Humpty Brownstone
- Have you ever seen the rain?
LOVE PSYCHEDELICO(らぶさいけでりこ)
1997年に結成された、KUMI(Vo,G)とNAOKI(G,B,Key)によるロックデュオ。2000年4月にシングル「LADY MADONNA~憂鬱なるスパイダー~」でデビューを果たし、音楽ファンの間で大きな話題になる。流暢な英語と日本語とが行き交うKUMIのボーカルスタイルがシーンに衝撃を与え、2001年発売の1stアルバム「THE GREATEST HITS」は200万枚を超えるメガヒットを記録。その後も数々の名曲やヒットアルバムを作り続けている。