ラブリーサマーちゃん|バンドサウンドで描く、飛びたい4曲

今いる場所から脱したいという気持ち

──レーベルの資料には“渋谷系サウンドを彷彿とさせる「海を見に行こう」”と書かれていますが、ラブサマちゃんにおける渋谷系なりバンドサウンドの不動のフェイバリットというのは?

トップはthe brilliant greenさんですね。一番好き。何があっても。渋谷系だとCymbalsさんですね。「海を見に行こう」はCymbalsの「Highway Star, Speed Star」や「RALLY」を彷彿とさせるような曲をやりたくて書きました。でもドラムの人が速いドラムを叩けなくてBPMを落としたので、あまりCymbalsっぽくはないんですけどね。あとはフリッパーズ・ギターやフーバーオーバーなんかが好きですね。

──その辺りは追体験ですよね。リアルタイム体験だと?

やっぱり相対性理論と神聖かまってちゃんかな。今も好きですし。あとはふくろうずやきのこ帝国とか。

──なるほど。3曲目の「ファミリア」の“どこにも行けない僕ら”という感じは、ちょっとブリグリが入っているようにも思えました。もっと言えば、この“どこにも行けない僕ら”というモードは、この「人間の土地」全体について当てはまるんじゃないかと。

「ファミリア」イメージイラスト

私もこのCDのタイトルを考えていたとき、まさに同じことを考えていました。例えば「FLY FLY FLY」は終盤で「飛んでやりたいんだ」という歌詞を何回も連呼するんですけど、そう言ってるってことは飛んでないわけじゃないですか。明日になったら「やっぱり自分飛べないわ」となっているかもしれなくて。その不甲斐なさを大切にしたくて、わざと「飛んでやりたいんだ」という歌詞にしたんですね。「海を見に行こう」も「ファミリア」も、今いる場所への嫌悪とか、そこから脱したいという気持ちから生まれた曲ということを、タイトルを考えているときに気付いて。だから「どこか」とかいうCDタイトルはどうだろうかとも考えたんですが。

──「人間の土地」はインパクトがあるし、サン=テグジュペリを知らなくても文学的な引っかかりを感じさせるいい言葉だと思います。

よかった。ありがとうございます。「LSC」の時点では自分の深層心理を自らピックアップするほど筆が強くなかったというか、そこら辺にあるもののことしか歌えなかった。だからこそ、自分の深いところから出た言葉を歌詞にできたんじゃないかなって。でも今回は気分にムラっ気はありつつも、私の中に根強く存在する“どうせ”といった卑屈な気持ちを、ようやく音楽でアウトプットできるようになってきたんじゃないかと思っています。

ぼんやりとした自信を持てるようになれたら幸せ

──「ファミリア」はローファイなサウンドですね。

そうですね。気取ることなく、歌にそのまま素直なアレンジを付けましたって感じで、4人編成のバンドでササッと演奏できるような、めっちゃ簡単なロックを目指しました。リバーブでぶっ飛ばすようなことばっかりしてきちゃったんで、あまり作ったことがなかったんですよね。そんなユルさがこのローファイ感につながったのかも。

──「High and Dry」のカバーについては?

「High and Dry」イメージイラスト

以前からRadioheadが好きだったというのはもちろんですが、カバー以外の3曲を作ったあとで、何かカバー曲を入れようかということになって。3曲共音像としてダウナーな感じがあまりないなあと思ったので、しっとりとまとめてバランスをとってくれる、遅くて落ち着いた感じのきれいな曲を入れたいなあと思い付いたのがたぶんこの曲だったんだと思います。

──なるほど。では最後に、ラブリーサマーちゃんの今後については?

私はあれも好きこれも好きで、しかもそのくせ飽きっぽいんですけど、とりあえず今はこうしたバンドサウンドが好きなんだなあと、この「人間の土地」で再確認することができました。たぶん、次のアルバムもこの延長線上になるんじゃないかと思います。ただ「海を見に行こう」みたいな曲はもう絶対に作りませんけど。

──なんでそこだけ断言?(笑)

この曲、実はデモ制作でアホみたいに時間がかかっちゃって。1曲だけ渋谷系っぽい曲を作りたいなと思ったものの、打ち込みがまあ大変で。ドラムの間奏を打ち込むだけで丸1日かかるとか、そんなのばっかりでしんどくなっちゃったんです(笑)。しかもそれを実際に演奏してもらうと、どうもあまりニュアンスが伝わらなくて「あのがんばりはなんだったんだ!?」みたいな虚しさに襲われて。だから滅多なことがない限り、渋谷系みたいな曲は当分作りません(笑)。

──おそらくこのCDの完成直後、7月5日のツイートで「今回のCD産廃だと思うとかケチョンケチョンに言った日もあったけど今は凄く良いのが出来たって思ってる」とつづっていましたが、かねてから好きだったバンドサウンドをやってみて、ここから少しは自信を持てるようになれそうですか?

うーん……私、ずっと長い間そういう自分には意味がない、みたいな気持ちと付き合ってきちゃったので、いきなり自分が根拠のない自信みたいなものを獲得する未来がまったく想像できなくて。想像できないものにいきなり来られても、きっと受け止め切れなくて嫌になっちゃうし。でもここから先は、ぼんやりとした自信を、徐々にでも、少しだけでもいいので、持てるようになれたら幸せですね。

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ラブリーサマーちゃん「人間の土地」
2017年8月2日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
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CD収録曲
  1. FLY FLY FLY
  2. 海を見に行こう
  3. ファミリア
  4. High and Dry
初回限定盤DVD収録内容
  • ラブリーサマーちゃん、空を飛ぶ。
ラブリーサマーちゃん インストアイベント
  • 2017年8月3日(木)東京都 SHIBUYA TSUTAYA
  • 2017年8月5日(土)東京都 タワーレコード新宿店
  • 2017年8月18日(金)大阪府 タワーレコード梅田NU茶屋町店
ラブリーサマーソニック 2017
  • 2017年8月25日(金)東京都 WWW X
    出演者ラブリーサマーちゃん / Nyantora / PELICAN FANCLUB
ラブリーサマーちゃん
ラブリーサマーちゃん
1995年生まれ。2013年の夏に自宅での音楽制作を開始し、インターネット上に音源を公開していく。ポップでキャッチーなサウンド、チャーミングな歌声が話題を集め、ネットを中心に人気を獲得。2015年11月に1stアルバム「#ラブリーミュージック」を、2016年4月から3カ月連続でシングルをリリースする。2016年11月にSPEEDSTAR RECORDSからメジャーデビューアルバム「LSC」をリリース。2017年8月に新作CD「人間の土地」を発売した。