音楽ナタリー Power Push - lovefilm
Instagramから始まった青春バンド
「the telephonesの石毛さんとノブさんのバンドで歌う謎の女」
──お披露目ライブは結成から3カ月で開催してます。江夏さんはそのとき初めてバンドのボーカルとしてステージに立ったわけですが、緊張はしましたか? 客席からは堂々としているように見えましたが。
江夏 そう見えていたならよかったです。内心はビクビクでしたよ。でも、あのステージでおどおどしてたらカッコ悪いにもほどがあるなと思って、一生懸命堂々としてる風に見せてましたね。
石毛 そういう意識があるところもまたしっしのいいところなんですよ。女優やモデルってバンドと違って1人で戦う世界じゃん。だからそういう感覚なんだろうね。なんなら昌志のほうがおどおどしてたかも(笑)。
江夏 だってもともとの期待値が半端なかったじゃないですか。私、「the telephonesの石毛さんとノブさんが突然始めたバンドで歌う謎の女」ですよ? みんなは「どんな子なんだろう?」って観に来ると思うんです。そういう目で見られてる中でへなちょこなところを見せたら石毛さんとノブさんの顔に泥を塗ってしまうと思って。自分をよく見せたいというよりも、2人のこれまでのキャリアに傷を付けることがあっては絶対にいけないという気持ちでした。
石毛 男気がすごいよね。
──初ライブを終えた感触は?
江夏 そのとき持てる力を100%出せたとは思うんですけど、観てくれた人から「よかったよ」って言われてもまったく信じられなかったです。それはいまだにそうなんですけど。でも、終わってからヘコむっていうことはまだまだやれることがあるっていうことなんだなと思います。
石毛 こういう人がバンドにいると本当に刺激になりますよね。
──キャリアがある人とまったくの新人がバンドを一緒に組むと、演奏面でリスクがあったりすると思うんです。それでもこういう編成でやりたかったんですよね。
石毛 うん。俺がやりたかったことはこれだし、リスクは俺が背負えばいいだけだから。それよりは自分が、いや、みんながワクワクできることが大事。自分が初めてバンドを組んだときの感覚ってそういうものだったから。経験者同士で組んだら、容易に完成形が想像できてしまうし、極端な話、それなら俺1人でやればいいんだと思う。あと、しっしの場合はピアノを13年間やってきてるから、バンド育ちの俺らとは違う観点で俺らの音楽を聴くことができる。それに和音を知ってるからハモリもばっちりだしね。
──なるほど。江夏さんの加入は、石毛さんにもプラスになる要素が大きかったんですね。
石毛 めちゃくちゃ大きいです。経験者を批判する気持ちは毛頭ないんだけど、経験値があるゆえのエモーションとはまた違うものがこのバンドには宿ってると思うから。そもそもソロをやるならもっと難解な現代音楽みたいなものをやろうと思っていたし、バンドをやるならこういうフレッシュなものをやりたかった。イギリスのThe Horrorsとか、ミュージシャンでありモデルでもありみたいなバンドがいたりもするでしょ。そういうファッションと音楽が密接につながってる感じを日本でも表現したかったから、しっしは本当に逸材だった。
しっしに感謝してる
──lovefilmの曲を聴いて、ちゃんと女の子が歌うべき歌詞になってるなと思いました。あと日本語の歌詞も、the telephonesではあまりやってこなかったですよね。
石毛 俺、根が女の子なんですよ(笑)。日本語の歌詞については、俺の挑戦の1つ。ソロで静かな音像に日本語の歌詞を乗せることはあったんですけど、アグレッシブなサウンドに日本語を乗っけて、グッと来るものにするのが俺にとってはすごく難しかった。だからすごくやりがいがありますね。あと30代に突入して、ちゃんと自分の母国語をもう1回噛みしめたいという思いもあったり。英語で10年間歌ってきたおかげで、日本語だから伝えられることもあるって気付いたので。
──なるほど。lovefilmの曲はきちんと歌詞がその言葉として耳に飛び込んでくるなと思いました。
石毛 日本語は日本語として聞こえてくるほうがいいんですよね。英語っぽいニュアンスの日本語というよりは日本語としてはっきり聞こえてくるものをやりたかった。歌、ギター、ベース、キーボード、ドラムという音の重なりにするのであれば、日本語に聞こえる日本語で歌いたかったんです。
──歌詞は自分以外が歌う前提で書いたんですか?
石毛 もちろん。自分が歌うには恥ずかしいけど、しっしが歌ってくれるのなら……と思って、普段だったら恥ずかしくて言えないような子供っぽい歌詞も混ぜ込んでます。そういえば、この前mixiをひさしぶりに開いたんですよ。2005年くらいの日記を見てみたら、今と言ってることが全然変わらなくて(笑)。
江夏 私も見せてもらったんですけど、その日記、石毛さんが今でも書きそうなことをすごく中二病っぽく書いてるだけだったんです(笑)。内容は自分に悶々としてる感じ。10年前の日記って恥ずかしくて普通見られないけど、これなら全然大丈夫って感じでした(笑)。
石毛 その日記を見たり、しっしとバンドをやったりする中で、自分のそういう部分は大人にならなくてもいいんだなと思えたんだよ。俺の10年前ってしっしの今の年齢と同じくらいなんだけど、本当にその頃から中身が変わってない。だから一緒にこうやってバンドをできるのかもしれない。この10年でいろんな音楽を知って、ロック以外のいろんな音楽も作って経験を積んだけど、本質は変わってなかったっていうことに気付けたのは本当によかった。しっしには本当に感謝してます。
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- 1stアルバム「lovefilm」/ 2016年8月3日発売 / DAIZAWA RECORDS / UK.PROJECT
- 「lovefilm」
- 初回生産限定特別価格 [CD] / 2160円 / UKDZ-0175
- 通常価格 [CD] / 2808円 / UKDZ-0176
収録曲
- Alien
- Don't Cry
- Kiss
- Vomit
- BIG LOVE
- Holy Wonder
- Honey Bee
- Goodbye,Goodnight
- Our Dawn
- Hours
lovefilm 1st tour "livefilm"
- 2016年11月18日(金)愛知県 ell. SIZE
- 2016年11月19日(土)大阪府 Shangri-La
- 2016年11月23日(水・祝)東京都 UNIT
lovefilm(ラブフィルム)
現在活動休止中のthe telephonesの石毛輝(Vo, G, Programming)と岡本伸明(B, Syn)、モデルで女優の江夏詩織(Vo, G, Syn)、The PatやPINK POLITICSにも所属する高橋昌志(Dr)による4人組バンド。2016年3月に東京・新代田FEVERでお披露目ライブを行い、バンド名を発表した。8月に1stアルバム「lovefilm」をリリース。11月にワンマンツアー「livefilm」を東名阪で開催する。Dinosaur Jr.やPavementなど、1990年代USインディーのオルタナティブバンドを彷彿させるサウンドが特徴の1つで、メンバーは石毛と岡本の友人である松井征心によるブランドSISEのアイテムをコスチュームとしている。