ナタリー PowerPush - LOST IN TIME
“今”を見つめる珠玉のベスト 海北&大岡に訊く10年間
LOST IN TIMEが初のベストアルバム「BEST きのう編」「BEST あした編」を2枚同時リリースする。デビューしてから10年間、歌の力を感じさせる力強いナンバーの数々を届けてきた彼ら。しかしその道程は決して平坦なものではなかった。中でも、2006年に榎本聖貴(G)が脱退したことは大きかったという。だがバンドは歩みを止めず、精力的なライブ活動を続けることで新しい形を確立していった。このたび発表されるベストアルバムには、その軌跡が詰め込まれている。
ナタリーではこのタイミングで、海北大輔(Vo, B)と大岡源一郎(Dr)の2人にインタビューを実施。あまり取材現場に登場することのない大岡のユニークなキャラクターが楽しめるほか、2人の誠実な人柄が感じられるロングインタビューとなった。歴史を振り返りつつ、今を真摯に見つめるバンドの姿勢が浮き彫りになったテキストをぜひ楽しんでほしい。
取材・文 / 高橋美穂 インタビュー撮影 / 中西求
2人とも変わったのは気持ちがオープンになったところ
──源ちゃん(大岡)も揃ったインタビューはレアですよね。
大岡源一郎(Dr) そうですね、僕はすごく楽してきたんですけど(笑)。
海北大輔(Vo, B) でも、忙しさで言うと2人ともどっこいどっこいぐらいですよ。源ちゃんは毎日ブログ書いてるし。
大岡 いやいや全然。やってるふりですよ(笑)。
──お忙しいところ、ありがとうございます。まずは、1stアルバムから10年を振り返ってみて、お互いの印象って変わりましたか?
大岡 海北くんは変わったかな。やっぱり、専門学校で出会った頃は、埼玉の田舎のほうから上京してきたばかりの繊細な若者で、トゲトゲしていて。服装もパンクスだったんです。革ジャンにロンTを着て、髪の毛は短くてムースで立てていて、靴はブーツ、みたいな。
海北 エッジィでしたね、確かに(笑)。
大岡 瞳はかわいかったですけどね(笑)。それから、全体的に、だんだん柔らかくなってきた。
──海北くんの歌を初めて聴いたときは、どう思いました?
大岡 えーっと、なんで聴いたんだろう? 前のバンドのライブに来てよ、って言われて、熊谷か、遠いなって思いつつ(笑)、観に行ったのかな。でも、歌っていうよりは……見た目っつうか……存在感が違うと思いましたね。
──じゃあ海北くん、源ちゃんの印象はどうでした?
海北 ほーんと、変わらないですよ。ただ、昔の方が人見知りだったかな。それは僕もそうで、2人とも変わったのは、気持ちがオープンになったところだと思う。もちろん、バンド内でストイックに曲を作るときは心がクローズドになったりするけど、そうじゃないときは自然に窓を開けられるようになったっていうか。あと、3~4年前まで源ちゃんに対して思っていたことは「こいつ、キャラクターとしてもドラマーとしても面白いのに、それをなんで外に出さないんだろうな」ってことで。内輪だけで面白がっているだけだったんで、もったいなくて。
大岡 今も小出しにしているけどね(笑)。
──でも、「2枚組特別仕様盤」に付属の、源ちゃんが書いているヒストリーブックレットでは、ついにその面白さを全開にしていますよね(笑)。
大岡 そうですね。まさかの俺が書く「ロストインタイムと私」(笑)。
海北 ライブやブログを見てくれている人は、源ちゃんがゴキゲンなお兄ちゃんだってわかっているんだけど、ぱっと見クールだから、怖い人だと思われることが多くて。
大岡 喋ると、こんなんだったんですねって言われますからね(笑)。
ボールがバットに当たる瞬間に力を入れればいい
──2人ともオープンマインドになってきたっていう話ですが、初期はクローズドならではの、ヒリヒリした強さもありましたよね。
海北 そうっすね。だからもろかったとも言える気がするんですけどね。もろさをはらんだ緊張感の中で音楽をやるっていうことは、榎本くんがLOSTを離れるまでの5年ちょっとで経験した気がしていて。それで、僕もすり減りましたし。あの頃にできた曲はいまだに大好きだけど、それを今から作ろうとしても無理だし。一生懸命バットでボールを打とうとしてたけど、振る前からギッチギチに力が入っている状態だった気がするんですよ。でも、本当は、ボールがバットに当たる瞬間に力を入れればいいわけで。本来力を抜くべきだったところが10年やってわかってきていて……。まだわかりきってはいないですけど、それが長くやることの面白さだったりするのかなって。みんながピリっとなる瞬間は、今のLOST IN TIMEにもあるけど、そればっかりじゃ息詰まっちゃうでしょ、体壊しちゃうでしょ。でもこれも、ずっと力を入れてやっていた時間があるから、そう思えるわけで。
──そのクローズド時代に、10年もバンドが続くって思っていました?
大岡 年数とか全然考えてないです。
海北 今でもそうだよね。
大岡 うん、そのときにいいもの作ろうっていうだけ。たまたま続いているんだよね。なんか違うことがあったら、終わっていたかもしれないし。
海北 どっかでボタンを掛け違えていたら、っていうことは、いっぱいある。僕らって“if”が多過ぎて。10年バンドを続けるってすごいことだから、どのバンドにもそれなりのストーリーはあるはずなんだけど、LOST IN TIMEは輪をかけていろんなことがあり過ぎたバンドだと思う。あり過ぎなかったら、もっと普通に終わっていたかもしれない。
CD収録曲
- 再会(新曲)
- 花
- 翼
- 通り雨
- 約束
- 教会通り
- 列車
- 昨日の事
- 北風と太陽
- 秘密
- 然様ならば
- 足跡(STEP UP RECORDSコンピレーション「OUT OF THIS WORLD 4」収録)
- ひとりごと
- ニジノシズク
- 進む時間、止まってた自分
- グレープフルーツ(新曲)
CD収録曲
- あしたのおと(新曲)
- 線路の上
- 手紙
- ヒカリ
- ココロノウタ
- あなたは生きている
- 声(DVD「秒針」ボーナストラック)
- はじまり
- 旅立ち前夜
- 最後の一球
- 26
- 合い言葉
- 希望
- ハローイエロー
- 陽だまり
- バードコール(新曲)
- ぼくらの声の 帰る場所(新曲)
LOST IN TIME(ろすといんたいむ)
2001年1月、海北大輔(Vo,B)と大岡源一郎(Dr)を中心にバンド結成。2002年6月に初のアルバム「冬空と君の手」を発表し、同年9月に榎本聖貴(G)が正式加入する。その後「きのうのこと」「時計」といったアルバムをリリースし着実に評価を高めていく。2006年7月に榎本が突然のバンド脱退を表明。その後も海北・大岡の2人でバンドを継続し、CDのリリースやライブを重ねる。現在はギタリストに三井律郎(THE YOUTH)を迎えた3人編成で活動を行っている。