ナタリー PowerPush - LOST IN TIME
“今”を見つめる珠玉のベスト 海北&大岡に訊く10年間
「きのう編」「あした編」はどちらも今この瞬間に帰結する
──ベスト盤についても、細かく伺っていきましょうか。「きのう編」と「あした編」の2枚がリリースされますが、バンドの歴史を振り返るベスト盤というタイミングで“あした”という言葉が使われているのも、興味深いと思って。
海北 昨日を振り返ることで今を確認していて、明日を思い描くことで今を確認していて。結局、どっちも、今、この瞬間に帰結するんですよ。明日は明日のことを歌っている、昨日は昨日のことを歌っているんじゃなくて、どっちを向いて、今自分が立っている場所を確かめるかっていうことでしかないから。そういう気持ちで分けてみたっていうところかな。
──なるほど。
海北 現状で言うと、最近の音楽業界からは、素敵なニュースがあんまり聞こえてこない。実際LOST IN TIMEも、世間的な認識で言えば、突き抜けてはいない、周りにたくさんいるバンドの中のひとつだと思う。でも、その現実を見ながら、明日を設計するんですよ。そして、そのワクワクする感じを確かめるために、昨日を振り返るわけですよ。今までやってきたことは今の僕までつながっていて、それがあるからこそ、明日、明後日、これからと描くべきことが見えてくる。そうやって考えると、僕はちっとも現状の、音楽以外も含めた今の世界に絶望してなくて、むしろいいこといっぱい待ってそうだなって思うんです。現実逃避というよりは逆に、現実をものすごくちゃんと見たら、案外そういう気分になれたっていうか。今は、気のせい、気のせい、って考えている人のほうがしんどそうですからね。
──今を見つめた結果としての気持ちが詰まっていると。
海北 うん。あとね、もっとほんとは、やりたいこといっぱいあるんすよ。今、弾き語りの旅をひとりでやってるけど、弾き語りの旅も、源ちゃんと2人でやるアコースティックライブも、全部LOST IN TIMEってバンドに帰結させようっていう思いはブレずにやれている。それだけは伝えたいですね。もっとバンドでのライブを観たいなって思っている人もいるだろうけれど、僕はあくまで全部バンドのための活動としてやっているから、「心配するな」っていうよりは、むしろその活動1つひとつから目を離さないで見てくれればうれしいよって。例えば、地方にバンドで行ってお客さんが30人入るのと、ひとりで行ってお客さんが30人入るのとでは、残るお金や次に同じ場所に来れるタイミングが大きく変わるんですよね。それも、20代ではお金のことを大人任せにしていて見えていなかったんだけど、この歳になって見えるようになったからわかることで。でも、バンドはやりたいんですよ。バンドができるように、ほかにやれることがあるなら全部やればいいじゃんっていう。
みんなが絞ってきた曲もほぼ一緒だった
──ところで、選曲はどんな感じで行ったんですか?
海北 最初は2枚にしようっていうアイデアもなくて、デビューして10年だからベスト盤みたいなものを作ってみようかっていう話から始まって。「ちょっと海北くん、収録曲を絞ってみてよ」って言われて。でも僕、今まで自分の曲をふるいにかけたことがないんですよ。筆が遅いからっていうのもあるけれど、基本、書いた曲は今でも歌えるぐらいどれも好きで。だから“絞る”って行為が嫌で、正直、家の中で吐き気が止まらなくなって……。LOST IN TIMEの曲って7~80曲あるんですけど、50曲くらいにしか絞れなくて(笑)。こりゃだめだって思って、源ちゃんや会社のみんなにも手伝ってもらうことに。
──海北くんらしいエピソードですね。
海北 そのうち、2枚同時リリースでいこうかと。それで、ミーティングで「それぞれの盤ごとにテーマを作ろう」って話になって。その過程で、水平線と地平線、朝日と夕日みたいに、コントラストをつける案を出して、その候補の中に明日と昨日があったんですよね。これが一番LOST IN TIMEっぽいなってみんなで思って。それが決まったら、みんなが絞ってきた曲もほぼ一緒だったんですよ。そこに、チーム愛をものすごく感じて。「みんな同じ方向を向いているんだ!」って。そこからはすげえ頑張って、さらにスリムにするのは最終的に僕に任せてもらいました。
──源ちゃんは、最終型を見てどう思いました?
大岡 「秘密」入るんだ!って(笑)。
海北 そこは僕のわがままです(笑)。
大岡 「足跡」は三井くんの「ベストだし『足跡』ってよくねえ?」って意見で入りました(笑)。あと、ベスト盤2枚とも、最初と最後を新曲で挟む曲順なのも面白いなって。それが、今から始まって、昔を思い出して、今に戻ってくる流れを感じさせると思うんですよね。
──そこから、前を見ている今のバンドのモードが伝わってきますよね。
大岡 そうそう。文句ないですね。
海北 文句なし、いただきました!
大岡 (笑)。初めてLOST IN TIMEを聴く人にもいいアルバムになったと思います。
CD収録曲
- 再会(新曲)
- 花
- 翼
- 通り雨
- 約束
- 教会通り
- 列車
- 昨日の事
- 北風と太陽
- 秘密
- 然様ならば
- 足跡(STEP UP RECORDSコンピレーション「OUT OF THIS WORLD 4」収録)
- ひとりごと
- ニジノシズク
- 進む時間、止まってた自分
- グレープフルーツ(新曲)
CD収録曲
- あしたのおと(新曲)
- 線路の上
- 手紙
- ヒカリ
- ココロノウタ
- あなたは生きている
- 声(DVD「秒針」ボーナストラック)
- はじまり
- 旅立ち前夜
- 最後の一球
- 26
- 合い言葉
- 希望
- ハローイエロー
- 陽だまり
- バードコール(新曲)
- ぼくらの声の 帰る場所(新曲)
LOST IN TIME(ろすといんたいむ)
2001年1月、海北大輔(Vo,B)と大岡源一郎(Dr)を中心にバンド結成。2002年6月に初のアルバム「冬空と君の手」を発表し、同年9月に榎本聖貴(G)が正式加入する。その後「きのうのこと」「時計」といったアルバムをリリースし着実に評価を高めていく。2006年7月に榎本が突然のバンド脱退を表明。その後も海北・大岡の2人でバンドを継続し、CDのリリースやライブを重ねる。現在はギタリストに三井律郎(THE YOUTH)を迎えた3人編成で活動を行っている。