ナタリー PowerPush - LOST IN TIME
“暗くても前向き”な傑作アルバム「ロスト アンド ファウンド」完成
LOST IN TIMEが通算6枚目となるニューアルバム「ロスト アンド ファウンド」をリリースする。海北大輔(Vo,B,Piano)、大岡源一郎(Dr)、三井律郎(G/from THE YOUTH)の3人が紡ぎ出すサウンドは、現在のバンドの到達点とも言える輝きを放っている。
ナタリーではこのアルバム完成を機に、フロントマン・海北大輔にインタビューを実施。アルバムについて、そしてバンドの状況について、大いに語ってもらった。
取材・文/大山卓也 インタビュー撮影/中西求
バンドの中心に旗を立てるのは俺だ、って言えるようになった
──新作、すごくいいアルバムになりましたね。
ありがとうございます!
──今回は特に手応えがあるんじゃないですか。
そうですね。これまでなくしたものも多かったんですが、それと同じくらいに見つけたものもあるって気付いて。やっと迷いがなくなって、たぶん俺の歌の軸みたいなところがようやく固まってきたのかなって。自分が絶対譲っちゃいけないものはなんなのかっていうのをすごく確認できたアルバムだと思ってるんです。
──その変化はどうして生まれたんでしょうか?
いろんなことをやる過程で、だんだん聞き分けがよくなっていってた自分がどっかにいて。それを全部やめたんですよ、最近。自分の気持ちに正直にやらないと意味がないと思って、そこを明確に意識するようになった。
──自分の軸が見えた?
はい、俺が歌いたいのはなんなのかっていうのがはっきりわかったんです。例えば今までは「このお茶が美味い!」っていう歌を書こうとしたのに、いろんな人とかかわる過程で「喫茶店でたそがれながらコーヒーが……」って歌にいつのまにかなっちゃったりしたことがあって、「あれ、こんな歌歌うつもりじゃなかったんだけどなあ」みたいな(笑)。
──今までは周りの意見を気にしすぎていたんですかね。
いや、もちろんこれまでもひとつひとつ自分で腹を決めて挑んではいたし、今までやってきたことが嘘だったつもりもさらさらないんですけど、やっぱり今まではメンバーや周囲の人に頼り過ぎてたところもあって。で、頼ってたメンバーがいなくなったとき、外部のプロデューサーに頼ったらそこらへんがゆるい感じになっちゃったりして(苦笑)。もちろん周りの人たちの行動はみんな、間違いなく俺のためにしてくれたことなんだけど、だからこそその気持ちに応えたくてがんばって。でもそういう形でやっても、まあうまくはハマらなかったですよね。
──なるほど。
自分が「俺、これを歌いたいです」っていうのがまず最初にないと、結局恩を仇で返しちゃうことになるし、俺自身がそのブレを極力なくしていくことが大切なんだなって。だから今はまたわがままにやってます(笑)。
──その「わがまま」っていうのは具体的にはどういう感じですか?
LOST IN TIMEっていうバンドの中心に旗を立てるのは俺だよ、ってちゃんと言えるようになったっていうのかな。歌についてはわがままを通そうって思えるようになった。もちろん他の人の意見に対して聞く耳を持ってないわけでは決してなくて、俺もそれを聞いて納得したら変更するけれど、逆に納得できなかったら全部突っぱねる。そのバランスが取れるようになってきたんですよね。例えば、アルバムの歌詞が出揃ってきて「今回、人間の影の部分ばかりを歌ってるけど、もうちょっと光を描いた歌があるとアルバム全体の形が整うんじゃないの?」って意見があったときに「整える必要はないし、今歌いたいのはこれなんです」って言えるようになったっていうか。で、それは前作を作ったからっていうのもあるんですよね。
──はい。
前作の「明日が聞こえる」ってアルバムを作ったときは、ミッちゃん(三井律郎)が入ってバンドがまた3人編成になって、自分自身やっぱりこのスタイルでバンドがやりたかったんだっていう気持ちを再確認できて、ものすごく喜びに満ちあふれていて。その結果すごく手触りの柔らかいアルバムができて、それがひとつの自信にもなった。で、その作品を手にしたときに「次はもっとザラッとした手触りのものを作りたい」「少し暗いアルバムにしたい」って思いが出てきたんですよね。そしたら三井くんも「海北くんのある種ダークサイドというか、ザラザラした感情っていうのは絶対にLOST IN TIMEに必要なパーツだと思うから、次はそっちにも挑んでみようよ」って言ってくれて。
「暗くても前を向くことができるんだ」っていう実感がある
──今回のアルバムの資料で海北くんは「今までのLOST IN TIMEがたどってきた足跡をようやく1本の道にすることができた気がします」と書いていますよね。確かに1stアルバムや2ndアルバムにあったゴツッとした感触がこのアルバムにはあるように思います。
そうですね。ザラッとした部分と、研がれてツルっとなった部分が共存してる。今までやってきたことを全部詰め込んだっていう感覚はあります。自分では「すごく暗いアルバムができたなあ」って思うし、それと同時に「同じくらい前向きなアルバムができた」とも思うんです。「暗くても前を向くことができるんだ」っていう実感があるんですよ。無理に明るくしようとして、その結果、明るくて後ろ向きになる人ってすごく多いような気がして。だったら俺は暗いまんま前を向けるようになりたいなあって。
──確かに、例えば4thアルバム(「さぁ、旅を始めよう」)の頃のLOST IN TIMEは、明るい作品を作ろうとしていたんじゃないかという気がしますね。
明るいっていうよりは光の多いアルバムっていうんですかね。光の当たる場所に歌を持っていこうとして、結果的にその影がすごく際立っちゃったっていうか。今はどっちかっていうと真っ暗な中に飛び込んでいって、そこでマッチ1本で火をつけてる感じ。そしたらみんながそのマッチの火に気付いてくれて。だから結局、外に光を求めるか中に光を求めるか。その違いな気もするんですよね。
──自分の中にある光を歌えるようになった?
はい。これだけいろいろやってきて、それでもまだくすぶりながらも火種が残っててくれたっていう気分があるんです。それを今後は大事にしてやってかないといけないなって。
──今、くすぶってたっていう発言がありましたけど、じゃあ海北くん自身、ここまで順風満帆で来たっていう感覚はないということですよね。
ないですねえ(苦笑)。そんな順風満帆な時期って考えてみても……なかったですもんね。きっとこれからそうなっていくんだと思うんですけど。俺、今の弾き語り旅とかかなりいい感じでやれてますし。だから今はみなぎってますよ。毎日面白いし、ワクワクしてる。で、テンションは高いんだけど決して明るくはないっていう。
──前向きだけど暗いんですね(笑)。
そうそう。それでもいいんじゃないのかな。いろいろ腹が決まった気がするんですよね。
LOST IN TIME(ろすといんたいむ)
2001年1月、海北大輔(Vo,B)と大岡源一郎(Dr)を中心にバンド結成。2002年6月に初のアルバム「冬空と君の手」を発表し、同年9月に榎本聖貴(G)が正式加入する。その後「きのうのこと」「時計」といったアルバムをリリースし着実に評価を高めていく。2006年7月に榎本が突然のバンド脱退を表明。その後も海北・大岡の2人でバンドを継続し、CDのリリースやライブを重ねる。現在はギタリストに三井律郎(THE YOUTH)を迎えた3人編成で活動を行っている。