音楽ナタリー Power Push -「LONDON NITE」35周年特集
「ロック興しの旅は終わらない」大貫憲章が語るロンナイの35年とこれから
1980年にスタートしたロック系クラブイベント「LONDON NITE」が今年で開催35周年を迎えた。時代を超えて数多くのロックリスナーを魅了し続けてきたこのイベントを中心となって盛り上げてきたのが主催者である大貫憲章。音楽ナタリーでは12月16日に東京・LIQUIDROOMにて行われる35周年記念イベントに先駆けて大貫へのインタビューを実施し、イベントの歴史や自らのモチベーションになっているという“ロック興し”の精神について語ってもらった。また特集の後半では「LONDON NITE」ゆかりの34名のアーティストから寄せられたコメントも掲載する。
取材・文 / 望月哲 インタビュー撮影 / 相澤心也
きっかけはThe Clashのイギリスツアー
──「LONDON NITE」が今年で35周年を迎えました。
自分でもびっくりしてます。始めた頃は、こんなに長く続くとは思ってもいなかったんで。イベントはもちろんDJも60過ぎまで続けることになるとは思わなかったし(笑)。
──そもそもDJはどのような経緯で始められたんですか?
きっかけになったのは1980年の1月にThe Clashのイギリスツアーに同行したことですね。当時は開演前のSEをテープで流すのが主流だったんですけど、The ClashのライブではDJが曲を流してたんですよ。バリー・マイヤースっていう今も現役で活躍してるDJなんですけど、彼が2台のターンテーブルを使ってレゲエやロカビリーのレコードをかけていて。その光景がなんともカッコよく見えたんですよね。それで自分でもやってみたいなと思って、帰国後に知り合いを通じて西麻布にあったトミーズハウスというショットバーを紹介してもらって。それが最初のDJ体験ですね。ブラックミュージックを中心にかけるお店だったんですけど、僕だけ無理やりパンクとかニューウェイブのレコードをかけさせてもらって(笑)。
──当時大貫さん以外でロックを中心に回しているDJはいたんですか?
どうですかね。もしかしたら、いたのかもしれないですけど。僕はそれまで音楽評論家みたいなことをしてて、DJの知り合いがいなかったので業界のこととか全然わかってなくて。とにかく自分がカッコいいと思う音楽がかけられればいいやみたいな漠然とした気持ちでDJをやってたんです。そしたらどこで聞きつけたのか、新宿にあったツバキハウスというディスコの方が「うちでやってみないか」って誘ってくれて。それでツバキハウスでDJをやらせてもらうようになったんです。
──そこで「LONDON NITE」がスタートしたわけですね。
ただスタートした当初は散々な状況でしたよ。ツバキハウスって1000人ぐらい入る大バコだったんですけど、当時はお客さんが100人来ればいいほうで、少ない日には数十人っていう。しかも最初はお店の専属DJの人たちと一緒にやってたんですけど、彼らがディスコとかブラックミュージックをかけると盛り上がるんだけど、僕がロックを回した途端、みんな踊るのをやめちゃうんですよ。そういう状況が2カ月ぐらい続きましたね。
若い音楽好き連中の社交場
──状況が好転するきっかけは何かあったんですか?
決定的なきっかけみたいなものは特になくて、お店が一生懸命宣伝してくれた結果だと思います。割引券を作ってくれたり。当時のディスコって飲み食いがタダだったんですよね。ツバキハウスの近くには文化服装学院があったんで、そこに通ってる連中に「17時までに入店すると500円割引になるよ」とかお店の人たちが宣伝してくれて。それでメシを目当てに学生たちが来てくれるようになったんです。あと、「anan」とかが「今、ツバキハウスがロックで盛り上がってる!」とか記事にしてくれて。まあその記事が出た頃は、言うほど盛り上がってなかったんですけど。
──そうだったんですね(笑)。
でも、そういう記事を読んで来てくれたお客さんもけっこういたんですよ。それで徐々に集客が増えていって1年後にはコンスタントに300人ぐらいお客さんが来てくれるようになって。多いときには500~600人いきましたから。
──今とは比べ物にならないくらいメディアの影響力が強い時代とはいえ、イベントそのものが面白くなかったらお客さんは定着しませんよね。
あの頃はロックを中心にかけるようなイベントがなかったんで、そういう音楽を好きな子が集まれる場所が少なかったんでしょうね。「LONDON NITE」に行けば誰かしら知り合いがいるだろうってことで、とりあえず遊びに来たり。携帯電話もネットもない時代だから、実際現場に行かないと知ることができないことがいっぱいあったと思うんですよ。
──情報交換の場としても機能していたという。
若い音楽好き連中の社交場みたいな感じだったんじゃないですかね。パンクス、ニューロマンティック、スキンヘッド、サイコビリーとか、いろんな人種が遊びに来て、1つのフロアで一緒に盛り上がるっていう。
──それは壮観ですね。
ただ、のちのち誤解されて伝わっちゃった部分もあるんですよ。雑誌とかが取材に来ると、ブッ飛んだ格好をした若者ばかり撮影していくものだから、そういう人たちしかいなかったようなイメージで語られることが多くて(笑)。実際、8割ぐらいは普通の格好をした音楽ファンだったと思うんですけどね。自分的にはロック好きな人だったら楽しめる非常にオープンな場だったと思います。
──大貫さんの中では選曲の基準をどういうところに置いていたんですか。
「LONDON NITE」っていうイベント名もあって、最初の頃はイギリスの音楽をメインでかけてたんですけど、パンクとかニューウェイブばっかりで何時間もできるものじゃないんですよね。なので途中からKissとかAerosmithもかけるようになって。あとは1950~60年代のロックンロールとか。ロックであれば別に“ロンドン”にこだわらなくてもいいかなと思うようになったんです。一緒にやってるDJにも「こういう曲をかけてほしい」みたいなことを言ったこともないですし。あくまでも「ロックで踊る」というのがイベントのテーマなんで、みんなが盛り上がってくれれば、もうなんでもいいやって(笑)。
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- Contents Index
- 大貫憲章インタビュー
- 「LONDON NITE」35周年に寄せて
The 35th Anniversary LONDON NITE X’mas Special 2015
- 2015年12月19日(土)東京都 LIQUIDROOM
OPEN / START 15:00 - BAND:BRAHMAN / SHERBETS / THE MAN / THE ZOOT16 / LEARNERS / BUFFALO’3 / and more
- DJ:大貫憲章 / ヒカル / 稲葉達哉 / SHOJI / YOSSY / katchin' / U-ichi / YU-TA / and more
大貫憲章(オオヌキケンショウ)
音楽評論家 / DJ。1951年2月22日生まれ。1971年から音楽評論家として執筆活動を開始する。またNHKラジオ「若いこだま」への出演を皮切りに「全英TOP20」「サウンドプロセッサー」「ロックディメンション」といったラジオ番組のDJやTVK「ミュートマ・ワールド」のVJなどを担当。現在自らがDJを務める番組「Kenrocks Nite - Ver.2」がInterFM897にて毎週木曜日23:00より放送されている。1980年からロック系クラブイベント「LONDON NITE」を新宿ツバキハウスにてスタート。以降、「ロックで踊る」をテーマに掲げ35年にわたり同イベントを開催している。2015年12月19日には東京・LIQUIDROOMにて「LONDON NITE」の35周年イベント「The 35th Anniversary LONDON NITE X’mas Special 2015」が行われる。