上野くんのいいところは、
ラップを聴くとすぐあの顔が浮かぶこと
──「空 -kuu-」に客演しているEVISBEATSさんとは以前も共演してますよね?
EVISBEATSさんのアルバム「ムスヒ」(2018年5月発売)に入ってる「オトニカエル feat. LIBRO」ですね。この曲はもともと、僕の作品、そしてEVISさんの作品も担当してくれてるULTRA-VYBEの池田さんが、会社企画の日本語ラップのキャンペーン(「日本語ラップSTYLE WARS 2017-2018」)の特典CDに収録する楽曲制作時につないでくれて。その特典CDに入ってるバージョンが実はオリジナルなんですよ。そのときに「また一緒にやりましょう」って約束したんです。今回のアルバムはテーマ的にもエビスさんの雰囲気がぴったりだったので、参加してもらうことにしました。
──EVISBEATSさんは和歌山在住ですが、制作はどのように進めたんですか?
基本的にはメールですね。この曲に関しては、僕が歌詞のテーマを二転三転させてしまったので、EVISさんをかなり悩ませてしまったと思います。でもそのたびにすぐ対応してくれて、しかも書き直しても全然クオリティが落ちないんですよ。あとミックスの段階では「この周波数の音のすみ分けをはっきりさせてほしい」とか、すごく細かい部分まで指定してくれたので、僕としてはすごくやりやすかったですね。
──アルバムの雰囲気に合うという意味では、サイプレス上野さんも最高の人選でした。
僕、上野くんたち(サイプレス上野とロベルト吉野)の新しいアルバム「ドリーム銀座」にトラックを提供してるんです(「RUN AND GUN pt.2 feat. BASI, HUNGER」)。EVISさんのときと同じで、制作のやりとりは基本的にメールなんだけど、上野くんから「声も入れてほしい」って言われて急遽レコーディングに参加することになったんです。それがすごく楽しくて。僕も自分のアルバムにもう1人誰かに参加してほしいと思ってたところだったので、その場で「上野くん、僕のアルバムに参加してよ」って。
──現場でつながっていく、ヒップホップっぽい制作エピソードですね。
その場ですぐ快諾してくれました。上野くんのいいところは、ラップを聴くとすぐあの顔が浮かぶところ。ちょっとくらい暗いことを言っても緩和されちゃうんですよ(笑)。そういうのって自分にはない要素だし、そのポップさという意味でもこのアルバムにぴったりの存在でしたね。
自分らしさを100%出せる表現を模索してる
──制作面で一番苦労したことはなんですか?
やはり作詞ですね。とにかく今回は柔らかいニュアンスにしたかったんです。だから極力ラップマナーを持ち込まないということが、僕なりのチャレンジでした。例えば「Again And Again」や「ファインダーゼロ」は、自分自身がこのアルバムの制作で追い込まれた状況で書いたんですよ。世の中の仕事っていろんなベクトルの締め切りがあるじゃないですか? サラリーマンの人たちにも納期とかあるし、アスリートだったら年齢的なこともある。だからそういう人たちが聴いて、テンションが上がるような感じにしたかった。でもこういう表現こそが一番素直な自分なのかもしれない。
──ちなみにLIBROさんの考えるラップマナーに沿った作詞とはどういう書き方なんですか?
ラップって歌と比べると言葉の数が圧倒的に多いんですよ。だから細かくいろいろ説明できるし、なんならテーマが見えなくても、ビートに合わせてなんとなく書き始めて、韻でつないでいくとそれなりの形にはできたりもする。でも今回はそういうやり方ではなくて、少ない言葉で濃い内容の歌詞を書くことを意識しました。
──最近はメロディを全面に押し出したヒップホップも多いですが、今回の作品はそういう流れとは違うLIBROさんなりのフロウの気持ちよさがあると思いました。
おお、それはうれしい(笑)。メロディを使ったラップっていろいろあると思うんですよ。最近のトラップはもちろん、PUNPEEくんやBACHLOGICもメロディをラップに取り込んでる。僕もそのどれにも似てない新しい一角になりたいし、ほかと違うってことがすごく大事だと思っています。
──今作は「雨降りの月曜」から出発し、「マイクロフォンコントローラー」を経て、何周も試行錯誤したLIBROさんが再びメロディと真剣に向き合った作品なんですね。
「雨降りの月曜」とか当時の音源を今聴くと、自分的にはすごく稚拙に思えるんです。でも僕は当時からほかの人と違うことをしたかったんですよ。初めはレコードの掘り方も知らなくて。お金もないから、中古レコード屋さんで100円くらいで売ってるやつを定期的にごっそり買ってたんです。レコードが本当に埃まみれだったから、聴くたびに鼻炎になってました(笑)。実際に使えるものはほとんどないんだけど、ごくまれに奇跡的な1枚みたいなのがあって。そういうのをサンプリングしてたら、たまたまああいう感じの音楽ができたんです。
──LIBROさんの中で今作は、集大成的な作品ですか? それともリブート的な作品ですか?
どうでしょうね? 僕としてはどちらとも言えないし、どちらでもあるというか。結局僕は毎回自分らしさを100%出せる表現を模索してるんですよ。新しいチャレンジをした作品であることは間違いないけど、ここから広がっていくこともあるだろうし。例えば、バンド編成でライブしたりとか、別のシンガーに歌ってもらったりとか。昔はいろいろ悩んで立ち止まったこともあったけど、最近はとりあえず自分でできることをやって、まず形にしてみるようにしています。1つの方法論だけに固執しないで、とりあえずやってみると、結果的にそれが新しい表現になってることも多いし。今回のアルバムはまさにそうやって作りました。でもそれって音楽制作だけじゃなくて、人生とかにも言えることなのかなって思います。