LIBRO|「ようやく自分が何を求めているのか気付いた」試行錯誤の20年を経てベテランラッパーがたどり着いた表現

LIBROがニューアルバム「SOUND SPIRIT」をリリースした。ポップセンスとオリジナリティを併せ持つ彼は、これまでさまざまな作風の作品を発表してきた。1998年発売のアルバム「胎動」に収録された日本語ラップクラシック「雨降りの月曜」を皮切りに、漢 a.k.a GAMIとMEGA-Gをフィーチャーした2014年の楽曲「マイクロフォンコントローラー」、近年で言えばRHYMESTERの2017年のアルバム「ダンサブル」に収録された「ゆれろ」へのトラック提供など。実に多彩でありながら、そのどれもがポップでストレンジな“LIBRO印”だ。

そんな彼が今回アルバムを制作する際にフォーカスを当てたのはメロディやポップさだと言う。今回のインタビューでは新作の話題を中心に、彼の創作の原動力について聞いた。

取材・文 / 宮崎敬太 撮影 / cherry chill will.

メロディやポップさに重きを置いて制作することが
今作の大きなテーマ

LIBRO

──「SOUND SPIRIT」はどんなテーマで制作されたんですか?

普遍性、つまりメロディやポップさに重きを置いて制作することが今作の大きなテーマでした。僕は「雨降りの月曜」の頃から普遍的でありながら、同時に斬新な音作りを目指してて。でもそこから徐々に「斬新な音楽表現こそが一番偉い」と思うようになっちゃったんですよ。自分で言うのもなんですが、僕は根が生真面目でして(笑)。斬新さを突き詰めすぎたら、何が正しいかわからなくなってしまって、一旦活動を休止したんです。でも、制作に対する熱意はずっとあって。何周も何周もいろんな試行錯誤をしつつ、コツコツと制作し続けていたら、この歳になってようやく自分が何を求めているのか気付くことができたんです。

──LIBROさんなりの、普遍性と斬新さの最適なバランスを見つけたということですか?

LIBRO

そうですね。音楽を作り始めた頃は何も考えずにそのバランスをとれていたんだけど、キャリアを積むことでどんどん頭でっかちになってしまって、どこがいい塩梅なのかわからなくなってしまった。今回のアルバムは、その最適なバランス感覚がわかったうえで、あえて普遍性に重きを置いて作りました。今までそういう作品を作ったことがなかったから、それが自分にとってのチャレンジになりうると思って。

──ヒップホップは不良文化がルーツにあるけど、今回はより多くの人に共感できる内容の作品にしたかった、と。

そうですね。僕はこれまでいろんなラッパーと共演したり、プロデュースしたりしてきました。最初は、僕自身がストリートの住人ではないこともあってわからなかったんだけど、何年かすると徐々に彼らの感覚を肌で理解できるようになりました。普通の人たちはリスナーとして、彼らの非日常を楽しんでいると思うんですけど、実際に同じ目線になってみるとそこにはなんとも言えない情緒があるんですよ。そんな彼らの影響もあって、これまでの作品ではヒップホップマナーに沿った強めの表現をしていました。でも今回はより自分らしいスタンスから彼らの持っている情緒を出せないかチャレンジしてみたんです。

──LIBROさんのリアルはどのようなものなんですか?

僕はいつも部屋でトラックを作っています。朝から晩までずっと。週末のライブは行く先々で本当によくしてもらっていて、すごく充実していると感じているんですよ。そのライブ先へ向かっている新幹線でイメージを広げたのが「可惜夜 -atarayo-」という曲。「可惜夜」とは明けるのが惜しい夜という意味。復帰作の「COMPLETED TUNING」(2014年発表)以降は負の感情を歌にしないと決めてるんですが、最近はもっと“生きている今この瞬間”にフォーカスしたいと思っていて。過去でも未来でもなく、今というか。僕は毎日部屋でトラックを作っていて、たまに窓から野良猫ちゃんが見えたりする(笑)。そういう暮らしにすごく満足している。

人生の転機になった曲の続編
「ライムファクター feat. MEGA-G」

──今作の中で最初に完成したのはどの曲ですか?

「ライムファクター feat. MEGA-G」ですね。単純にスケジュールの都合なんですけど。

──「ライムファクター」はアルバムの中で最も過去の作品の雰囲気に近いので、ちょっと意外な気がしました。

そうですね。「マイクロフォンコントローラー feat. MC漢, MEGA-G, LIBRO」のMEGA-Gによる続編みたいな。僕はトラックを渡しただけだったのでそういう意図はなかったんですが、MEGA-Gがこのトピックで歌詞を書いてくれて。

──「マイクロフォンコントローラー」は2014年に発表した、LIBROさんの復帰作「COMPLETED TUNING」の収録曲ですね。

LIBRO

この曲が僕の人生の転機になりました。もともと漢 a.k.a. GAMIのソロ曲としてレコーディング当日に「こいつもラップしてくれるから」と突然MEGA-Gを連れてきて(笑)。しかもレコーディングが終わってスタジオを出るときに、漢が「LIBROも(ラップ)入れたら?」ってさりげなく言ったんですよ。「COMPLETED TUNING」のときは個人での活動を再開したばかりで、そんな半端な自分がラップなんてしていいものかわからなかった。でも漢のそのひと言で吹っ切れた。「やるしかない」って。MEGA-Gはそのときのことも知ってて、今回の「ライムファクター」を書いた。アルバムの中では一番熱いエネルギーがある曲だと思います。

──ちなみに、LIBROさんのミュージックビデオにBMXやスケートボートなどがしばしば登場するのはなぜですか?

もともとBMXをやっている知り合いがいたり、中野heavysick ZEROというクラブを通じて少しずつ知り合いになってきました。それこそ(アパレルブランド)LIBEの森田貴宏(スケートボーダー / FESNの代表)くんとか。僕は以前まで「有名人じゃないとそういうコミュニティに接続できない」と勝手に思い込んでたんですが、実際は全然そんなことなくて。自分が素直になって熱が伝われば、有名無名関係なく誰とでもつながれました。森田くんともheavysick ZEROで仲よくなったし。あと僕は父が転勤族だったこともあって、いわゆる地元意識をあまり持ってなかったんですが、だから地域の人たちとつながって、地元をレペゼンするヒップホップ的カルチャーに憧れてた。中野には森田くんのお店もあるし、スケートボードやBMXのカルチャーも根付いてる。だから僕のMVにも登場するんです。