Laura day romance「合歓る - bridges」インタビュー|2部にわたる複雑な物語の行方は? (3/3)

“隙間産業化”へのアンチテーゼ

──サウンド面で言うと、新機軸を感じさせるハウスっぽい曲もあれば、「roman candles|憧憬蝋燭」の頃のようなフォーキーな曲もあって、ジャンルは多岐にわたっていますよね。サウンドに関してはどういった方向を目指していたんでしょうか?

鈴木 今回は1つの方向を目指すのではなく、とにかくいろんなジャンルを横断することを意識していました。というのも、ここ最近自分の中で「ミュージシャンが隙間産業化している」という印象があって。

──隙間産業化?

鈴木 1つのバンドが1つのことをずっとやり続けている感じというか……そこに僕としては息苦しさを感じちゃうんですよね。「合歓る」はそういう現状に対するアンチテーゼとして作った側面もあって。だから意図的にいろんなジャンルを横断しているし、今までで最もバラエティに富んだアルバムになっていると思います。

──確かにこれまではアルバム通してサウンドのテイストが明確でしたけど、今回は本当に各曲バラバラですよね。でも全体を俯瞰で見たらコンセプチュアルではあるという。

鈴木 そうなんですよ。僕の中では、The 1975の3枚目(「A Brief Inquiry Into Online Relationships」)とかに近いイメージです。各楽曲のサウンドはバリエーション豊かだけれど、アルバム全体を貫くストーリーみたいなものもしっかりあって、それゆえに1枚通して聴いてしまう。そういうアルバムを作れたらいいなと思っていました。

──さまざまなジャンルを横断した今作に、ドラマーである礒本さんはどのように向き合っていきましたか?

礒本 バラエティ豊かな分、自分の中でイチから文脈を作っていかなきゃいけないのが大変で。そこはけっこう模索しました。これまでまったく手を出したことがなかったジャンルにもトライしましたし。そのうえで、例えば「肌と雨|skin and rain」みたいなジャズっぽいフレーズが入った曲でも、完全にジャズにはならないように意識していて。自分の中に文脈がないジャンルにどれだけ近付こうとしても、本当にたどり着くことはできないので。

鈴木 自分たちが偽物であるということを常に踏まえながら作っていたよね。いろんなジャンルを取り入れてはいるけど、あくまで僕らは偽物だって。

礒本 そう。だから、そんな中で自分たちらしさをどう楽曲に落とし込んでいけるかは、かなり試行錯誤したところでした。あと、曲を渡された時点で、自分はストーリーへの理解度がゼロなので、わからないことだらけだったんですよ。まったくの他人とどう向き合うか?みたいな挑戦を、今回のレコーディングではやり続けていましたね。

──井上さんはボーカリストとしていかがでしたか?

井上 「人間、いろんな面があって当たり前だよね」というのを歌いながら感じられたのがよかったです。すべての曲で同じ2人について歌ってはいるけれど、その中でも本当にいろんな表情があるので。「この主人公は今どんな気持ちなんだろう」ということを考えながら歌えたのも楽しかったですし。この作品が表す人間の複雑さや、それを1つの物語としてつないでいくことの面白さを、歌でうまく形にできたんじゃないかなと思っています。

“胸を張って問いたい作品”ができた

──「合歓る」というアルバムを作ったことは、Laura day romanceの歴史においてすごく重要な意味を持つものになると思います。長かった制作期間を経て、この2部作を完結させた今この時点での、皆さんの手応えはいかがでしょうか?

鈴木 手応えか……難しいな。どうなんでしょうね。皆さんに届いてみないとわからないかもしれないです。こんなに長い時間をかけて何かを作ったことなんてなかったですし、まだ自分たちでも全部を把握できてはいないので。ただ、少なくとも言えるのは、「みんなどう思う?」と問いたくなるような作品にはなったなと。それは例えば「聴き心地いいから聴いてみて」というのとは全然違っていて。このアルバムにしかない面白さや重量感……それをみんながどう感じるかを聞きたいんです。「どう思う?」と言いながら、このアルバムを1人ひとりに渡したい。そういう“胸を張って問いたい作品”ができたことは、物を作る人間としてすごく誇らしいことだと思ってます。

礒本 前後編を通して聴くと、人間の多面性とか、1つの物語に対しての複数の視点を感じることができると思うんですよ。そういう作品に触れると「生きていくうえで今まで見えていなかったものがまだまだありそうだな」と自分事として感じられるというか。そういう点でも、いろんな人に勧めたくなるアルバムですね。この制作期間中、音楽活動においてもプライベートな部分でも、いろいろと変化があって。そういうときに側にいてくれたという思い入れも込みで、自分たちのアルバムの中で一番好きな作品です。

井上 私は「どのタイミングで聴いても、その人の中でいろんな感情や考えが生まれるだろうな」と思えるのが一番いいなと感じていて。それは、複雑なものを20曲という質量で表したからこそ、そうなったと思うんですよ。いつ誰が聴くかによって解釈が大きく変わるだろうし、自分とリンクさせたくなるような曲がたくさん並んでる。わかりづらい部分もあるだろうけど、だからこそ多くの人に届くはずだし、それはこの作品がすごくリアルだということでもあると思うんです。人と人との関係とか、世界の在り方とか、あらゆるものの複雑さが、そのままここに表れている。例えば50年後、誰かがこの作品を聴いたときに「ああ、この頃ってみんなごちゃごちゃしてたんだね」と感じられるような、今の時代を映し出した作品になっているんじゃないかなと。そういう点で、手応えはめちゃくちゃありますね。

Laura day romance

Laura day romance

──「わかりづらい部分があるからこそ届く」という言葉がありましたが、ここまで主語や時制を曖昧にして物語を提示できるのって、ポップミュージックだけだと思うんですよね。小説でも映画でも、きっとそれはできないことで。そういう意味で言うと、この「合歓る」2部作は、実はポップミュージックというアートフォームでしかできないことを何よりも体現している作品なんだと思います。

鈴木 なるほど……! 確かにそうかもしれないですね。自分は物作りをするからには、ポップな状態に落とし込もう、老若男女に勧められるものにしよう、と思っていて。それは確かに、ポップミュージックという形式を借りて初めて実現できることなのかもしれないです。

井上 詩だと受け手の想像力に任せる部分があまりに大きすぎるけど、そこに音が付くことで物語性が出てくるもんね。

鈴木 音や旋律が加わることでね……うん、すごく腑に落ちたし自信になりました。ありがとうございます。

──最後に、3月から開催されるホールツアー「Laura day romance hall tour 2026 "Fixing a hall"」についてもお聞きしたいです。東京国際フォーラムでのライブ(参照:Laura day romanceがアルバムの世界を円環させた初ホール公演、満員の会場で示した最新のローラズ)などを経て、ライブハウスとホールでのライブの違いも見えてきたと思うので、その点を含めて意気込みをお願いします。

井上 ホールでのライブって“より飽きやすい”と思うんですよ。

礒本 “より”なんだ(笑)。

井上 立って観るのもそれはそれで疲れるからさ。でも座ってると眠気が襲ってきたりもするので、その眠気を回避させるためにも、私たちがお客さんを没入させなきゃいけないなと。1つの世界に自分たち含めてみんなで没入できるようなライブにしたいと思ってます。

礒本 ホール会場は、ライブの作品性がものすごく高まる空間でもあるんですよね。その特性をどう生かすか、という部分は真剣に考えていきたいです。

鈴木 ライブハウスと比べて“上映する”という側面が強いというかね。そういう点で「合歓る」は、ホールでのライブに適した作品だとは思う。とはいえ、退屈してしまう可能性があるというのは確かにそうなので、作品として見せる部分と肉体的な演奏を聴かせる部分のいいバランスを取れるようにしたいです。

礒本 ライブハウス的な距離感の近さを感じられる演出があっても、それはそれでいいだろうしね。そういうところを含めて、自分たちがお客さんの目にどう映るかを普段以上に意識しながら、これから準備を進めていこうと思います。

Laura day romance

Laura day romance

公演情報

Laura day romance hall tour 2026 "Fixing a hall"

  • 2026年3月15日(日)宮城県 トークネットホール仙台
  • 2026年3月28日(土)福岡県 福岡国際会議場
  • 2026年4月4日(土)北海道 札幌教育文化会館
  • 2026年4月10日(金)大阪府 NHK大阪ホール
  • 2026年4月11日(土)愛知県 岡谷鋼機名古屋公会堂
  • 2026年4月16日(木)東京都 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)

プロフィール

Laura day romance(ローラデイロマンス)

井上花月(Vo)、鈴木迅(G)、礒本雄太(Dr)からなる3人組バンド。2018年2月に1st EP「her favorite seasons」をリリースし、8月には音楽フェスティバル「SUMMER SONIC 2018」への出演を果たす。2019年6月に初の両A面シングル「sad number / ランドリー」、2020年4月に1stアルバム「farewell your town」を発表。2022年3月には2ndアルバム「roman candles|憧憬蝋燭」をリリースし、同年8月に春夏秋冬の季節に連動したEPを4作連続で発表するプロジェクト「Sweet Seasons, Awesome Works」を始動させた。2025年2月に2部作のアルバムの前編にあたる作品「合歓る - walls」、12月に後編にあたる作品「合歓る - bridges」をリリース。2026年3月から初の全国ホールツアーを行う。