今の時代ならではの言葉を使いたい
──ここからは各楽曲についていくつかお話をお聞きできればと思います。まず1曲目「5-10-15 I swallowed | 夢みる手前」は雑踏の音で始まる演出が印象的です。
鈴木 この音は、曲中に出てくる副都心線の駅で録音したんですよ。物語の幕を開けるうえで、作品の世界と聴いている人の距離を近付けたくて、こういう演出にしました。「副都心線」という固有名詞を使ったのは、その時代の生活感をリアルに感じさせたかったから。「渚で会いましょう」の「氷を詰めたカップ」もそうだけど、今の時代を生きる人ならではの言葉を使いたくて。
井上 首都圏以外の人が聴いたら「副都心線?」ってなりそうだよね。
鈴木 Arctic Monkeysの曲とかも「これどういう意味?」って引っかかるような言葉が入っていたりするから、フックとしてそういうのもアリなのかなと。ほかにも、タイトルの「5-10-15」は、2曲目「Sleeping pills | 眠り薬」に出てくるThe Presidentsの曲とリンクしていたり、アルバム全体でいろんな要素をつなげたりしています。
──タイトルの話で言うと、4曲目「深呼吸=time machine」だけ、副題という形ではなくイコールで結ばれているのが気になりました。
鈴木 「深呼吸=time machine」だけほかの曲と立ち位置が違うので、タイトルの付け方も変えてみました。自分の中ではこの曲を分岐点にして物語が変わっていくというイメージです。
──なるほど。その分岐点を経て過去にさかのぼり、5曲目「転校生 | a new life!」へと進んでいきますね。この曲は、温かみのある音像やメロディの心地よさにかつてのLaura day romanceっぽさを感じつつ、後半の大胆な展開に今のローラズのひと筋縄ではいかないところも感じました。
井上 今まで、こんなに転調する曲なかったもんね。
鈴木 なかった、なかった。「転校生」は別々の曲としてあったパーツをつなげて作ったんですよ。「転校生が来るって、これくらい大事件だったよな」というのを表現したくて、大胆に転調させました。今振り返ったら大したことないけど、小学生とか中学生にとってみれば、転校生がやって来るって革命みたいなものじゃないですか。
礒本 パワーバランスが変わるよね。
鈴木 そうそう。僕はめちゃくちゃ田舎の小学校に通っていたんですけど、急にすごく都会的な子が来て、一気にクラスの雰囲気が変わったんですよ。みんなその子のことを気にするようになっちゃって(笑)。そういう衝撃を描けたら物語として面白いかなと思って曲にしました。
井上 私、この曲好きなんだよね。爽快感がすごすぎて。シングルカットするかずっと迷ってました。
これが後編にどうつながっていくんだろう
──「転校生」の次は「mr.ambulance driver | ミスターアンビュランスドライバー」ですが、このタイトルはThe Flaming Lipsの楽曲からの引用でしょうか?
鈴木 そうです。もともと「アンビュランス」という言葉を使いたかったけど、センシティブなワードなので大丈夫かな?と思っていて。そんな中でThe Flaming Lipsの「Mr. Ambulance Driver」を改めて聴いて安心したというか。ちゃんといい世界観を描けていたので「使って大丈夫だ」と思って、こういうタイトルと歌詞にしました。
──曲自体はすごく軽快ですけど、内容はそれこそすれ違いについて歌われたりしていて、わりとシリアスですよね。
鈴木 そうですね。歌詞と音像がかけ離れた曲にしたかったんですよ。タイトルの通り、あくまで運転手とそれを取り巻く人たちの物語なので、どこか他人事っぽい感じを出したくて。その結果、爽快感はありつつもダークな雰囲気の曲になりました。
──自分は今回のアルバムだと「プラットフォーム | platform」が一番好きでした。平熱が続いていく中で徐々にエモーションを帯びていく様が、繰り返しのメロディとボーカルのニュアンスでとても巧みに表現されていると思います。
鈴木 ありがとうございます。「プラットフォーム」では、過去のことを思い出すうちに感情がたかぶっていく様子を捉えたかったんです。「合歓る - walls」は、タイムマシンのようなもので過去に戻って……というのが1つの軸になっていて。例えば「mr.ambulance driver」や「smoking room | 喫煙室」は現代のパートなんですけど、「プラットフォーム」では、それらとは違うつたなさを出したかった。だから音数もほかの曲と比べたらだいぶ少ないですし。言葉にならない感情や、言葉の1つひとつを大切にしている感じを、メロディと歌詞とサウンドで立ち上げることができたと思います。このアルバムで、一番感情的な部分を担っている曲なのかなって。
──ラストはシングルとしても発表された「渚で会いましょう | on the beach」です。単曲で聴くのとアルバムの最後に聴くのとでは、やはり聞こえ方が全然違うように感じました。アルバム全体のカタルシスを担っている印象があるというか。
井上 わかります。エンディング感がありますよね。私は普段、自分が歌っている曲を聴くと、どうしても一緒に歌っている感覚になってしまって、あまり客観的になれないんですよ。でも「渚で会いましょう」は他人が歌っている曲かのように聴けたんですよね。本当に作品のエンドロールを観ている気分になれる。
──リズムがかなり複雑なのも特徴ですが、礒本さん的にはこの曲はいかがでしょうか?
礒本 難しかった! リズムについてはもう聴いてもらったまんまで、「難しかったです」ということに尽きます(笑)。このアルバムは「プラットフォーム」である程度感情が出切っているので、そのあとの「smoking room」はアイドリング的な感覚で聴けちゃうと思うんですよ。でも「渚で会いましょう」があることで「これが後編にどうつながっていくんだろう」と興味を引くことができるのかなと思います。
「説明しすぎねえぞ」
──これから後編の制作も続くと思いますが、改めて「合歓る - walls」はLaura day romanceにとってどんな作品になったと思いますか?
井上 今日お話ししていて、今回のアルバムは「説明しすぎねえぞ」という私たちの確固たる意志が出ている作品だなと思いました。さっき「具体的な描写が出てくるのに全体像がつかめない」と言ってくださいましたけど、やっぱりそういう余白を残しておきたくて。説明的なほうが世間へのウケはいいと思うけど、想像力を持って聴いてもらいたいんです。
鈴木 いろんな疑問が湧くような作品のほうが、受け手の中で膨らんでいくからね。そういう音楽を作りたいし、それを広く届けることで、下の世代のミュージシャンに「こういうことをやってもいいんだよ」と示したい。ファストな消費に走らせがちなこの時代に長編のアルバムを作ったのも、そういう意志の表れで。
井上 歌詞を書いたのが自分じゃないから言いますけど、例えば「渚で会いましょう」を小学生の国語教育で使ったら、想像力を培う一助になると思うんですよね。
礒本 急に話デカくない?(笑)
鈴木 俺はそんなこと言ってないからね!
礒本 授業で使うならもっとわかりやすい曲のほうが。
井上 いやいや、「わからないことがある」ということに触れるのが大事なんだよ。「急に出てきた宮沢賢治、何これ」みたいな感じでさ。私は、“わからなさ”を芸術的に持っている作品がもっと身近にあったらいいのにとずっと感じていて。そういうものがどんどん消えていくことに焦りを覚えているんだよね。そういう意味で私たちはすごく大切なことをしていると思うし。普段からそんな大層なことを考えているわけではないけど、 “意味のはっきりしない物語”を届けるのもアーティストとしての使命というか。自分たちの音楽を世の中に広める意味はそこにあるのかなって。
礒本 じゃあいつか「渚で会いましょう」が国語の教科書に載る日も……。
鈴木 ないない! 歌詞はともかくリズムが難しすぎるから(笑)。
──(笑)。これからも、Laura day romanceの曲がいろんな人に広まっていくことを楽しみにしています。最後に、4月に大阪城音楽堂と東京国際フォーラムで開催される「Laura day romance oneman live 2025 wonderwall」について、ひと言ずつ意気込みを聞かせていただけますでしょうか。
鈴木 僕らの音楽は「映画的」と表現されることがよくあるので、そういう意味では座って観られる会場はすごく適しているのかなと。どんなことをするかまだ全然決まってないけど、やれることは無限にあると思うので楽しみです。
井上 最近「サンリオピューロランド」に行ったんですけど、帰ってからもずっと電飾の光の感じが頭の中にあって。しばらく余韻に浸っちゃったんですよね。私たちのライブでも、そういう気分にすることができたらいいなと。座って観てもらうということは、より“自分たちが与えるライブ”になるはずだから、ライブを見たあとの“読後感”のようなものを改めて意識したいです。
礒本 僕は寝かさないようにだけがんばりたいですね。座っているとついウトウトしちゃうと思うので、定期的に大きい音を出して起こしていこうかなと。
鈴木 シンバルで?
礒本 そうそう。ジャーン!って鳴らしてね。
井上 あはははは。皆さん、別に寝てもいいですからね(笑)。
鈴木迅が選ぶ“理想の長編作品”3選
ジョン・スタインベック「怒りの葡萄」(小説)
言うまでもなく超名作ですが、数年前に初めて読みました。積み重ねられた絶望の欠片とその果てのラストは、物語そのものよりもはるかに大きな道が描かれていて、圧倒されました。
ヴィンス・ギリガン「ブレイキング・バッド」(ドラマシリーズ)
超名作ばかりで申し訳ないですが。全ての選択が物語をロールさせるっていうのは当然として、その選択をすることに一つの矛盾も作らないくらいの緻密な人物の描写でこのドラマを上回るものはないような気がします。選択をする主体であった人間が、逆に選択に人格を変えられるという点でも、どこまでも奥行きがあるなと思います。
ケンドリック・ラマー「Mr. Morale & The Big Steppers」(アルバム)
前後編で作ることに決まり、このアルバムは「To Pimp A Butterfly」より参考にしました。タップダンスの意味、エックハルト・トールという存在、「I choose me, I'm sorry」と連呼するラスト。ちょっとしたところに作品を深める落とし穴が置いてあっていまだに全容を掴めている気がしません。
公演情報
Laura day romance oneman live 2025 wonderwall
- 2025年4月26日(土)大阪府 大阪城音楽堂
- 2025年4月29日(火)東京都 東京国際フォーラム ホールC
プロフィール
Laura day romance(ローラデイロマンス)
井上花月(Vo)、鈴木迅(G)、礒本雄太(Dr)からなる3人組バンド。2018年2月に1st EP「her favorite seasons」をリリースし、8月には音楽フェスティバル「SUMMER SONIC 2018」への出演を果たす。2019年6月に初の両A面シングル「sad number / ランドリー」、2020年4月に1stアルバム「farewell your town」を発表。2022年3月には2ndアルバム「roman candles|憧憬蝋燭」をリリースし、同年8月に春夏秋冬の季節に連動したEPを4作連続で発表するプロジェクト「Sweet Seasons, Awesome Works」を始動させた。2025年2月に、2部作のアルバムの前編にあたる作品「合歓る - walls」をリリース。4月に大阪城音楽堂と東京国際フォーラム ホールCにてワンマンライブ「Laura day romance oneman live 2025 wonderwall」を行う。
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