ナタリー PowerPush - 栗山千明×後藤まりこ

歌う女優と演じるボーカリストを照らす“とよす”の“ルシフェリン”

「栗山千明」であるための音楽活動

──確かに後藤さんや滝さんのような個性的なスタッフが集まってるのに栗山さんの声が入ることでちゃんと成り立っているというか、楽曲が1つにまとまっている感じがしますよね。

栗山 でもたぶんそれは反対で。私が理由を考えたり計算したりすることなくマイクに向かった瞬間の気持ちやテンションを素直に出せるような曲をお2人に作っていただいてるから、ちゃんと私の曲になってるんですよね。もちろんアーティストとしてまだまだ勉強しないといけないことがたくさんあるんですけど、その今の私や今の気持ちだから歌えるもの、その私を光らせてくれる曲をいただいているんだと思ってます。だからとってもやりがいがあるし、活動していて楽しいんですよね。

──後藤さんから見た歌手・栗山千明の評価って?

栗山 恥ずかしい……(笑)。

後藤 いや、なんか思っていたよりエモーショナルな人なんやなって。なんかこう、いろいろな人に曲を提供してもらってる人やから、そのもらった曲をテクニックとかを使って歌い上げる方面でやってるんかなと思ってて。でも「そのときの感情をバーッと歌えるのが楽しい」とか、そういうワードを聞いてると、激情型って言ったらアレやけど、そういう人なんやなって思ったかな。実際、今回もそういう感じで歌ってるし。

栗山千明

栗山 あれなんですよ。芝居っていただいた役を演じるから、自分の気持ちみたいなものをすべて出すわけにはいかなくて。だからアーティストとして活動するときは、ちょっとそこから抜けたいというか。「○○役の栗山千明」じゃなくて「栗山千明」としてやりたいんです。実際、芝居のときって「この子はこのストーリーの中でこの役割を担ってるんだから、こうしなきゃ」って考えるんですよね。例えば悪役を演じるときは悪役に徹する。どんだけ悪くいられるか、みたいな。たとえ自分っぽくなくてもそのキャラクターの言動を理解して行動するんですけど、アーティストのときはそういうフィルターが少ないというか。詞を読んで自分なりに理解した通り、曲を聴いて感動した通りに表現できる。もちろん表現者として、その内容をわかりやすく、伝わりやすくデフォルメしなきゃいけない部分もあるんですけど、それでも芝居のときに比べると、私の中のフィルターの量は少ない気がしますね。

まずはお手紙から始めましょう

後藤 ご自分で歌詞とかは書かないんですか?

栗山 だから実はすごく興味があって(笑)。でも歌詞もそうですし、小説や本なんかもそうなんですけど、何かものを書く作業、0から1にする作業って今まで経験したことがないんですよ。それもあってさっきは後藤さんに質問しちゃったんです。どうやって書いてるんだろう? どういうきっかけで書いてみようと思ったのかな? って気になって。

後藤まりこ

後藤 いや別に普通に。……普通にって言ったらヘンやけど(笑)大阪生まれ特有の文化なのかもしれへん。どんな言葉にもリズムがあるんですよ。「♪ハナテン中古車センター」って感じで。「♪1、2、3、4、5、6、7、8、9、10」とかもそうやけど、いろんな言葉にメロやリズムがある。なんかようわからんですけど、ボクもそんなんと同じノリでフシを作れちゃうんですよ。栗山さんも学校に行ってはった頃、作文とか書いてたと思うんですけど、そのときみたいなノリで書いたらええんやと思いますよ。きっとその中には東京の人なりのフシとかリズムとかが出てくるから。だから日記とかから始めてみたらどうですか?

栗山 ところが日記すら書いたことがないんですよ……。

後藤 なら今から書きましょう!

栗山 はい!(笑) ただ、おっしゃる通りまずは日記なんかで文字を並べてみることから始めるべきなんだろうなあとは思うんですけど、なにぶん文章を書いたことがない上に、ずっとほかの人を演じてきたので……。20歳くらいの頃、映画なんかの取材のときに役やストーリーについての質問にはパッと答えられるんですけど、「じゃあ栗山さんご自身の意見は?」「栗山さんは?」って言われると、なんか答えがフワフワしちゃってたんですよ。いろんな役をやっているうちに、本当に自分が好きなこととか嫌いなことがなんなのかよくわからなくなってきちゃったというか。

──なるほど。

栗山 で「これじゃいけない。自分を大切にしよう」って思ってた頃にちょうどアーティストとしてのお仕事のお話をいただいて、ようやく「栗山千明」として表現できる場所ができたんですけど、まだまだ経験が浅いから「実際どうなのかな?」っていう気持ちもあるんですよ。そんな私でもいつかは思いを文字にすることはできるのかな? 思いを言葉にすることに慣れるようになるのかな? って。

後藤 それはすぐに慣れますね、たぶん。ただ日記はムリそうなら手紙とかでもいいんじゃないですか。手紙って誰かに思いを伝えるために書くもんなんやし、自分宛の手紙なら思いを書けるかもしれない。文章も短くて済むし。

栗山 確かにそれだったらできるかも(笑)。わかりました、そこからやってみます!

ニューシングル「とよす☆ルシフェリン」/ 2013年4月24日発売 / 1260円 / DefSTAR Records / DFCL-2002
初回限定仕様ジャケット
通常仕様ジャケット
※初回仕様限定盤の生産終了後に、通常仕様のジャケット絵柄に切り替わります。
収録曲
  1. とよす☆ルシフェリン
  2. ほどけない、僕等は絶対。
  3. ルーレットでくちづけを
栗山千明(くりやまちあき)
栗山千明

1984年生まれの女優、モデル、歌手。5歳の頃よりジュニアモデルとして活動を開始し、1999年映画「死国」で女優デビュー。その後2000年の「バトル・ロワイヤル」、2003年の「キル・ビル Vol.1」などに出演し、国内外で高い評価を集める。2010年CHiAKi KURiYAMA名義のシングル「流星のナミダ」でアーティストデビューを果たし、同11月、布袋寅泰プロデュースのシングル「可能性ガール」を栗山千明名義でリリースする。以来、浅井健一プロデュースによる「コールドフィンガーガール」、椎名林檎による「おいしい季節 / 決定的三分間」「月夜の肖像」といったシングル、9mm Parabellum Bullet、いしわたり淳治、氏原ワタル(DOES)、BUCK-TICK、ヒダカトオルらも参加のアルバム「CIRCUS」を発表。2013年4月、9mm Parabellum Bulletの滝善充(G)が作曲、編曲、演奏、プロデュースを手がけ、後藤まりこが作詞したシングル「とよす☆ルシフェリン」を発売。

後藤まりこ(ごとうまりこ)
栗山千明

大阪府生まれ。2003年に結成したロックバンド・ミドリでボーカルとギターを担当する。ジャズとパンクを融合した音楽性と、セーラー服姿での激しいパフォーマンスで話題を集めるも2010年12月30日のライブを最後にバンドは突然解散。しばらくの沈黙の後、2011年12月27日に開催した自主企画イベントでソロとして再始動を果たし、2012年7月にソロ1stアルバム「299792458」をリリースする。同年8月からはロックミュージカル「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」に森山未來とともに出演し、2013年4月公開の映画「ペタル ダンス」で映画初出演。また同月より放送のTVアニメ「惡の華」のオープニングテーマにゲストボーカリストとして参加。