心の中から広がる宇宙を描いてみたくなった
──10月に配信された「透明な砂時計」もシンプルな構造ですね。J-POPには珍しいヴァース・コーラス形式で、要はAメロとサビしかない。
本当だ。言われてみればかなりシンプルですね。
──曲調としては浮遊感と温かみのあるワルツですが、今回の3曲はリリース順に作っていったんですか?
2カ月ぐらいの間に3曲書いたので制作したタイミングは同じなんですけど、作った順番はどうだっただろう? でも、「LAST LOVERS」が最初だったのは確かです。あ、「透明な砂時計」は季節に合わせて、秋の夜長にゆっくり聴けるような曲にしたかったので、もしかしたら順番通りかもしれません。
──「LAST LOVERS」が「最後の恋」を感じてウッキウキの状態だとしたら、「透明な砂時計」は「あなた」への思いにふけっている感じですね。歌詞の世界もミニマルというか、この空間には自分と砂時計しか存在していないかのようで。
そんなイメージもありつつ、そこから広がる想像力って宇宙的だと思っていて。心の中から広がる宇宙というか、銀河まで行かないけど、星空のその先を感じられるような情景を描いてみたくなったんです。その宇宙感みたいなものを音で表現してくださる方はどなたかなと考えて、三好啓太さんに編曲をお願いしました。
──三好さんは「曖昧♪モーメント」(「LEAP」収録曲)と「clear」(2021年8月発売の39thシングル「Just the truth」カップリング曲)の編曲、および「シュガー・シュガー・スパイス」(2022年11月発売の41stシングル表題曲)の作編曲を手がけていますね。
はい。何度かお世話になっていまして、三好さんの繊細なアレンジがすごく好きなんです。
──「LAST LOVERS」はデジタルなサウンドでしたが、「透明な砂時計」は室内楽以上、オーケストラ未満みたいな感じですね。ピアノ、ストリングス、アコーディオン、木管楽器といった生楽器の柔らかい音色が心地いいです。
いろんな楽器を使っているのにゴテゴテしないというか、スッキリと、きれいに響かせてくださるんですよね。
──タイトルにある「砂時計」というモチーフは、どこから?
私の部屋に置いてあるんです。砂時計って、砂が少しずつ落ちていって、落ち切ったらひっくり返して、また新しい世界が始まるみたいなイメージがあって。それをぼーっと眺めていたときに「歌になりそう」と思ったんです。
──歌詞では、砂時計の底に砂が積もっていく様子と、自身の「愛が積もる」様子を重ねていて。ひっくり返し続ければ無限に積もらせることができる。
こういう曲も、オリジナルな世界を表現する機会があったから書けたんですよ。「LEAP」を作ったときも、そのとき表現したかったことを自由に表現できたんですけど、今回の3曲に関しても「恋愛」というテーマに沿ってさえいれば何をしてもよくて。逆に言えば全部自分で判断する必要があるし、選択肢も数限りなくあるんですが、シンガーソングライターとしては、そういう機会をいただけるのはとてもありがたいことです。
自分で作った曲を、誰かからの提供曲だと仮定する
──「透明な砂時計」のサビは「愛が積もる 愛がつのる 愛よ、留まらないで」と、3拍子の1拍目に「愛」という言葉を3回続けて置いていて。この母音の響きと、リズムとメロディがうまく噛み合っていると思ったのですが、この曲も歌詞を先に書いているんですよね?
そうです。この仕事を始めた頃は、そういう言葉の響き方はあまり意識していなかったんですよ。でも、年月を経るとともにいろんな曲を聴いたり作ったりしていく中で、まさに「愛」とか、あ行は音として響かせやすいとわかってきて。そういう言葉が1文字目にあったほうがいいのかなと思うようになりましたし、よっぽど「この言葉じゃなきゃダメだ」というのがない限りは、響きを重視していますね。
──ゆったりした優しいボーカルも、浮遊感のあるトラックと調和しています。
ありがとうございます。ファルセットで歌う部分があるんですけど、そこでいかにきれいな声の出し方をするかが難しかったというか。頭の中にある「こうやって歌いたい」というイメージと重なるように、注意しながらレコーディングしました。
──高い音はここまでいける、といったご自身の声域を把握したうえで作曲しているんですよね?
把握してはいるけれど、ある程度高い音があったとして、その音を地声で出すのか、ファルセットで出すのか選ばなきゃいけない場合があって。「透明な砂時計」だったら、例えば「リセット」のところでファルセットを使っていますが、「リセット」という言葉自体はけっこうシャキッとした響きがあると思うんですね。それをファルセットで歌うことで柔らかい、ちょうどいい温度感になる。そういうちょっとした響かせ方の違いを頭の中で自分と相談しながら、自分の声が一番おいしく聞こえる表現を選択していく感じですね。
──なるほど。
仮に私以外の人がこの曲を歌ったら、また違う歌い方がハマるかもしれなくて。要は、自分の声でこの曲に向き合ったとき、どういう表現をすればみんなにとって一番聴き心地がよくなるのかを探るんです。さっきの「LAST LOVERS」で、レコーディング前に「1回フルサイズで録っている」「すでに答えが出ている」という話をしましたけど、そのうえで、どなたかからいただいた曲に自分の声で向き合うような意識も持ち合わせています。
──面白いですね。自分で作った曲なのに。
もちろん、自分で作った、すでに歌い方の正解まで出てしまっている曲を、提供曲だと仮定するのは難しいんです。でも、そうすることで新鮮な気持ちで臨めるし、自分の表現を見つめ直す機会も得られるんですよね。
──そうやって自分を客観視していないと、知らず知らずのうちに表現が凝り固まってしまうかも。
それはあると思います。決まった歌い方しかしなくなるみたいな。例えば、せっかく今回の3カ月連続リリースのような初めての試みをするんだったら、自分の表現においても、何か1つだけでも新しいことができたほうが絶対に楽しいので。
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体調が悪くても歌えるぐらいの曲=キャッチーな曲

