体調が悪くても歌えるぐらいの曲=キャッチーな曲
──11月リリースの「ふたりのデスティネーション」は、おそらくは栗林さんのファンにとって聴きなじみのあるメランコリックなミディアムバラードですが、先の2曲とはだいぶ落差がありますね。
こういう切ない感じの曲も、きっとみんな好きだろうなって。もしかしたら3曲のうち1曲ぐらいはもっと勢いのある、ロックっぽい曲が求められていたかもしれないんですけど、私の中では「恋愛」をテーマに3曲作るとなったら、今回はこうかなと思いました。季節的にも、寒い時期にハマる、切なさが炸裂する感じの曲にしたかったんです。
──ちょっとオールドスクールなアニソン感もあります。編曲は田熊知存(Dream Monster)さんで、「seed of hope」(「LEAP」収録曲)のアレンジをなさった方ですね。
そう、どこか懐かしくもありますよね。田熊さんとは今おっしゃった「seed of hope」で初めてご一緒したんですけど、音のストーリーというか、流れを作るのが本当にお上手な方で。「ふたりのデスティネーション」もきっと素敵な曲にしてくださると思って、お声がけさせていただきました。
──「切なさが炸裂する」とおっしゃいましたが、「LAST LOVERS」で恋のワクワク感を、「透明な砂時計」でパートナーへの一途な思いを描いておいて、最後に「そんな容易くハッピーエンドにさせてたまるかよ」みたいな、現実を突き付けられた感があります。
その捉え方、面白いですね(笑)。「ふたりのデスティネーション」の歌詞はよくあるシチュエーションというか、言ってしまえば別れ話をしている男女にフォーカスしていて。男の子のほうはちょっとはっきりしないタイプで、女の子のほうが強い感じ。そういうありきたりな話をきれいな曲にして、美しく歌いたかったんです。
──別れる、別れないの選択権が女性側に預けられている状態。
そうなんですよ。だから女の子のほうが心情的にはすごくつらくて、それに対して男の子のほうは何も言ってくれないという。
──汚い男ですよね。別れても別れなくても、あとで何か言われたら「お前が決めたんだろ?」と責任を押し付けられる立場をキープしている。
本当にそういうお話ですね(笑)。で、別れる直前のタイミングが一番つらいと思うので、その一番つらいときを、寒い季節に表現することで一層つらく感じてもらえるかなと。
──先月までは秋の夜長に砂時計をひっくり返すなどしていたのに。でも、結末は濁していますね。
そう。私としては、この3曲はどういう順番でリリースしても成立するようにしておきたくて。結果的に「ふたりのデスティネーション」が3曲目になりましたけど、もしこの曲で結末まで描いてしまったら、どうあっても最後に置かざるを得なくなってしまうので、曖昧な終わらせ方にしました。
──結果論かもしれませんが、この順番がベストではないでしょうか。「ふたりのデスティネーション」は余韻もはかなくて、締めの曲として収まりがいいし、ミディアムバラードというのもちょうどいいです。もしこれがスローバラードだったら、ちょっと重すぎるかも。
聞き流されてほしくはないけど、さらっと聴ける曲にはしたくて。前の2曲と同じように、メロディも極力シンプルに、複雑にならないように意識しました。
──複雑にならないように意識したということは、意識しないと複雑になってしまう?
そうですね。意識しないと、複雑になりがちです。イメージとしては、自分の体調が悪くても歌えるぐらいの曲=キャッチーな曲なのかなって。元気だと、どんどん難しい曲を歌いたくなっちゃうんですよ。だからちょっと喉が痛いとか、体がだるいとか、風邪気味の自分を想像して、そんな自分でもちゃんと歌えそうな曲を書くと、いい感じにシンプルになるみたいな。特に「ふたりのデスティネーション」は歌詞の内容的にもそのぐらいのメロディがちょうどいいと思いましたし、レコーディングでも主メロは楽に歌えましたね。ただ、コーラスを入れるのにけっこう苦労しまして。
──3曲とも、コーラスが非常に効いてますよね。
コーラスって、歌詞を伴わない「Uh」とか「Ah」という音だけで、「ふたりのデスティネーション」であれば切ない感じを表現しなくちゃいけなくて。そこを念入りにレコーディングしておくといい効果が得られるので、慎重に声を重ねながら、細かく録っていきました。
音楽に対して自由でありたい
──この3カ月連続配信リリースのあとに、年をまたいだツアー「栗林みな実 LIVE TOUR 2025→2026 “LAST LOVERS”」が控えていますね。
この連続リリース自体が、ライブに向けてスケジューリングされているというか。毎月新曲を1曲ずつ聴いてもらって「いよいよライブだね!」みたいな流れができるといいなという思惑も、実はあるんです。しかも私、来年が歌手活動25周年なんですよ。なので、このツアーを次のアニバーサリーにつなげていけるものにしたいという気持ちもあって。曲が24年分あるのでセットリストをどうやって組もうかという、うれしい悩みはあるんですが、「今はこの曲たちを聴いてもらって、ここから次に進もう」という感じの選曲を考えています。ある意味で助走というか、先を見据えながら、みんなで楽しい時間を過ごしたいですね。
──ツアーのあとも、大きなアニバーサリーが待っていると。その先の、26年目以降のことは考えています?
ちょっと抽象的な言い方になってしまいますけど、柔軟に活動していきたいですね。「これはこうじゃなきゃダメだ」とか「こういうことはやらない」という考え方は捨てて、どんなことも1つひとつ、楽しみながら取り組みたい。もともと私は、新しいことに挑戦したり新しい場所に行ったりするのが苦手なタイプで、新しい何かを目の前にしては、その都度悩んできたんです。しかも人見知りなので、どこに行ってもすごく緊張するんですよ。でも、私はangelaのatsukoさんと仲よくさせてもらっていて、よく一緒にごはんを食べに行ったりするんですが、あるときatsukoさんが「みな実はさ、もういい加減、そういう人見知りとかやめなよ」と背中を押してくれて、確かにそうだなと気付きました。
──僕はangelaのインタビューを担当していたことがあるので、atsukoさんのその感じ、ありありと目に浮かびます。
本当に素敵な、さっぱりした方ですよね。atsukoさんとは「アニサマ」(「Animelo Summer Live」)をはじめ、いろんなイベントでご一緒するうちに仲よくなっていったんですけど、彼女以外にも同世代の同業者というか、音楽仲間が私の周りにたくさんいてくれて。たまにお話しするといろんな刺激をいただけるんですよ。そういう関係が築けたのは、自分が長く活動してこられたからでもあるし、これからもそういう関係であり続けたい。「じゃあ、私もがんばらなきゃ!」と、強く思います。
──「柔軟に」とおっしゃいましたが、この3曲もだいぶ柔軟だと思いました。
うれしいです。音楽に対して自由でありたいという気持ちはすごく大事にしているので、思いついたことはとりあえずやってみる、みたいなスタンスを持ち続けていたい。業界的にも、昔と比べて活動の仕方がめちゃくちゃ多様化していますからね。いろいろなやり方がある中で、スタッフさんたちとアイデアを出し合いながら、自分にとってもみんなにとってもベストな選択肢を探っていきたいです。
公演情報
栗林みな実 LIVE TOUR 2025→2026 “LAST LOVERS”
- 2025年12月20日(土)大阪府 Shangri-La
- 2025年12月27日(土)宮城県 仙台MACANA
- 2026年1月12日(月・祝)東京都 SHIBUYA PLEASURE PLEASURE(※チケット完売)
プロフィール
栗林みな実(クリバヤシミナミ)
2001年に発売されたPCゲーム「君が望む永遠」のオープニング主題歌「Rumbling hearts」でデビューしたシンガーソングライター、声優。2003年にテレビアニメ「君が望む永遠」のオープニング主題歌「Precious Memories」でアニソンシンガーとしてのキャリアをスタートさせ、これをきっかけに数々のテレビアニメやゲームの主題歌を担当。国内外で精力的にライブ活動も行っている。多くの楽曲で自ら作詞作曲を手がけ、作家としての才能も発揮。2025年には3カ月連続で新曲を配信し、9月に「LAST LOVERS」、10月に「透明な砂時計」、11月に「ふたりのデスティネーション」を発表した。2025年12月から2026年1月にかけてライブツアー「栗林みな実 LIVE TOUR 2025→2026 “LAST LOVERS”」を実施する。
栗林みな実|株式会社クラウドナイン(Cloud Nine inc.)

