空白ごっこ|“ネット発”だったユニットが下北沢から音楽を発信し続ける理由

負け犬の曲は“陰キャ”の特権

──ツアーの直前には「ハウる」という新曲が配信リリースされます。タイミング的にもライブを意識した楽曲なのかなと感じました。

koyori 仕上がりこそダンサブルで派手な曲ですけど、最初はそんなにダンスミュージックっぽい曲ではなかったんですよ。最初はギターがメインのもうちょっと落ち着いた感じの曲だったんですが、作業が詰まったときに思い切ってシンセを入れてみたら意外としっくりきたので、思い切ってダンスミュージックに振り切ってみたんです。これまで空白ごっこにダンサブルなナンバーがなかったので、新しい表情を付ける意味でもいいかなと思って。

セツコ 歌詞の乗せ方にちょっとクセがあって、レコーディングではなかなか口が回らなかったです。

koyori セツコさんには悪いけど普通じゃないリズム、当たり前の譜割りをできるだけ崩しながらも歌として崩壊しない、ちょうどいい塩梅を探った曲でもあります。歌い慣れていないとかなり難しいよね(笑)。

セツコ 前にkoyoriさんが作った「リルビィ」を歌ったときは英語の発音で苦労したんです。どう発音したら聴きやすいのか、かなり試行錯誤して歌ったことによって英語の歌い方にはちょっと自信がついたんですが、「ハウる」はヒップホップみたいな歌い方をしなければいけないので、また苦労の連続で……。とにかく呂律があまり回らないほうなので、どうやったら言葉がちゃんと立つのか意識しながらがんばって歌いました。

針原 koyoriくん自身が歌ったデモを聴いたとき、直感的に「この曲はイケる」と思ったんです。セツコさんの新しい魅力を引き出せる曲になると思ったし、これからライブという新しい挑戦をする空白ごっこにとって、山場を作れるような1曲になるんじゃないかなと。

──タイトルの「ハウる」にはどんな意味が?

koyori この曲のテーマは“負け犬の遠吠え”なんですよ。だから「遠吠え」という意味の「Howl」をちょっと崩して「ハウる」にしています。

セツコ 負け犬の遠吠えだけど、妬んでばかりでも強がってばかりでもなくて、サビの終わりで「抱かれて浮かれてたい」みたいに本音をちょっと出す感じが好き。それにこの曲は負け犬同士で共感できる曲でもありますよね。

koyori うん。負け犬が噛み付く曲でもあるし、負け犬同士で一緒に遠吠えようぜ、みたいな曲でもある。僕、これまであまり「〇〇しようぜ」って曲を書いたことがなかったんですよ。あんまりそういうことを言うタイプじゃなかったんですけど、今回は空白ごっこの曲だったから、こういう曲を書いてみようと思えたんじゃないかな。

針原 それはボーカルがセツコさんだから?

koyori 確かにボカロだったらこういう曲は書いていないと思います。セツコさんに歌ってもらうことを考えたときに、こういうスタイル、こういう歌詞のほうが合うと判断したというか。

針原 僕はすごく空白ごっこらしい曲だと思いました。なんて言うか、空白ごっこって、“陰キャ”が集まっているんですよ(笑)。

koyori 陰か陽かで言ったら、この3人はみんな陰キャですね。

針原 だから「ハウる」のような負け犬の曲は僕らの特権というか、僕らが歌うべき曲だなとも思う。特にkoyoriくんの「俺たちだって盛り上がっていいんだぜ」という気持ちにさせてくれる言葉選びは、すごくうまい。さすがkoyoriくん、と思った1曲です。

空白ごっこ

全下北沢ツアーを経て、全国へ

──新曲がリリースされてすぐツアーが始まりますが、ツアー後の展開は何か決まっていますか?

針原 10月に新しいCDをリリースする予定です。

セツコ 昨年リリースした「A little bit」とはけっこう毛色の違う曲が集まりましたよね。

針原 ガラッと変わっていると思うよ。「A little bit」はデビュー作ということもあり、殻に閉じこもったままの少し内気な少女のイメージがあったけど、新作はもう少し強くなった少女像が浮かぶような曲が多いかな。「ハウる」はもちろん、今年頭に配信した「運命開花」もアグレッシブなメッセージが込められた1曲だったし。

──ライブを経て、針原さんやkoyoriさんの書く曲にも変化が生じてくるんじゃないんでしょうか。

針原 それはもちろんそうだと思います。僕らだけじゃなくて、セツコさんも曲を書くから、彼女がライブをどう捉えて、それがどう本人の糧になるのかは僕らもすごく楽しみですね。すでに作詞の才能も作曲の才能も備わっているから、無理に変わらなきゃいけないことはないんです。でもライブでの経験がエッセンスとしてどう足されていくのか、それはすごく期待しています。

セツコ プレッシャーかかるなあ。

針原 ツアーは今回限りではなくて、これから先の空白ごっこはライブも開催するユニットとしてどんどん大きくしていきたいと考えています。このご時世ですから、東京に来れない方も多いと思いますし、地元のライブハウスでしっかり経験を積んで、近い将来、全国を回りたいと考えています。地方の方にはそれまでもうちょっと待っていてほしいですね。

ライブ情報

空白ごっこ「全下北沢ツアー」
  • 2021年7月22日(木・祝) 東京都 下北沢ERA <出演者> 空白ごっこ / レルエ
  • 2021年7月24日(土) 東京都 下北沢GARAGE <出演者> 空白ごっこ / POP ART TOWN
  • 2021年7月31日(土) 東京都 下北沢Daisy Bar <出演者> 空白ごっこ / MINOR THIRD
  • 2021年8月7日(土) 東京都 下北沢SHELTER <出演者> 空白ごっこ / Hakubi
  • 2021年8月15日(日) 東京都 mona records <出演者> 空白ごっこ / mekakushe
  • 2021年8月21日(土) 東京都 下北沢CLUB Que <出演者> 空白ごっこ / なきごと
  • 2021年8月24日(火) 東京都 下北沢BASEMENT BAR <出演者> 空白ごっこ / UNIDOTS
  • 2021年9月4日(土) 東京都 下北沢440 <出演者> 空白ごっこ / 湯木慧
  • 2021年9月12日(日) 東京都 下北沢CLUB251 <出演者> 空白ごっこ / and more