KREVA|キャリア史上“もっとも暗い”新作の先に

KREVAが5曲入りの新作「存在感」を8月22日にリリースする。昨年2月にリリースされた4年ぶりのフルアルバム「嘘と煩悩」では人間の普遍的な“業”を追求したKREVAだが、今作ではそこからさらに踏み込み徹底的なまでに“個”と向き合い、特異で濃密な5トラックを作り上げた。

再開したKICK THE CAN CREWの活動も順調な中、なぜこれほどまでに個を突き詰めたシリアスな作品群が生まれたのか? 今回のインタビューでは、本作の制作秘話はもとより、「存在感」のちょうど1週間後にリリースされるKICK THE CAN CREWの「住所 feat. 岡村靖幸」の話題や、自身を初めて襲った“不振”について赤裸々に語ってもらった。

取材・文 / 内田正樹

「なんか音楽やるの、面白くねえなあ」

──音楽ナタリーにおける前作のインタビューでは(参照:KREVA「嘘と煩悩」インタビュー)、最後に「うっすいアルバム作りますよ。もうペラッペラな薄いやつね。『青春』とか『バレンタインデー』とかリリックに出てくるようなアルバムを作ります」という、もろに嘘っぽい前フリで話をシメていましたが、今回、それとは真逆の作品が届きまして……。

あー、そうか、そうでしたっけ(笑)。

──まずはこの「存在感」にたどり着いた経緯から聞かせてもらえますか。

はい。実は俺、昨年末から今年の年始にかけて、「なんか音楽やるの、面白くねえなあ」と思っちゃった時期があって。これまで20年ぐらい、ずっと楽しくやってきたんだけど、それが無意味に感じると言うか、つまらなく感じてしまうようになって。多分これまででほぼ初めてぐらいの出来事だったんですね。

──KREVAさんからそういうセリフを聞くのはちょっと驚きです。何か明確な要因があったのですか?

自分でも考えてみたんですけど、1つにはKICK THE CAN CREWのツアーをやっていて、毎回、約20年前に紡いだ言葉をお客さんに投げかけて、まあ喜ばれて。で、新曲もやるものの、まだそこまで浸透していないからリアクションもそれほどは大きくなくて。そういう時間を繰り返していたことが、自分の精神衛生上、あまりよくなかったのかもしれないなって……ずっと「常に最新作こそが最高であれ」という姿勢でやってきたんだけれど、ここしばらくはそうじゃなかったという。みんなそれだけKICKを待っていてくれたわけなので、そういうリアクションも当たり前のことだし、もちろん感謝もしているんですけど、ちょっと何を歌っていけばいいのかわからなくなってしまったんですね。トラックのストックはいっぱいあったんだけど、それに対する言葉がまったく出てこなくなってしまったんです。

──その状態で、年始の時間をどう過ごしていたんですか?

スタジオの片付けとかしていましたね。もう機材もレコードも全部売っぱらっちまおうかと思って。

──そこまでいきましたか。

うん。無になれば何か生まれるかなあと思って。でも結局はレコードを聴いて「やっぱこれはいいなあ」とか言って、「これは売らない」が増えていく、みたいな(笑)。まあスタジオにはいたので、逃げていたわけでもなかったんですけど、これ以上、音楽を嫌いになりたくないから、あえて自分と向き合わずに、創作に対して距離を置いていたという感じでしたね。

──そんな状態からどういう流れで今回の制作に?

KREVA

と言うか、そもそも、これって別にリリースするつもりはなかったんですよ。そういうことは考えずに作っていたので。まず、もう先に作ってあるトラックに対してアプローチをするのは一旦止めようと。何を歌いたいのかがわからなくなっていたわけだから、まず口が言いたい、言いたがっているフレーズをもとに作ろうと。車で移動しているとき、出てきたフレーズを忘れないようにして、そのままスタジオに入るという作業を繰り返していましたね。

──口なりだったからこそ、思ったことがスッと出てきた?

そうですね。で、それが出てきたら、その日のうちにトラックを付けて完成させるというルールを決めました。それで最初にできたのが「健康」でした。結局なんだかんだ言って健康の話をしているなあと思っていて、口をついて出てきたから。そうしてできあがったのが1曲目を除くこの4曲だったんです。

──それはこれまでほぼやってこなかった作り方でしたか?

これほど徹底したのは初めてでしたね。しかも俺は自分で曲を作ると、何度も繰り返し聴いて、ここはこうしようとか考えるんですけど、今回についてはまったく聴き直さなかった。それが4月の終わりぐらいだったのかな。

率直な感想は「暗いなあー」

──ちなみに完成した曲は、この5曲以外にもありましたか?

もう何曲か、今回入れなかった曲もありましたね。今回の曲については、1曲単体で聴いてもらうよりも、何曲かまとめて聴いてもらったほうが、説得力があるんじゃないかと思って。

──ご自身ではこの仕上がりについてどう捉えていますか?

完成させたあとに思った率直な感想は「暗いなあー」でしたね(笑)。作り方のルールこそ決めてみたけれど、こういう方向性にしようというのもまったく決めていなかった。結果的に暗い方向へ向かったという感じでしたけど。

──「存在感」の「存在感はある でも でも、決定打が出ていない気がした」「でも、代表作が無いような気がした」はかなりインパクトのあるリリックですね。

世の中への説教ソングと言うか。俺としては応援ソングがひと段落して、そろそろみんなしっかりと怒られたがっているんじゃないかなと思って(笑)。例えば「存在感」のように、あいつがいると場の雰囲気はいい感じなんだけど、実は結果を出していない、という人とかね。

──正直、これ、最初に聴いたとき、KREVAがKREVAに向かって歌っているのかと思いました。だから聴きながら「いやいや、あなたかなり決定打も代表作もあるよ?」って、ツッコミ入れながら聴いてしまいました。

ありがとうございます(笑)。まあ書きながら、もしかしたら俺も誰かにそう思われているのかもなあ、と、一瞬だけ頭をよぎったりはしましたけど、基本的には世の中の誰かに向けて書きました。結果的に俺が自分に向かって歌っているようにも聴こえるかもしれませんけどね。

──それを聴いてちょっと安心しました(笑)。むしろ世間の人が「決定打」「代表作」という言葉を突きつけられたときのリアクションが興味深いです。

例えば体育会系の部活をやっている人なんか、わかりやすいんじゃないかな? 「あいつ存在感はあるんだけど、得点決めてくれないんだよなあ」みたいなやつっていると思うし(笑)。

──なるほど(笑)。「俺の好きは狭い」については?

まさに歌詞の通りなんですけど、「俺の好きって、やっぱ狭いよなあ」と1週間のうちに何回も口走ったことがあって。仮にクラシックからロック、パンク、ヒップホップまで、何から何まで総じたくくりが音楽だとして、もしそういったいろいろ好きなのが音楽好きだとしたら、俺の好きは狭いなあと思ったんです。それを卑下するでもなく歌にしてみたという。

──「そんな俺が好きになれたもの 大事にしたい」というくだりはグッときます。

ありがとうございます。本当、この曲は特に「歌詞の通りです」というコメントしか言えないな。

──そう言えば、KREVAさんって、3文字の曲タイトル、多いんですよね。「居場所」「調理場」「探究心」「蜃気楼」「中盤戦」……。

本当だ!(爆笑) ヤバい、それ完全にノーマークでした。無意識に口が気持ちいいって感じているのかな?

──ちなみにネット上の質問箱みたいなものをのぞいてみたら、3文字の曲タイトルが多いアーティスト、湘南乃風と、ゆずの2組らしいですよ?

マジっすか。じゃあこれからも皆さんに負けないように(笑)。

KREVA「存在感」
2018年8月22日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
KREVA「存在感」初回限定盤

初回限定盤 [CD+DVD]
2484円 / VIZL-1414

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KREVA「存在感」通常盤

通常盤 [CD]
1620円 / VICL-65035

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CD収録曲
  1. INTRO
  2. 存在感
  3. 俺の好きは狭い
  4. 健康
  5. 百人一瞬
初回限定盤DVD収録内容
  1. 存在感(Music Video)
  2. 存在感(Music Video Making)
KICK THE CAN CREW「住所 feat. 岡村靖幸」
2018年8月29日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
KICK THE CAN CREW「住所 feat. 岡村靖幸」初回限定盤

初回限定盤 [2CD]
2160円 / VIZL-1420

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KICK THE CAN CREW「住所 feat. 岡村靖幸」通常盤

通常盤 [CD]
1080円 / VICL-37422

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収録曲
  1. 住所 feat. 岡村靖幸
  2. Keep It Up
  3. 住所 feat. 岡村靖幸 (Inst.)
  4. Keep It Up (Inst.)
初回限定盤BONUS CD収録内容
  1. 全員集合
  2. 千%
  3. 今もSing-along
  4. SummerSpot
  5. なんでもないDays
  6. 完全チェンジTHEワールド
  7. また戻っておいで
  8. また波を見てる
  9. I Hope You Miss Me a Little
  10. タコアゲ
ライブ情報
KREVA「908 FESTIVAL 2018」
  • 2018年8月31日(金)東京都 日本武道館出演者 KREVA / 三浦大知 / 絢香 / JQ from Nulbarich / 尾崎裕哉 / 高畑充希
KICK THE CAN CREW「現地集合~武道館ワンマンライブ~」
  • 2018年9月1日(土)東京都 日本武道館
クレバの日 スペシャルライブ ~大阪編~
  • 2018年9月8日(土)大阪府 Zepp Osaka Bayside
KREVA(クレバ)
1976年生まれ、東京都江戸川区育ち。BY PHAR THE DOPEST、KICK THE CAN CREWでの活動を経て2004年にソロデビュー。2006年2月リリースの2ndアルバム「愛・自分博」はヒップホップソロアーティストとしては初のオリコンアルバム週間ランキング初登場1位を記録する。同アルバムのリリースツアー最終日では初の東京・日本武道館公演も開催した。確かな実力でアンダーグラウンドシーンからのリスペクトを集める一方、久保田利伸、草野マサムネ、布袋寅泰、古内東子、三浦大知、MIYAVI、鈴木雅之らメジャーアーティストとのコラボも多数。2011年より音楽劇「最高はひとつじゃない」の音楽監督も担当した。ラッパーとしてのみならずビートメーカー、リミキサー、プロデューサーとしても高い評価を受けている。2016年にビクターエンタテインメント内のレーベルSPEEDSTAR RECORDSに移籍し、2017年2月に4年ぶりとなるオリジナルアルバム「嘘と煩悩」を発表。2018年8月に5曲入りの新作「存在感」をリリースする。