小柳ゆきインタビュー|デビュー25周年セルフカバー作品、オーケストラで生まれ変わる名曲の数々 (3/3)

悲しみを乗り越えてきたからこそ、今の私がいる

──「天球儀」を編曲された森いづみさんは「ファンタジックという世界観のオーダーを受けていたので、グロッケンが入っていたり、かわいらしい要素も新しく追加したところがこだわりです」とコメントされています。

「天球儀」は森さんにお願いしたいと俄然思っていたんです。編曲家の皆さんがそうなのですが、私の想像を大幅に超えたものを作り上げてくださっていて、これも最高です。大切な人と過ごす時間をテーマにした楽曲なんですが、今回のアレンジによって冒険というワードが新たに思い浮かびました。星を頼りに大切な仲間とともに冒険をして、無事に凱旋できて、これからも仲間たちと星を見上げながら歌っていこう──そんなストーリーをイメージしたんです。

──森さんから「かわいらしい要素もありながら、最後はすごい熱量を持ってエネルギッシュに」という言葉もありますが、まさにみんなで同じ星を見上げてひとつになる様子が浮かびますね。同時にこの歌詞に書かれている「すぐそばにいる かけがえない君を 明日もずっと笑顔にしたいから」というフレーズは今の人々に必要な言葉でもあり、再びこのタイミングで歌われたことに意味があると思います。

最近特に思いますけれども、現代は意図せぬところで傷付いてしまって後ろ向きな気持ちになることが増えていると思うんです。そんなとき、忘れてしまいがちだけれどもすぐ近くにいる大切な人のことを大切に思うこと、その人が笑顔でいてくれたらいいなと願うことが生きるうえでとても大事だなと思って。ライブでもこの歌を通してその気持ちを共有させていただいているんですけれども、今回また新たなストーリーが加わったようで、とてもうれしいです。

小柳ゆき

──「あなたのキスを数えましょう~You were mine~」は小柳さんのデビュー曲であり、これまで何度もレコーディングされていることもあって、藤澤慶昌さんは「アレンジを任されて、もうプレッシャーしかない」「皆さんの人生のステージを表現するアレンジを心がけた」とお話しされています。

ありがたいです。そこまで考えて作ってくださったと思うと、めちゃくちゃうれしいです。まずデモの段階で大泣きしました。ストリングスを録ってる間も、歩んできた歴史とかいろいろなことを振り返りつつ、この先も新たなストーリーが展開されていくんだろうなと予感させるアレンジを聴いて感激して。「また新たに音楽人生を歩んで行けます」とお伝えさせていただきました。

──未来に向かって優しく背中を押してくれるようなアレンジですね。「この先もずっと歌い続けてください」という藤澤さんからのエールのように感じられました。

それがひしひしと感じられて。ありがたいです。

──オリジナルは小柳さんが失恋直後にレコーディングされたそうで、この曲を自分と重ね合わせながら聴いていた人も多いと思います。原曲のリリース当時から25年経つと、それもいい思い出というか、「人生の中でいろんな悲しみを乗り越えてきたからこそ、今、私はここにいる」と成長を実感できる歌になったなという印象を受けました。

忙しい日々の中でフタをしてしまっている思い出を回顧して、未来に向かっていけたら素晴らしいことですね。

新たにやりたいことも出てきている

──「Orchestra」を聴いて、歌はこんなに感情を豊かにしてくれるものなんだなと改めて感じました。

ありがとうございます。素晴らしい楽曲に出会わせていただいたという感覚が非常に大きいです。

──ご自身で歌詞を書かれている楽曲も多いですが、「この曲は自分にとってこういう存在なんだな」と新たに感じたことなどはありますか?

「新たに」というより「改めて」という言い方のほうが近いですね。私はこれまで楽曲とずっと一緒に歩んできているので、年月が経っている認識もあまりないのが正直なところなんです。ただ、今回のように“25年”と銘打って振り返ることで、一緒に成長してきたことが実感できて非常に感慨深いものがありました。

──2022年にリリースされたカバーアルバム「RARE TASTY」では、Eveさんの「廻廻奇譚」やOfficial髭男dismさんの「Cry Baby」などをカバーされて大きな反響を呼びました。デビューから25年で、ヒット曲のあり方が大きく変わった印象もあるのではないでしょうか。

非常に変わったなと思います。楽曲の展開もですし、サイズ感ですとか。音楽に限らず、いろいろなものに対する時間の捉え方が変わってきているんでしょうね。

──若い世代の間ではイントロのない曲がトレンドになったり、4分過ぎると長いと感じる方もいるようですが、一方で小柳さんのように前奏から時間をかけて繊細な表現で歌の世界観を作り上げるシンガーが活躍されていることに心強さを感じます。

とてもうれしいです。私自身、感情の動くタイミングに少し時間がかかるほうなんです。なのでライブを作るときも、とにかく音で埋めずに間をたくさん取りたくて。「Orchestra」も、気持ちの流れやダイナミクスが人の心とリンクしているのではないかなと感じています。

──いよいよデビュー25周年のアニバーサリーイヤーもフィナーレですが、この夏も忙しくなりそうですね。8月23日にはブルーマングループの日本公演に一夜限りのゲストボーカルとして参加されて、ディスコの女王ドナ・サマーの「I Feel Love」のカバーを披露されます。

未知の世界ですね(笑)。まず、ブルーマンの皆さんがどのように動かれるか──かなりフリーでいらっしゃるじゃないですか? そこに自分がどう存在しようかなと今から妄想しているんですけれども。生バンドがいらっしゃって、ブルーマンの皆さんもパフォーマンスされるので、ステージで起こることをとにかく楽しめたらいいかなと思います。私はこれまでドナ・サマーの楽曲は何曲もカバーさせていただいてるんですけれども、「I Feel Love」は初めて歌うんです。なので、きっと想像していた以上のアプローチをブルーマンの皆様が引き出してくれるんじゃないかなと楽しみにしています。

──そして9月には東京公演を皮切りに、全国ツアー「小柳ゆき 25th Anniversary Tour『Orchestra』」がスタートします。

オーケストラにドラムとベースとピアノを加えた編成で、かなり豪華でダイナミックになると思います。これまで何度もオーケストラと一緒に歌ったことはあるんですけれども、全国ツアーは初めてなので、それもまた楽しみですね。私を応援してくださっているファンの中にはきっと子育てが終わられた方もいらっしゃるでしょうし、これまでお忙しい日々を送っていた方が多いと思います。忘れていた懐かしい気持ちを思い出すきっかけになるようパフォーマンスできたらいいなと思います。

──最後になりますが、改めまして25周年おめでとうございます。これからも素晴らしい歌とステージを楽しみにしています。

ありがとうございます。「Orchestra」がやっと形になった安堵感を覚えている最中ではありますが、新たにやりたいこともぼちぼちと出てきているので、それもまた実現できるようにがんばっていきたいと思います。

小柳ゆき

公演情報

小柳ゆき 25th Anniversary Tour「Orchestra」

  • 2025年9月13日(土)東京都 北とぴあ さくらホール
  • 2025年10月4日(土)大阪府 エブノ泉の森ホール
  • 2025年11月29日(土)静岡県 焼津文化会館
  • 2025年12月13日(土)京都府 京都劇場
  • 2026年2月28日(土)愛知県 Niterra日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
  • 2026年3月14日(土)埼玉県 埼玉会館
  • 2026年4月11日(土)大阪府 NHKホール大阪

プロフィール

小柳ゆき(コヤナギユキ)

1982年1月26日生まれ。埼玉県出身のシンガー。1999年、現役高校生のシンガーとして「あなたのキスを数えましょう~You were mine~」でデビュー。2010年にはデビュー10周年記念ベストアルバム「The Best Now&Then ~10th Anniversary~」をリリースした。最新作は2025年8月にデビュー25周年を記念してリリースされたセルフカバーアルバム「Orchestra」。2025年9月からオーケストラ編成の全国ツアーを行う。