小柳ゆきインタビュー|デビュー25周年セルフカバー作品、オーケストラで生まれ変わる名曲の数々 (2/3)

未来へのワクワク感や甘酸っぱい記憶

──「DEEP DEEP」はオリジナルのラテンテイストから秋田茉梨絵さんがガラッと変えていらっしゃいます。「きらびやかなラメのタイトなマーメイドドレスとかを着て歌ってそうだな、みたいなところまで勝手に想像してました(笑)」とのことです。

秋田さんと最初にお話させていただいたとき「ウェット感を感じたんです」とおっしゃっていたんです。オリジナルの「DEEP DEEP」は海を連想させるワードがたくさんあるんですけれども、このアレンジを聴いたら、乾いた荒野をさまよって、その中で見つけたオアシスという絵がバッと浮かびました。オアシスを見つけて、その先に新たな楽しいことが待っている──未来へ向かうワクワクした気持ちを感じさせていただきましたね。

──失恋の曲ですが、海の底に沈んだままではなく、前に進む楽曲になっている。

このアレンジによって、これまでライブでパフォーマンスをしていたときとは、すごく歌う感覚が変わるであろうことを期待しているんです。どんな声が自分の中から出てくるかなって。

小柳ゆき

──「be alive」では島健さんは編曲に加えてピアノ演奏も担当されているんですね。島さんは「これ、もう俺がピアノだろ」「聴くたびに新しい発見があるはず」とおっしゃっています。

音が少ない分、たくさんのことを感じ取れますよね。お会いしたとき、「島さんの優しくてキラキラとしたピアノがとても好きです」と最初にお伝えしていたんです。まさか島さんご本人がピアノを弾いてくださると思ってなかったので、めちゃくちゃうれしくて。デモをいただいたとき、長いこと嗚咽に近い状態で泣いたのが「be alive」だったんです。私の記憶にない誰かの甘酸っぱい記憶、そんな淡いストーリーが勝手に私の中に浮かんだのは不思議でしたね。泣いたあと、これまで積み上げてきた「be alive」を一度リセットしないといけないと思い、歌い方を変えることを念頭に置きました。歳を重ねると表現の仕方がどうしても固まっていくんですが、島さんのアレンジで感じた甘酸っぱい記憶を表現できないかなと思いながら歌唱させていただきました。

──「小柳さんが『間奏を聴くともう涙が出ます』と言ってくれたので、とてもよかったんだと思います」と島さんもおっしゃっていますが、確かにこの間奏は感動しますね。

さわやかな夏の風が吹くような間奏部分で島さんのピアノソロが入ってくるんです。もう戻れないけど懐かしいなと、昔を回顧するような感覚になって、一層胸が締め付けられて何度も泣きました。

──「remain~心の鍵」は再び兼松さんの編曲です。兼松さんいわく“人数の揺らぎ”を表現したアレンジということで、ファーストバイオリン2人、セカンドバイオリン2人、ビオラ2人、チェロ2人、コントラバス1人という9人の弦楽器隊が参加しています。

このアレンジは奏者の方々の息遣いだったり、繊細だけれどもエモーショナルな感じだったり、メロディも含めて、それぞれのパートの美しさを身近に感じていただけるだろうなと思いました。2番のAメロでビオラと歌の掛け合いがありまして。個人的にそこが聴きどころです。その絡みが非常に美しいので、ぜひ堪能していただけたら。ライブで披露する際、ほかの楽曲とは違って、小編成ならではのある意味攻めた演出にできるのではと考えています。私も歌うのを楽しみにしております。

狂気的な世界へ誘う「サイドウェイ-並行世界-」、ともに空を飛ぶ「One in a million」

──オリジナルの「サイドウェイ-並行世界-」の作編曲は小柳さんのお姉様であるHIROMIさんが手がけられました。今回編曲されたTak Miyazawaさんからは「絶望と狂気の中にある美な楽曲」という言葉をいただいてますが、発表から5年経って再び歌われた感想はいかがでしたか。

Miyazawaさんがおっしゃってくださったように美と狂気が共存するものをオーケストラで聴いてみたい、パフォーマンスしたいと切に思いまして。デモの段階から何度かご相談をさせていただき、Miyazawaさんのおかげですごいものができまして(笑)。こちらの想像を大幅に超えた狂気を感じました。レコーディングに入ると、演奏家の皆様のパワーがすごくて“狂気の嵐”でしたね(笑)。でも、感性が美しいんです。バイオリンの室屋さん(室屋光一郎)のソロは、狂気の中にエレガントさを感じさせる演奏で素晴らしかったですね。大興奮でした。この楽曲もライブでやる際はどういうふうになるのか。

──歌い出しの「おひさんしずめども かえれりゃせぬ そのみちでは」から、この世ではない世界に連れていかれそうな感覚になりますが、弦楽器のキリキリした音がさらに緊張感を高めていますね。

多くの人が、記憶の中で、自分にとって何が正解だったのか問い続けることがきっとあるんではないかなと考えていて。自問自答を繰り返して、戻れないと知ったときに絶望を感じながらも美しい幻想を見る──そういう世界観が「サイドウェイ-並行世界-」の歌詞で書かれているんです。Miyazawaさんはその狂気的な世界を本当に素晴らしく表現してくださったなと思っています。

小柳ゆき
小柳ゆき

──「One in a million」は2007年のアルバム「SUNRISE」に収録されたのち、2013年にデビュー15周年記念としてシングルでもリリースされました。これもMiyazawaさんのアレンジですが、ディズニー映画のワンシーンのような楽しさがあります、

Miyazawaさんはアレンジのテーマとして「おもちゃ箱をひっくり返したワクワク感」とおっしゃってるんですけれども、私が描いたのは、秘密の宝箱を開けたら魔法にかかって、夜の空を飛び回っているイメージなんです。「えっ、めっちゃ飛べるじゃん!」と明晰夢を見ているような(笑)。

──なるほど。空を自由に飛び回るピーターパンの姿が浮かんできました。

「One in a million」は聴いてくれる皆さんを楽しませるような曲ですが、このアレンジからは小さいお子さんもワクワクするような絵が浮かんでいるので、お客さんへのアプローチもこれまでとはまた違ったものになるかなと思ってます。私は空を飛んでいるイメージで歌うので、お客さんもぜひ一緒に飛ぶイメージで聴いてもらえたらうれしいです。