小柳ゆき全音源サブスク解禁記念 スタイルは違えど相性抜群!デーモン閣下と再びコラボレーション 小柳ゆきの歌の魅力を紐解くインタビュー

小柳ゆきの全音源の配信が、各音楽サブスクリプションサービスで開始した。

1999年9月、17歳のときに「あなたのキスを数えましょう〜You were mine〜」でデビューした小柳。2019年にデビュー20周年を迎え、昨年7月には13年ぶりのオリジナルアルバム「SPHERE〜球宇宙〜」をリリースするなど、精力的な活動を続けている。

音楽ナタリーでは、以前から彼女と交流があるデーモン閣下との対談を実施。両者のデュエットによる「A STORY OF THE AGES -神話溶融-」(「デーモン閣下 Feat.小柳ゆき」名義。デーモン閣下のアルバム「MYTHOLOGY」収録曲)、「SPHERE -feat.デーモン閣下-」(「SPHERE〜球宇宙〜」収録曲)のほか、小柳の代表曲「あなたのキスを数えましょう」「秘密」のエピソード、シンガーとしてのスタンスなどについて語ってもらった。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 竹中圭樹(ARTIST PHOTO STUDIO)

もしかして天然?

──小柳さんとデーモン閣下の最初の接点は、魔暦14(2012)年発売のデーモン閣下のアルバム「MYTHOLOGY」の収録曲「A STORY OF THE AGES-神話溶融-」へ小柳さんが参加したときですよね。その後、小柳さんは閣下のツアーにも参加されたそうで。

小柳ゆき

小柳ゆき そうなんです! もう10年近く前ですね。

デーモン閣下 魔暦14(2012)年のツアーだからな。アルバム「MYTHOLOGY」はいろいろなシンガーに参加してもらった作品なのだが、「A STORY OF THE AGES」はMVも作ったし、リード曲でもあって。ぜひツアーにも帯同してほしいとオファーしたのだ。

──そのときの印象は?

小柳 聞くのが怖いですね(笑)。覚えてらっしゃいますか?

デーモン閣下 もちろん覚えているぞ。「こんなに面白い人だったのか」と。ツアーでは2名でトークする時間もあったのだが、どこでも爆笑が起きたしな。

小柳 え、そうでした?(笑) それはきっと、閣下が私の面白いところを引き出してくれたのでは……?

デーモン閣下 いやいや(笑)。ゆきちゃんが一所懸命に話しているのだが、なぜか笑いが起きるのだ。もしかして天然?

小柳 え、そうですか?(笑) 閣下のファンの皆さんがすごく温かかったのも印象に残ってます。最初は「大丈夫かな」とドキドキしていたのですが、快く迎え入れてくださって。

デーモン閣下 吾輩の信奉者(ファン)はリピーターがかなりいて、1つのツアーで何カ所も来てくれる人も多いのだが、回を重ねるにつれて、みんな吾輩とゆきちゃんとのトークを楽しみにするようになって……って、全然歌の話にならないな(笑)。

2名がレコーディングで大切にしていること

──閣下から見て、シンガーとしての小柳ゆきさんのイメージは?

デーモン閣下 「A STORY OF THE AGES」のレコーディングがほぼ初対面だったのだが、ストイックな人という印象が強かったな。歌詞の内容を把握して、それをどう表現するか。そのことをずっと考えているのが伝わってきたし、真面目だなと。レコーディングブースからなかなか出てこなかったよね?

小柳 そうですね。楽曲から感じたことを忘れないうちに歌いたくて。感じることは1つではなくて、いろいろあるので。

デーモン閣下 それは主として、感情表現のことかな?

小柳 そうですね。あとは歌のちょっとしたニュアンスだったり。

デーモン閣下 なるほど。「A STORY OF THE AGES」の歌詞はすごく回りくどく、遠まわしに東日本大震災や原発事故のことを歌っていて。ゆきちゃん、レコーディングのときも「難しいです」と言ってたよね?

小柳 そうですね……。

デーモン閣下 確かにわかりづらい歌詞だからな(笑)。ちなみに吾輩が歌のレコーディングの際に「ここを録り直したい」というときは、感情表現よりも、音程やリズムが理由になることが多いかな。

小柳 閣下の歌唱って、バリエーションがすごく多いじゃないですか。歌入れのときは最初から「こういう感じで歌う」と決めて、そのあとピッチのことなどを調整するんですか?

デーモン閣下 いや、そんなことはないぞ。レコーディングで初めて歌う場合もあるし、とりあえず歌ってみて、「ここはもっとイケイケで」「このパートはソフトに」と歌い方を決めていくのだ。レコーディングエンジニアやスタッフなどの意見を聞くこともあるしな。

小柳 例えばシャウトにしても、閣下だけで歌われるときとデュエットではかなり違っている印象があって。そこは気を付けてらっしゃるんですか?

デーモン閣下 そうかな。デュエットでは、「お互いを引き立て合わないといけない」と潜在的に意識しているかも。

左から小柳ゆき、デーモン閣下。

「SPHERE」は閣下のひと言でネガティブからポジティブに

小柳 「SPHERE -feat.デーモン閣下-」(アルバム「SPHERE~球宇宙~」収録)のときも、閣下のすごさを感じました。「2名の歌がぶつかり合う場所がほしい」と、(作曲の)松岡モトキさんと話しながらメロディを作っていったんですが、閣下の歌い方やシャウトがご自身の楽曲とはかなり違っていて。

──閣下に「SPHERE ~球宇宙~」に加わってもらったのは、どうしてなんですか?

小柳 以前から「もう一度、閣下とご一緒したい」と思っていたんです。「SPHERE~球宇宙~」は私にとってとても大切な作品だし、ぜひ、この機会にお願いしたいなと。

デーモン閣下 最初に話をもらったのは魔暦21(2019)年頃だったかな。「20周年を迎えるので、そのタイミングで何かお願いしたいです」と連絡があって。そのときは「“何か”って何?」と思ったのだが(笑)、またコラボレーションできてよかった。

──閣下にとって「SPHERE -feat.デーモン閣下-」はどんな印象の楽曲ですか?

デーモン閣下

デーモン閣下 最初に送ってもらった歌詞は、今とはちょっと違っていたのだ。すごくメッセージ性あふれる内容で、少しネガティブなところがあって。なので吾輩から「楽曲自体はイケイケで高揚感があるんだから、もっとポジティブな単語があったほうがいいのでは?」と提案させてもらった。

小柳 そうなんです。大きな声では言えませんが、作詞を閣下にもお手伝いしてもらいました。

デーモン閣下 ヒントになりそうなことを言っただけだけどね(笑)。まず歌詞についてゆきちゃんから説明してもらったのだ。「人はみんな世の中がいい方向に向くように生きている。でも気が付くと元の場所に戻ってることも多いですよね」と。最初の歌詞では「またこの状態なのか……」というネガティブな結論だったのだが、それよりも、「ずっと始まり続けているのだ」というポジティブなニュアンスのほうがいいのではないかなと。

小柳 閣下のその言葉がこの曲のキモになったんですよね。ありがとうございました。

デーモン閣下 いやいや。あと“バクテリア”の件もあったな。

小柳 歌詞の件ですね。今“バクテリア”になっているところが最初は“ウイルス”という歌詞だったんです。でもご時世的にどうなのか?というスタッフからの指摘があり、悩んだ末に“バクテリア”に変えたんです。

デーモン閣下 吾輩は“ウイルス”のままを支持していたんだけれどもね。その2つのポイントだけで2、3時間かかったな(笑)。もちろん、いいものを作るためには時間をかけて考えなくてはならないのだが。

小柳 お時間をいただいてすみません。しかも閣下がレコーディングしている横で歌を聴きながら最終的な歌詞を書き上げましたからね(笑)。


2021年7月16日更新