自分はヒーローになれる?
──LEGO BIG MORLの提供曲「ピーポーピーポー」は、ダンサブルなエレクトロロックですね。レゴ(LEGO BIG MORL)の曲で言うと「RAINBOW」のような雰囲気があります。
まさに! 私からは「『RAINBOW』みたいな曲がいいです」とお願いしたんです。歌詞に関しても私の色を入れたくなかったので、好きなようにやってくださいとお伝えして。
──この曲は、こゑださんが「私はこういうことを考えています」と説明して書いてもらったような歌詞だなと感じました。「そんな小手先ばかりで生きたなら 嫌われ者です」や、「そんなこと君以外言えるわけない 唯一私が素直になれる場所へ」という部分が特に。
そこ、すごくグサグサ刺さりました(笑)。自分のことだなって。私、親しい人以外には本心を隠すところがあったり、嫌われるのが苦手だったりもするので。そういうところを全部見透かされたような感じがしました。それと同時に、「こういう考えの人って私だけじゃないんだ」とも思いましたね。
──なるほど。
ちなみに「ピーポーピーポー」では「ヒーローなんてなれはしないって いつから気づいていたっけな」と歌っているんですが、「パープル」では「いつだってヒーローはさ 自分自身を信じて行く」と、逆のことを歌ってるんです。
──確かに。どちらもヒーローへの憧れが根底にあるけれど、それぞれ異なるヒーロー観が表れていますね。
そう、そこが面白いなって。この「Individuality」というアルバムは、私1人の世界を作り上げていくのではなく、タイトル通りいろいろな“個性”を表現する作品にしたかったんです。この2曲の歌詞は、その個性の違いがすごくわかりやすい形で出ているなと思いました。
二等辺三角関係の恋愛物語
──アルバム中盤のバラードゾーンには、ロックバンド勢が手がけたアップテンポな楽曲とはまた違う世界が広がります。「ふたりで」は、2018年に桐嶋ノドカさんとライブで共演した際に作られた曲ですね。
はい。この曲は作詞を私、作曲をのんちゃん(桐嶋ノドカ)が担当したんですが、私が思い浮かばないようなメロディを、のんちゃんが出してくれたところからできた曲だったんです。いつかは2人で一緒に作品として発表できたらと思っていたんですが、のんちゃんが活動を休止してお蔵入りになっていたんです。でも、今回のアルバムはいろいろな人と一緒にまったく違う世界を体験しようという作品だから、のんちゃんと一緒に作った「ふたりで」を入れるにはいいタイミングなんじゃないかなって。
──そうだったんですね。もともと2人で歌われていた曲でしたが、1人で歌ってみていかがでしたか?
もちろん寂しさはありましたが……「2人ならこの先も進んでいける」ということを歌った曲なので、悲しい気持ちよりも「一緒にこの曲を作ったあの時間があったからこそ今があるんだ」という、のんちゃんへの感謝の気持ちのほうが大きくて。別々の道だとしても、それぞれが行きたい道を行けばいいし、お互いにとっていい方向に進んでいけるといいなという気持ちで歌いました。
──吉田宇宙さんことバイオリニストの吉田翔平さんがアレンジを手がけた「二等辺三角関係」はとても美しい曲だと思いました。
あ、タイトルを正しく読んでくださいましたね(笑)。「二等辺三角形」って読んじゃう方が多いんですけど。
──これは三角関係を歌ったラブソングですよね。
そうです。私、曲のタイトルを考えるのが苦手で、あとから付けるのが大変だから、先にタイトルになりそうな言葉をいっぱい書き留めていて。「二等辺三角関係」もその中の1つで、題名から想像を膨らませて曲を作っていきました。で、私の中では二等辺三角形って、底辺が短くて、2つの等辺が長いイメージなんですけど、その頂点をそれぞれ人物に置き換えるとしたら、底辺で結ばれた2人は両思いだなって。でもその2人はお互いに好き同士だということを知らない。さらに離れたところにいるもう1人は、底辺側にいる1人のことが好きなんだけど、2人が両思いなのを知っているから「私も好き」とは言えなくて、友達として恋愛相談にも乗るけど、やっぱりつらいという。こういう状況が「二等辺三角関係」だと思ったんです。
──正三角形の三角関係とは違う切なさがありますね。
その感じを曲にしたくて。でもこの曲を作ったときに、私自身が片思いをしたことがないなと気付いたんですよ。
──こゑださんは好きな人とすぐに両思いになれちゃうってことですか?
というよりも、この曲みたいに、自分の気持ちを押し殺せないんです。好きだと思ったら「好き! 好き! 好き!」ってなっちゃうので(笑)。その人が誰のことを好きであっても、「私はあなたのことを好きだから」と言っちゃうんですよ。でも自分で曲を書くと、いつもそういうリアルな自分とは違う物語になる。だから、もしかしたら私は前世でこういう切ない恋愛ばかりしていたのかなって(笑)。
──(笑)。恋愛の曲って、表面上は恋愛がモチーフになっていても、恋愛の気持ちだけを歌っているわけではないこともありますよね。孤独や寂しさ、他人への憧れ、疎外感とか、いろいろな場面で感じる感情を恋愛のストーリーに変換するという。
ああ、確かにそうかも。他人から認めてもらいたいとか、もっと私を見てほしいという気持ちですよね。私、めちゃくちゃそういう欲求あるなあ(笑)。だから恋愛模様を描いた歌詞の中にも、無意識のうちにそういう思いを落とし込んでいるかもしれないですね。
もし明日世界が滅亡するなら
──アルバムの締めくくりは、冒頭でも少し触れた黒木さんの提供曲「滅亡前夜」ですね。タイトルは一見不吉そうですが、ギリギリの状況でも生きてやるという、前向きな思いが現れている曲だと思いました。
はい。この曲は明日世界が滅亡して自分も死ぬという状況になったら、本当に自分がやりたいことに気付けるんじゃないかという曲です。人って、何かに挑戦したいと思っていても、いろいろな理由を付けてやらなかったり、自分の中で複雑化してしまって何もできなかったりすることがよくあると思うんです。特に、大人になればなるほどそうなんじゃないかなって。でもこの曲がそういう人にとって「やりたいことをやるぞ」と1歩踏み出すきっかけになったらいいなと思っています。
──その「滅亡前夜」からエンディングSEの「Output」につながる流れもいいですね。
その流れ、私もすごく気に入っています。「Output」は、世界が滅亡したあと生き残った自分が道を歩いてるイメージなんです。荒れ果てた世界の中でも、前に進んでいくという。
──ちなみにアルバムのオープニングにもインスト曲の「Input」が収録されていますが、これはどんなイメージで制作したものなんですか?
実は「Input」と「Output」は、私の好きな音と嫌いな音でそれぞれ構成されているんです。「Input」には、私の好きな音、好きな行為に付随する音がいっぱい入ってますね。
──なるほど。それでゲームの音が入っているんですね。
はい、ゲーム大好きなので(笑)。あとパソコンの音や、コップに水を注ぐ音。マニアックかもしれないけど、車のウインカーの音だったり、ワイパーの音だったりも好きで。逆に「Output」のほうには、苦手な音や、苦手な行為に紐付く音を入れているんです。雷とか、パトカーの音とか……。
苦手な音を探して聴きまくるというドMな時間を過ごしました。おやすみなさい😇
— こゑだ (@Chokoeda) April 4, 2021
──もしかして、以前Twitterで呟いてたのはこのことですか? 苦手な音を探して聴きまくったという。
あ、それです! 最初は効果音だけで嫌いな音を作ろうと思っていたから、本当に不快な、耳障りな音しかできなかったんですけど(笑)。シンちゃんがサポートに入って一緒に作ってくれたので、どんどんギターや鍵盤の音が足されていく中で、苦手な音が入っているはずなのに、最終的には聴き心地のいいトラックになっていきました。
すべては自分が決めること
──こゑださんは過去作において作品全体のストーリー性を重視してきたと思いますが、今作でもその点は意識されていましたか?
そうですね。やっぱり作品全体のストーリーは自分の中ですごく大切だと思っています。今回は、アルバムに関わってくれた方々からそれぞれ個性を分けてもらったうえで、最後に私が取りまとめて全体のストーリーを組み立てる、という流れになりました。
──改めて今作全体のストーリーを聞かせてもらえますか?
まず1曲目の「Input」で自分の好きなものを吸収したうえで、やりたいことを全力でやりきっちゃえよと自分を鼓舞するのが2曲目「パープル」ですね。で、次の「Straw」では物思いにふけったり、冷静に物事を見つめる時間を過ごす。そうしているうちに、物事に対していろいろ思い悩む年頃を迎えるのが「Little Daisy」と「18」。そして「Middle Finger」では、そういう10代の衝動が爆発するんです。7曲目の「V.I.P.」では、「Middle Finger」の気分を残しつつ恋愛をして。で、「ふたりで」あたりから落ちていって、「嘘」で心が砕け散り、「毒針」で感傷に浸る。でも「二等辺三角関係」でまた新しい恋が始まるのかな(笑)。「ピーポーピーポー」は、そんな揺らいでいる自分に警鐘を鳴らしつつ、本当の自分を見つけ出して、13曲目「滅亡前夜」でついに自分のやりたいことをやるんだと前に進んでいくんです。うまく説明できないんですけど……伝わりますか?
──伝わっていますよ。自分との戦いや葛藤に始まり、「ふたりで」で他者に出会うことで、強くなったり弱くなったりする自分を歌っているのかなと思っていました。そしていろいろな悲しみや挫折を知ることで新たな自分に出会い、また前に進んでいくという人生を描いたストーリーなんだろうなと。
それです! 今度から私もそうやって説明します(笑)。
──(笑)。最後に、アルバムタイトルの「Individuality」は“個性”という意味ですが、「Personality」「Originality」「Character」など同様の意味を表す単語がほかにもある中で、どうして「Individuality」を選んだんですか?
このタイトルはアルバム制作の終盤で決まったもので。これまで私は自分の個性だけで作品を作ってきたけど、今回は初めていろいろな世界を取り入れることができたと感じて、改めて、これは異なる個性が絡み合った奇抜なアルバムになるなと思ったんです。そこから“個性”を表す単語をいろいろ調べていったら、「Individuality」という言葉は、その人が持って生まれた個性や、自分そのもの、それ以上分けることができない1つのもの、という意味合いだったんです。それがこのアルバムで私が表現したい“個性”のイメージに合致したんですよね。
──なるほど。今作は聴く人にとってどんな存在になったらいいと思いますか?
私がこのアルバムを通して伝えたいのは、結局いいか悪いかを決めるのは自分なんだということ。自分が本当にやりたいと思うことはやればいいし、嫌だなと思うことはやらなくていいってことなんです。人に何かを言われても、それに支配される必要はないし、「自分は自分。あなたはあなた」「私にはこういう個性があるけど、あなたにはあなたの個性がある」と思えたらいいなと。もしかしたら、自分には個性がないと思ってる人もいるかもしれないけど、見方によってはそれも個性だし、何をもって個性とするかも、最終的にはその人自身が決めていくものだから。他人の言葉に惑わされずに、自分を信用して突き進んでいこうという気持ちを込めているので、聴いてくれる方にそれが伝わったらいいなって。
──力強いメッセージですね。
はい! でも、私自身に言い聞かせていることでもあるんですけどね(笑)。それくらい強く思っています。