清竜人「コンサートホール」インタビュー|シンガーソングライターとしての原点回帰、本気で音楽と向き合った日々

清竜人が11月12日に新曲「コンサートホール」を配信リリースした。

今年3月にソニー・ミュージックレーベルズへの移籍を発表した清竜人。移籍第1弾シングルとなった「Knockdown」のリリース時には「2009年にデビューをしてから12年、様々な作品を作ってきました。ですが、今、初めて本気で『音楽』と向き合っているように思います」と、新天地で新たなスタートを切るシンガーソングライターとしてのステートメントを発表していた。

そんな彼の新曲「コンサートホール」は、原田知世が主演を務めるテレビ東京系ドラマ24「スナック キズツキ」のオープニングテーマ。「人はみな、傷つきながら、傷つけながら生きてる。」というドラマのテーマをもとに書き下ろされた同曲は、傷付いた人たちに寄り添うような歌詞とアコースティックギターの温かな音色が印象的なナンバーに仕上がっている。

音楽ナタリーでは清竜人にインタビュー。これまでエンタテイメント性の高い作品で音楽ファンを楽しませてきた彼がなぜシンプルに歌詞と曲だけに向き合うことを選んだのか、コロナ禍の活動も含めて話を聞いた。

取材 / 臼杵成晃文 / 下原研二

コロナ禍の清竜人

──ひさしぶりのインタビューなので、まずはコロナ禍の活動についてお話を聞ければ。昨年5月にスタートしたYouTubeの配信企画「ミッドナイト・カバーソング」(弾き語りでカバーソングを披露する企画)はどういった経緯で始まったんですか?(参照:清竜人がカバーソング弾き語り動画を定期配信、第1弾はももクロ提供曲セルフカバー

ちょうどレーベル移籍の話が水面下で動いていた頃で、それに伴って新しいチームでミーティングをしたんですよ。その中で新しいディレクターから、ほかのアーティストの楽曲のカバーをやってみるのもいいんじゃないかというお話があって。なので裏を返せば、コロナ禍に陥らないと始まらなかったコンテンツかもしれないですね。

──なるほど。その頃に自分の中で音楽的なシフトチェンジは考えていたんですか?

そうですね。心機一転、清竜人の第二幕じゃないですけど、これからの音楽的なアプローチやアーティストとしてのスタンスについて考えていて。それがちょうどコロナの時期に重なったというか、うまく合致していろんなコンテンツが始まった感じですね。

──2020年は生田絵梨花さんが主演を務めるミュージカル「Happily Ever After」で作詞・作曲・音楽監督を務めたり、初のオンラインライブ「ミッドナイト・カバーソング vol.1」の開催もあったりしましたけど、これらのオンラインコンテンツをやってみての感触はいかがですか?

僕は自分のことをライブアーティストだとは思っていないので、ほかのアーティストに比べるとライブの本数がもともと少ないんですよ。とはいえ僕も制作だけじゃなくて何かしらのパフォーマンスをしたいなという気持ちもあったので、ツアーを組もうかなと考えていていたんです。でも、コロナ禍でしばらくはフルキャパでの有観客ライブは厳しいだろうから、配信でやれることはないかと模索していて。で、あの時期は会場を押さえてバンドで生配信するのさえはばかられるというか、スタッフが集まること自体が難しい状況でもあったので、リスクを負ってまで通常のパフォーマンスを配信で見せる必要はないと判断しました。それでミニマムな形で何かできないかと考えた結果、「ミッドナイト・カバーソング」の延長線上で配信ライブやってみようかと。まあ、顔も見せないような配信で、観てくれた人が満足しているかどうかわからないけど(笑)。

──ライブをやりたいというモチベーションはコロナと無関係にあったんですか? もしあったとすれば、どのようなステージを想定していたのでしょうか。

そもそもレーベル移籍をするかしないかのタイミングで「2020年の自分の音楽の方向性をどうしようか」と悩んでいて。大きく2つのアイデアがあって、どちらの方向でいこうかなと考えていたんですね。その時期にいろんなご縁があって今のディレクターとお話する機会があったんですけど、その人は僕のデビュー当時、東芝EMI時代にお世話になったディレクターさんなんですよ。それでリユニオンというか、考えていたアイデアの1つであるシンガーソングライターとしての原点回帰、ニュートラルな形で純粋にいいものを作っていくという方向性でスタートしようと。その延長線として、ライブはソロの清竜人としてシンプルなパフォーマンスを見せるのがいいのかなと自然な成り行きで考えていました。

──ちなみに、考えていたもう1つのアイデアというのは?

来年、再来年のタイミングでやろうと思っているのでまだ具体的には言えないですけど、今お話したものとは全然違う方向性になるのかなと。

──コロナ禍にスタートさせたコンテンツだと、CDの週間ランキングを評論する配信企画「清竜人週間CDランキング批評」は、清さんがほかのアーティストの作品について何かを語るという点が新鮮でした。

最近は更新できてないんだけど、いまだに定期的にやりたいなと思っているコンテンツですね。理想を言うと、深夜ラジオとかでやれたら一番いいんだけど。日本だとミュージシャンが同業者の作品について良し悪し含めて何か発信するのはタブー的な風潮がある。でも別にほかの人の音楽をくさしたいという気持ちはなくて、ミュージシャンが音楽を聴いてシンプルにどう感じたかを発信するコンテンツがあっても面白いかなと思ったんですよ。あの企画をやるまで邦楽のトップチャートを定期的にチェックすることもなかったので。

──チャートしばりで普段なら聴かないような音楽にも触れた思うんですけど、何かいい発見はありました?

うーん、自分では理解できてない部分も含めて、何かしら吸収してるとは思います。いろんな邦楽を聴くモードになったし、チャートに載っていない作品も含めて新しい音楽との出会いも増えました。特に今の20代の若手ミュージシャンの子たちがどんな音を出しているのかっていうのはすごく勉強になりましたね。

ミュージシャンとしての人格を表現したい

──そんなコロナ禍の流れを経て、今年3月にはソニー・ミュージックレーベルズ移籍第1弾シングルとして「Knockdown」がリリースされました。「2009年にデビューをしてから12年、様々な作品を作ってきました。ですが、今、初めて本気で『音楽』と向き合っているように思います」というコメントを発表されていましたが、どういう心境だったんですか?

自分の感覚の問題なんですけど、ここ数年はアーティストと言うよりもエンタテイナーとしての振る舞いであったり、作品作りを意識していたところがあって。でも今回は新チームでのリスタートということで、清竜人のミュージシャンとしての人格をひさしぶりに表に出したいなと思ったんです。メロディメイカーとしての美しさみたいなものを、シンプルかつニュートラルに表現していくフェーズに入ったんじゃないかなと。

──なるほど。一方でソロワークと並行して提供曲も多く手がけていたわけですけど、その中でも鹿目凛さんと根本凪さんによるユニット・ねもぺろ from でんぱ組.incに提供した「ファーストキッスは竜人くん♡ feat. 清 竜人」は強烈でした(笑)(参照:ねもぺろ from でんぱ組.inc「ファーストキッスは竜人くん♡」MVに清竜人参加)。提供曲でここまで作者の名を連呼させ、あまつさえミュージックビデオにも出演するという(笑)。

たった今「メロディメイカーとしての美しさ」とか言ってたのが恥ずかしくなってきました(笑)。

──すごい曲ですよね。清さんが清 竜人25でやっていた表現のエッセンスが詰まっているというか。

そうですね。清 竜人25の流れでアイドルの方々からオファーをいただく機会も多いですし、いまだに“あの頃の竜人くん像”を求めてくれるファンの方もいるので、そこは自分でも気持ちよくなってやっちゃいますね(笑)。

──清 竜人25はあまりにも中毒性の高いコンテンツでしたからね。

ねもぺろの件で言うと、ただの楽曲提供ではなくて「清竜人としてもう1段階踏み込んだ形でコラボレーションできませんか?」というオファーだったんですよ。それは具体的に言うと僕自身が歌を歌うとか、ミュージックビデオに出演するっていう。でも僕とアイドルの子が何か一緒にやるとなったらあの形しかないなというか、あのメソッドしかないと思って「タイトルないしは歌詞に『竜人くん』いう名前を出してもいいですか?」と返答して。そしたらお好きにどうぞという感じだったので、本当に好きにやらせてもらいました。

──それが“本気で向き合った音楽”と同時並行で進んでいたのかと思うと面白いですね(笑)。「Knockdown」の制作タイミングでは、自分の中で「こういうことをやりたい」というイメージは定まっていたんですか?

その段階から新しいアルバムの制作に取りかかっているんですけど、それから半年以上経った今はいい意味で紆余曲折していて。これまで制作はワンマンで進めることが多かったんですけど、今回はアルバム制作の過程でスタッフと密にコミュニケーションを取っているんですよ。この業界に入ったときと同じチームでやるということで原点に立ち返ったというか。

──近年の活動では、大まかなディレクションまで清さん自身の判断で進めていたんですよね。

ええ。基本的に僕は自分の曲も含めリメイクってほとんどしてこなかったんですけど、今回はワンフレーズ変えてみたり、構成を変えてみたりっていうのを周りのスタッフの意見を聞きながらやってます。お互いのことを深く知った間柄のチーム編成なので、制作を進める中で僕自身も気になっていたところを指摘してくれたりとか、そういう相性のよさは感じますね。純粋に楽曲について考える時間が増えた、というのが正しい言い方なのかな。ただ曲を作って出すんじゃなくて、インプットからアウトプットまでの過程が増えたというか、それはすごくいいことだなと感じています。