デビュー当時に戻ったようなワクワク感

──この10年の軌跡を振り返ってみてどうですか？

過去を振り返ったときに「よかったな」と思えるようになってきたかな。実際はキツイことが多かったし、この先も大変なことばっかりだと思いますけどね。ただ、それってどんな仕事でも同じじゃないですか。新聞配達でもたこ焼き屋でも、サラリーマンでも、絶対にキツイことのほうが多いと思うんで。僕の場合は、ライブでお客さんが涙してくれたり、一緒に歌ってくれたときに「報われた」という気持ちになれる分、ありがたいなって思いますけどね。そういうときは「いい仕事だな」って感じられるし……まあ、それもこの2、3年のことですけど。それまではずっとガムシャラで「とにかく自分の“唄”を伝えたい」ということに必死だったから。全然余裕がなかったから、その頃に「亀田さんとやろう」って話をいただいても、できなかったと思うんですよ。「軌跡」みたいな歌詞も書けなかっただろうし。

──10周年を経たタイミングだからこそ実現したタッグということですよね。

うん。レコーディングもすごくよかったです。亀田さんはとにかく音楽を楽しんでいる方で、それがうらやましくて。僕はずっと「音楽は苦しみながら生み出すもの」と思ってましたからね。だって「俺の生き様が……」とか「この先、どうやって生きていくべきか」みたいな曲、楽しんでやれないでしょ。

──特にソロデビュー直後は、「聴け！」とリスナーの胸ぐらをつかむような曲が多かったですよね。

ホントにそうですね。そういう音楽をやりたかったし、だからこそ今も続けられてると思うんですよね。苦しいからこそ「ラクになりたい」と思ってがんばれるというか……。音楽をやるのが楽しければ、いつやめてもいいじゃないですか。苦しいからこそがんばれるし、「評価してほしい」という気持ちも生まれるんですよね、僕は。でも、「軌跡」はそういう曲じゃないんですよ。すごく優しいメロディだし、その中に自分の伝えたいことを入れてるというか。

──それが現在の清木場さんのモードなのかも。

僕自身、デビュー当時に戻ったようなワクワク感が感じられたんですよね。グループにいた時代、初めてレコーディングさせてもらったときはうれしくて寝れなかったしね。ディレクターからの注文を聞いて、それがちゃんとできたときもホントにうれしかったし……。亀田さんとの仕事の中でそういう感覚をもう一度味わえたので、すごくよかったと思います。

すぐ生き方の話になる

──カップリング曲の「Sunrise」は盟友・川根来音さんとの共作によるアップテンポのロックチューンです。

曲のタイトルと同じで、シングルのカップリング曲やアルバムの収録曲って、普段は自分で決めないんですよ。20曲くらいスタッフに渡して、勝手に選んでもらうようにしてるから。自分が書いた曲に対してはすべて同じ愛情を持っているし、「これはシングルのタイトル曲、こっちはカップリング」みたいな分け方ができないんですよ。それにスタッフに好きな曲を選んでもらったほうが、プロモーションしやすいでしょ？ 好きじゃないものを売るのって無理だから。

──本気で「いい曲だ」と思っていたほうが、プロモーションするときのモチベーションは上がるでしょうね。

でしょ？ 昔は違っていて、「とにかく俺が好きな曲を出したい」っていう感じだったんです。そうすると会話にならないんですよ。「じゃあ、勝手にすれば」で終わりだから。アーティストとスタッフも人間と人間だから、それではうまくいかないですよね。ただ、この「Sunrise」に関しては「これをカップリング曲として入れたい」って自分から言わせてもらったんです。今の自分の前向きな感じとすごくリンクしている曲だし、「軌跡」とも同じテンションで作れたので。

──「誰かに笑われてもいい！ 貫いてやる！」「まだここからさ！」という歌詞を含めて、めちゃくちゃリアルに今の清木場さんが出てますよね。

そうですね。今、35歳なんですけど、この年代ってまさに中堅なんですよね。自分の周りの人間を見ていても、下のヤツに仕事を教えなくちゃいけないし、上からは大事な仕事を任されたりしていて。あと、どんどん差が出てくる時期でもあるんですよ。20代のときはそんなに差がなかったはずなんだけど、30代になるとその人のセンスや努力によって、少しずつ違いが出てきて。「負けたくない」ってがんばってるヤツは未来のビジョンも持っているんだけど、そうじゃないヤツは「こうなりたい」という将来像が全然なかったり。そういうことを含めて、「ここから上がっていこう」という曲にしたかったんですよね。

──なるほど。清木場さんは今、アーティストとしての自分をどんなふうに見てますか？ 例えば20代の頃に思い描いていた「将来こうなりたい」というビジョンと比べて。

そこからはブレてないし、崩れてもないですね。幸せなほうだと思いますよ。

──やりたいことを貫いて、それを実現させている印象がありますからね。

そういうふうに見えてたらうれしいですね。足元はいつもバタバタなんですけど（笑）。確かに「自分で事務所をやって、ライブも自分で主催できるって、いいよね」って言われるんですけど、その裏側は誰も知らないじゃないですか。僕はただ、人に雇われるのが極端に苦手なだけなんです。だから独立してやるしかないっていう……。