固定観念からの解放
──ここまで「Bad Gyal」に関して「色気」「強さ」「蝶」というキーワードが出てきましたが、改めてどういう曲になったと思いますか?
できあがった楽曲を聴いて改めて思ったのは、根本として“解放”と“自由”を意識していたな、ということです。生きていると、いろんな意見や正しさと出会うと思うんです。何かが間違っているわけではなく、出会った人の数だけの価値観がある。それらにだんだん囚われて、自分を見失ってしまった。果たして小さい頃になりたかった自分になれているのか、みたいな感覚があったんです。でも、自分を見失ってしまっている私もまた自分である、ということを受け入れられるようになって。だからこそ手に入れられたものがあったし、目指したい場所も見つかった。それで今回は“固定観念からの解放”を意識していました。
──フックに解放感があります。
そうですね。急にパンと弾けたような音になるといいな、という思いはありました。
──吉柳さんにとって、ソロ楽曲は内面を吐露する感覚がありますか? もしくは、ある程度自分の感覚を投影した役を演じている?
うーん……役といえば役だけど、吐露でもあって。私は「Bad Gyal」みたいに強くはないし。強がりの連続という感覚です。あえて言うなら“虚勢”かな。こういう曲がある限り「私はここより下がることはできない」という責任を自分に課しているというか。弱くなりかける瞬間があっても、自分の曲が背中を押してくれる感覚がありますね。
──過去のインタビューでも「自分はネガティブだ」と発言されていましたね。
ネガティブな性格はもう21年間抱え続けてるものなので、なくなるものではないと思います。時々で消化しきれなかった、なんとも形容し難い感情が胸の内にあって。でも、その感情があったからこそ強くなれた過去もあるんです。楽曲には、結果的にそういう自分の成長を描いている部分があるかもしれません。
メイクとヘアアレンジは武器
──「Bad Gyal」のMVには女性ダンサーが50人も参加しています。
今回参加していただいている50人のダンサーさんのうちメインとなる6人(AIRA、AK@RI、AYAKA YATSU、HiRO、MOEKA、Natsuki)は、私が勝手にスーパーダンサーズと呼んでいて、もう本当にカッコいい人たちなんです。スーパーダンサーズの皆さんは普段はインストラクターとしていろんなダンサーさんに慕われている方たちで、バックで踊っていただくにはもったいないくらいです。撮影中は自分たちの踊りを細かくチェックして、「ここはもっとこうできた」とか常に話し合いながら進めていて、それぞれ1人のダンサーとしてのプライドを感じられました。同時に人間としても素晴らしくて、本当にカッコいいです。今回のMVは夏の草原で撮影したので、すごく暑かったし、実は虫がけっこういっぱいいて、ダンサーの皆さんもかなり大変だったと思います。
──吉柳さんのバストアップから始まる最初のシーンを観て、やはり女優というか、画角に収まったときの強さと迫力が感じられました。
ありがとうございます。今回はメイクも強め且つヌーディにしていただいて、1番と2番で髪型も変えたりしています。あんなに濃いメイクはアーティスト業でしかやらないんですけど、ヘアアレンジも含めて、そういうものに助けられています。私にとっては武器ですね。
──虚勢を張るための武器。
そうですね。
──MVのコレオグラフはMnetのダンスサバイバル番組「STREET WOMAN FIGHTER」第3シーズンにも出演されているMONAさんが担当されています。
私、「STREET WOMAN FIGHTER」をめちゃくちゃ観ていて。MONAさんの振付をTikTokで踊ったこともありました。そしたら今回はMONAさんが振付を担当してくださると聞いて、「え、まじ……?」と驚きと喜びがありましたね。
──MONAさんはどんな方でしたか?
すごく物腰の柔らかい方でした。あと、とても細かいところまでしっかりと教えてくださる。今回のMVは長時間の撮影で、途中から雨も降らしたりしたので、ダンサーさんたちもかなり大変だったと思うんですけど、撮影合間にMONAさんが「みんなでラジオ体操して冷えた体を温めよう」と言ってくださって。参加していただいたダンサーさんたちを見ていても、MONAさんがいかにリスペクトされているかが伝わってきました。
──MVのダンス、すごくカッコよかったです。
ありがとうございます。芯の強さが伝わると同時に女性らしいラインが見える動きが入っていて。でも、リズムをガンガン取って踊っています。これはまさにSakaiさんと最初に話していた“色気”だと思いました。トップクリエイターの方たちはどうしてこうもこちらの意図をしっかりと汲んでくださるのかとびっくりしました。
常に核に自分がいる
──ちなみに最近はどんな音楽を聴いているんですか?
「K-POPガールズ! デーモン・ハンターズ」の劇中歌に「golden」という曲があって、IVEのユジンちゃんとかいろんな人がカバーしているんです。ものすごくキーが高い曲です。きれいに歌いこなすというよりは、パッションが伝わってくる楽曲だから、その要素を自分の曲にも取り入れられるかもと思って、たくさん聴いて練習しています。あと今は舞台稽古中なので、帰り道は藤井風さんの曲を聴いて疲れを癒しています。メイク中は大好きな石原さとみさんが出演されていたドラマ「失恋ショコラティエ」のサントラを流したりもしています。
──そういえば、吉柳さんは10月8日から上演される「チ。 ―地球の運動について―」の舞台に出演されるんですよね。役者として、歌手として、複数のプロジェクトが並行する際はどのようにご自身を保っているんですか?
二十歳を過ぎてから、私自身も自分がいったいなんなのかよくわかんないなと思うようになって。「この私が本当で、あっちの私が嘘なのか?」と考えると、そうではない。いろんな面があって、1人の人間だなと思っています。だからいくつか同時に仕事をするときも、多面的な自分の中の一面が見えているだけという感覚ですね。どれも全部本当。もちろん役者をするときは役を演じるけど、稽古している自分が嘘なのかと聞かれると、そうとも言えない。常に核に自分がいる。そこを受け入れたという感覚です。
──例えば、自分とかけ離れた役をもらった場合、吉柳さんはどのようにアプローチしていくんですか?
まずはしっかり脚本を読んで役への解釈を深めて、その世界観に没入していくと、徐々に「かけ離れた」という感覚がなくなっていくんです。そこに精一杯取り組みます。自分と役が乖離していると、それはたぶんいわゆる“お芝居”になってしまう。役に没入しつつ、冷静な自分も持ちつつ、という感覚ですね。
──与えられた役を演じる仕事をしていく一方、アーティスト業では自分の感情を表現しているわけですね。
役者として生きている時間と同時に、アーティストをしている時間があるから吉柳咲良を見失わずにいられる部分はあります。さっき「常に核に自分がいる」とは言ったけど、「とはいえ」という面もあって。音楽を作ることで、自分が発信したかったことの根底にあるものを思い出すことができるようになりました。演技と音楽で、今やっと両足でまっすぐ立っている感覚があります。
──しかし、吉柳さんは21歳なのに大人びていますね。
大人ぶっているだけです(笑)。
──吉柳さんの中には25歳くらいまでにこんな人間になってみたい、というイメージはありますか?
自分の楽曲や存在が誰かの救いになったらなと。せめてそのきっかけになれたらいいなと思っています。いろんな経験もしたいし、知識も付けたいし、たくさん考えたいです。失敗しても、自分を責める時間より、次に失敗しないためにどうしていくかを考えられる自分になっていたいですね。
──しっかり言語化できていますね。
って言っているだけです(笑)。
プロフィール
吉柳咲良(キリュウサクラ)
2004年4月22日生まれ、栃木県出身。2016年、第41回ホリプロタレントスカウトキャラバン「PURE GIRL 2016」でグランプリを受賞し、芸能界入り。2017年、ミュージカル「ピーター・パン」の10代目ピーター・パン役に歴代最年少タイで抜擢され、俳優デビューを果たす。2024年には映画「聖☆おにいさん THE MOVIE~ホーリーメンVS悪魔軍団~」やNHK連続テレビ小説「ブギウギ」、大河ドラマ「光る君へ」などに出演。2025年にはTBS日曜劇場「御上先生」へ出演、またディズニー映画「白雪姫」プレミアム吹替版にて白雪姫役を務めた。一方、歌手として2024年4月に1stシングル「Pandora」でデビュー。2025年8月に3rdシングル「Bad Gyal」を配信リリースした。
吉柳咲良 kiryusakura official (@kiryusakura_official) | Instagram