吉柳咲良の2ndシングル「Crocodile」が8月30日に配信リリースされた。
吉柳はNHK連続テレビ小説「ブギウギ」やミュージカル「ロミオ&ジュリエット」などの話題作に出演し、俳優として活躍する一方、今年4月にデジタルシングル「Pandora」でアーティストデビュー。自身の精神性を力強く表現したデビュー曲でリスナーの心を揺さぶった。次なる作品として発表された「Crocodile」は、自己開放のアンセム。“嘘泣き”を意味する「Crocodile tears」というフレーズから着想を得た楽曲で、あふれ出る悔し涙を止められない不器用さと、巧妙なタイミングで空涙を流すあざとさを武器に生きる姿が描かれている。本稿では「とにかく攻めの姿勢でいきたい」という彼女の思いが色濃く表現された「Crocodile」に込められたこだわりを深掘りし、吉柳のパーソナリティにも迫る。
取材・文 / 宮崎敬太撮影 / 梁瀬玉実
スタイリスト / haoヘアメイク/ 市岡愛
どんな自分が自分らしいのか
──デビュー曲「Pandora」の反響はどんなものでしたか?
大きかったです。近しい人たちに「すごく似合ってる」「咲良らしい」と言ってもらえたことが励みになりましたね。とはいえ、私自身、どんな自分が自分らしいのか明確な答えがあるわけではないんです。どんな人にもいろんな面があると思っていて、私の中にもいろんな側面があります。「Pandora」や「Crocodile」で見せた自分と、ドラマでいろんな役を演じている自分は別物ではない感覚があって。どちらも自分の中にある側面を切り取って表現しています。お芝居に関しては脚本がベースになりますが、アーティスト活動は自分が表現したいものを表現しているので、いいバランスが取れている気がします。
──「Pandora」のパフォーマンスビデオ、すごくカッコよかったです。
ありがとうございます! あの振付はTWICE・MISAMOさんの「Don't Touch」のコレオグラフを担当されたRinaさんに作っていただきました。Rinaさんは私がレッスンに通っているスクールの先生なんです。地元にいたときはずっとダンススクールに通っていたんですが、東京に来てからあまり行けなくなっていて。そんな中、友達と一緒にRinaさんのレッスンを拝見して、心を奪われて「私も一緒に踊ってみたい」と思い、レッスンを受けるようになりました。
──吉柳さんがレッスンに通っていた縁で「Pandora」のコレオグラフも担当されたんですか?
いえ、偶然なんです。むしろ、私からするとRinaさんに振付を作っていただけるなんて恐れ多い気持ちです。本当に驚きました。
──素敵な縁ですね。
はい。仕事との兼ね合いで、そこまで頻繁にレッスンに出席できてなかったので、1年ぶりにお会いして。めちゃくちゃ緊張しました……(笑)。でも大好きな先生に振付を作っていただけたことがすごくうれしかったです。レッスンでは私の踊り方の癖を踏まえて、魅力的な見せ方をするための的確なアドバイスをいただけて。ものすごく楽しい時間でした。
「対等に見えるクオリティで踊ってほしい」
──吉柳さんが踊っている姿を初めて拝見しましたが、ものすごく上手でびっくりしました。
かなりがんばりました(笑)。Rinaさんたちからも「(咲良が)トップクラスのダンサーさんを後ろに従えて一緒に踊ってるだけのアーティストと思われたくないから、彼らと対等に見えるくらいのクオリティで踊ってほしい」と言われていたんです。
──ダンサーさんたちとは身長差もありますもんね。
そうなんですよ。どうやったら同じバランスで見せることができるか、チームの皆さんと一緒に工夫して作っていきました。
──しかも、パフォーマンスビデオはワンカットで撮影されたんですよね。
1カ所でも失敗すると撮り直しなので、最初から「5回までに撮り終える」と目標を立てていました。演者だけじゃなくて、カメラワーク、照明、ドローンも全部人力なので、スタッフの方もものすごく大変だったと思います。でもチームで作品を作り上げる臨場感を味わうことができたのはすごく貴重な体験でしたね。
──目標は達成できたんですか?
4回目で無事成功しました。始まる前まではものすごく緊張しているんですけどね。ひどいときは息の仕方もわからなくなってしまうくらい。でもいざ舞台に出たり、カメラが回り始めるとスイッチが入るんです。
──パフォーマンス面でロールモデルにしている人はいますか?
今回のパフォーマンスビデオを制作しているときによく観ていたのはKep1erのHIKARUさんです。魅せ方がうまくて、すべての動きで100万点を叩き出しているイメージです。ちゃんみなさんも参考にさせていただいています。あとは、私がK-POPにハマるきっかけになったG-DRAGON(BIGBANG)さんや、BTSさんなど。決まった1人というわけではなく、これまで観て聴いてきたアーティストの方々からいろんな影響を受けています。
聴き手が聞き取れる英語の発音を
──おでこを出したヘアスタイルで挑まれたミュージックビデオもカッコよかったです。
自分のおでこと眉毛の形が好きじゃなかったので、これまではいつも前髪で隠していたんです。けど今回は「どんな宝石よりイビツに目立って 誰の視界をも奪う異彩を放て」と歌っておいて、自分はコンプレックスを隠すのは違うと思ったので、思い切ったスタイルに挑戦しました。以前の自分だったら抵抗があったけど、今回なら自信を持って出せると思いました。MVの撮影チームの皆さんもすごく明るくて、ワイワイ盛り上げてくださる現場だったのでとても楽しかったです。
──衣装も素敵でした。
私服ではいつも黒を着てることが多いのですが、衣装ではそんなに着ることがないので新鮮な気持ちになれました。
──衣装などは吉柳さんから提案されるんですか?
何パターンかご提案いただいた中から一番気に入ったものに決めました。あとは周りの女性スタッフさんの意見を聞いたり……うん、なのでみんなで決めてますね(笑)。
──あと「Pandora」の制作ビハインド映像も拝見しまして、吉柳さんが英語の発音にこだわっていたというエピソードが印象的でした。
私は英語が全然しゃべれないんです。とはいえ歌詞の英語が歌に乗ったときに聴き手が聞き取れないと意味がないと思ったんです。
──前回のインタビューでも「伝える」ことの大切さをお話しされてました。
英詞なら海外の方にも伝わる発音を大事にしたいなと。作詞のMuginoさんには細かくいろいろ教えていただきました。ただ、現状はまだまだです。
──いずれは海外進出も?
そうですね。夢は大きいほうがいいと思っています(笑)。
次のページ »
傷つくだけで終われない