Keishi Tanaka|今やりたいことを凝縮した2年半ぶりの新作アルバム

Keishi Tanakaが5月8日にニューアルバム「BREATH」をリリースした。ソロになって8年目。2年半ぶりに届けられるアルバムは、聴き心地のよさだけではなく、リスナーの心に引っかかるフックを持った全10曲入りの作品で、彼の今現在のモードが詰まった1枚に仕上がっている。音楽ナタリーではKeishi Tanakaにインタビュー。前作「What's A Trunk?」リリースからこれまでの2年半を振り返ってもらいつつ、楽曲制作時の心境や楽曲に込めた思いなどについて話を聞いた。

取材・文 / 宮内健 撮影 / 山川哲矢

前作からの2年半を振り返る

──2012年にソロデビューして今年で8年目に突入するわけですが、なんだかソロ活動を始めたのがまだ最近のように感じます。

Keishi Tanaka

そうなんですよ。Riddim Saunterではアルバムを3枚発表したけど、今度リリースする「BREATH」は自分のソロアルバムとしては4枚目になるので、ソロになってからのほうがギュッと凝縮した日々の中で活動してる気はします。

──ライブの本数もすごく多い中でアルバムを出し続け、さらに配信やフィジカルなど形態を問わずに作品を発表していたりと、絶え間なくいろんなアクションを展開していますよね。

途切れないようにというのは、自分なりに意識してるところでもあって。以前、創作する期間をしっかり取るために時間を空けようと思ったこともあるんですけど、なかなか調子が出なくて。曲作りにしても思ったように転がらないというか。ライブをやりながら曲を作るほうが性に合ってるんでしょうね。

──バンド編成でのライブはもちろん、弾き語りのツアーもたくさんやっていますよね? 

弾き語りに関しては、30歳過ぎてから始めたので遅いと思うんです。20代はマイクだけを持って歌ってきたので、自分に合わなかったら止めようぐらいの気持ちで始めたら、意外と嫌いじゃなかった(笑)。弾き語りをやることで、曲が育つというのもあります。あとは人に会いに行くという意味で、いろんなところを回ってるのも大きい。お客さんはもちろん、関係者とかお店の人とか、いろんな人と会って、しゃべることで考えも整理されたり、歌詞のアイデアも含めていろいろ浮かぶ。何気ない会話から、今の自分はこういうモードかもしれないと気付くこともあって。ここ数年はバンドセットと弾き語りがちょうど半々ぐらい、自分の中でベストな割合なんですよね。

Keishi Tanaka

──今回の「BREATH」は、2年半ぶりのアルバムとなります。振り返るとその期間はどんな時間でしたか?

レーベルやマネジメントも含めて、この2年半でけっこう環境が変わったところもあって。一生音楽をやっていくうえで、ちょっと考えた時期もあった。だけど結論としては、あまり先のことを考えてもしょうがないというか。今思ったことをそのままやっていくのが自分っぽいし、今っぽいかなと思ったんです。去年シングルで出した「This Feelin' Only Knows」は、レコーディングしてすぐにリリースするためにストリーミングだけで発表して、その後フィジカルでレコードも出しました。その流れが自分の中での新しい試みだったんですけど、そういうちょっとしたことで、また状況が転がり始めた感じがありました。ただ、リリース形態云々を考えること自体が、僕にとってはちょっと余計だなとも思う部分もあって。もともとCDしかなかったらCDだけで出していたはずでしょうし、何が便利で何が不便とか、そういうことに囚われたくないというか。シングルを早く聴いてほしいから配信でリリースして、自分はフィジカルも欲しいと思ったからアナログも作って。今回のアルバムを出すにあたって、2019年5月の段階では僕はCDが必要だと思ったし。それだけの判断なんですよね。これが半年後だったら、また変わってるかもしれないし。1年後にもまだ変わってないかもしれない。そういう意味で、音楽業界の未来などはあまり考えないようにしようというのが、今の気持ちですね。

心地よさの中に“引っかかり”のある音楽

──リスナーとしては何か変化はありましたか?

レコードを買う枚数は増えましたね。それはストリーミングや配信サービスを試聴機として使っているところもあるからかも。僕の場合は旧譜を買うことが多いですが、DJするときにかける曲を知ったり考えたりする助けになっていて。それはいい部分かなと思うんです。だけど、ただ流して聴くという感覚も一方であって。たくさん聴ける分、流し聴きしてしまってるとも感じるので。そういうものに、自分の作品はなっちゃいけないなって意識もあります。心地よかったり、いつ聴いても気持ちよかったりする部分は大切だし、僕の音楽もそうあってほしいんです。でもそれだけじゃダメだなってところもある。そのバランスをこのアルバムは考えて作れたかなって思ってます。

Keishi Tanaka

──それはまさに今回のインタビューで伺いたかったところでもあって。Keishiさんの音楽って、聴いていて気持ちいいんです。個人的には特によく晴れた日にぴったりだと思いますし、心地よさの中にどこか引っかかる部分がある。それが言葉だったり、サウンドだったり、いろんなパターンはあるけど。だけどやっぱり心に引っかかる。その塩梅がすごく絶妙だと思うんです。

それはめちゃくちゃうれしい感想ですね。そういう感覚はこれまで以上に考えたことではありますし。これまでに3枚のアルバムを作ったことでわかった自分の音楽の強みというか。例えばラジオでかけてもらえたり、ストリーミングのプレイリストに入れてもらえたり。そういう音楽としての心地よさとかポップ性みたいなものは、あんまり意識しなくても、無意識に出てくるものなのかもしれない。だったら逆に自分が意識しなければいけないのは、聴く人の心に残ったり、どうやって引っかかる部分を作るか。そう意識して作ると、今すごくバランスがいい状態にあるし、音楽的に充実してきている気がしますね。

──前作はTokyo RecordingsやLEARNERSなど、コラボから生まれるサムシングや、そこにある刺激を求めている印象がありましたよね。

今まではこの人のドラムが欲しいとか、この人のギターが欲しいとか、曲ごとに参加してくれるミュージシャンを考えていたんです。だけど今回はライブを一緒に回ってるバンドのメンバーで固定して、この人たちとならどういう曲が合うかを考えながら作っていった。今のメンバーだからできたアルバムではありますね。その中で、これまでの作品にも参加してくれたチャーべさん(松田“CHABE”岳二)や、エンジニアの方も共通して参加している。そういう面でもいいバランスでやれてます。