Keishi Tanaka「Like A Diary」インタビュー|カンニング竹山、鹿野淳、高山都、土井コマキ、LOVEが「Like A Diary」に触れて感じたこと

Keishi Tanakaが6枚目のオリジナルアルバム「Like A Diary」をリリースした。

「Like A Diary」は、ほぼすべてのトラックをKeishi自身が打ち込みで制作し、レコーディングを自宅スタジオで行うという、これまでの制作スタイルとは異なる手法を取って完成させた1枚。Ryu(Ryu Matsuyama)をアレンジャーに迎えた「Precious Time」や、ナガイケジョー(SCOOBIE DO)がベースで参加した「Roll A Die」「I'll Be There」など計12トラックが収められている。Riddim Saunterのボーカルとしてキャリアをスタートさせ、これまでバンド然とした制作スタイルを取ってきた彼はなぜ、このタイミングで新たな挑戦を求めたのだろう? その背景を探るべくKeishiにじっくりと話を聞いた。

また本稿では、カンニング竹山、鹿野淳、高山都、土井コマキ、LOVEという、これまでもKeishiの音楽に触れてきた面々に「Like A Diary」を試聴してもらい、彼の新たなクリエイティブに触れて感じたこと、Keishi Tanakaというアーティストの魅力やお気に入りの1曲についてつづってもらった。

取材・文 / 宮内健撮影 / kokoro

新しい挑戦、刺激がほしかった

──昨年9月に東京キネマ倶楽部で開催された、ストリングスとホーンを擁した10人編成ビッグバンドでのワンマン「NEW KICKS -ONE MAN SHOW-」は、Keishi Tanakaという表現者にとっての1つの集大成になるような、観応えも聴き応えもある素晴らしいライブでした。

ありがとうございます。ソロデビュー10周年の2022年に「Chase After」(5thアルバム)を出して、そのリリースツアーを終えたところで、ある意味ひと区切りついた感覚があったんです。そこからまた音楽を続けていくにあたって、何か自分にとっての新しい挑戦だったり、刺激が欲しいなと思った。そのうちの1つは、これまでにも断続的にやってきたストリングスを取り入れた表現でじっくり魅せるライブをやろうということ。ライブ盤もリリースすることができたし、それは願いが叶ったかなと思っていて。この東京キネマ倶楽部でのライブをやったことが今回のアルバムに大きく影響している気がしています。

Keishi Tanaka

──「Like A Diary」は1年ほどの時間をかけて、自宅のスタジオでKeishiさんがほぼ1人でレコーディングして作り上げた作品ですよね。10人編成のライブとは、まったく異なるスタイルなわけで。

10人編成ワンマンをやると決めたのは公演の1年ほど前だったんだけど、同じぐらいの時期から、今までとは異なるアプローチで音楽を作ってみようと思い立ったんです。コロナ禍も関係することなんですけど、自宅の制作環境を整えたんですよね。アルバムに向けて……とか、先のリリースのことを考えずに、遊びの延長のような感覚で打ち込みで曲を作り始めて。1人でトラックを組み立てていくのはもちろん、ボーカルのレコーディングまで自宅で行ったのは初めてでした。そうして最初にできたのが、アルバムにも入っている「Joy」という曲。完成した音楽をそのままデジタルシングルとして出していくやり方も、すごく楽しかったです。

暮らしの中に自然と打ち込みが入ってきた

──KeishiさんはミュージシャンとしてのキャリアのスタートがRiddim Saunterですし、ソロになってからもトラックメイカーとコラボすることはあっても、基本的にバンドや複数のミュージシャンと一緒に作り上げていくスタイルが主でしたよね。

そうなんです。バンド育ちだし、レコーディングもバンドでの録り方をずっとしてきた。こうして話しているけど、今の時代こんな改めてしゃべるほどでもないぐらい、打ち込みでの音源制作なんてみんなやってることなんですよね。でも、僕の中ではすごく新鮮で。最初はわからないまま遊んでみるか、という感じだったけど、やってみたら意外と自分と合っていた。思ったよりもクリエイティブな生活サイクルにもなって。

Keishi Tanaka

──それまでは、バンドはもちろん弾き語りでもツアーで全国各地を回っていたし、音楽以外でも山を登ったりキャンプをしたりと、Keishiさんは基本的にアウトドアな人だったじゃないですか。

そうですね(笑)。でも、自宅で1人で音楽制作すると言っても、部屋に何日も籠もって根詰めてやるっていうよりは、なんていうか本当に暮らしの中に、打ち込みで作る時間が加わったという感じなんです。朝起きて、顔を洗って歯を磨いたらまず外に出て、家庭菜園の野菜に水をやって。朝ごはんを食べて、コーヒーを淹れたら、PCに向かって制作を始めるっていうのが、もうルーティンになった。だいたい朝の9時ぐらいにスタートして、ノッてるときはずっと制作をしているし、気分がノッてないなと思ったら、その日はもう機材を触らないとかね。それこそ日によっては、午後から山へ行ったり、キャンプしに行くこともあったし。そういう日常をすごく豊かで、かつクリエイティブなことに感じてはいたので、それがサウンドやメロディ、歌詞に反映されていった部分もあると思う。そういった制作の過程がまるで日記を書いているように感じられて、「Like A Diary」というタイトルを思いついて。そのあたりからテーマが決まっていきました。

Keishi Tanaka

次の制作にも必ず生かせる経験

──これまでもデモ音源の制作時には打ち込みや宅録はやっていたんですよね?

はい。だけどやっぱり、デモはデモなんで。ガイドとなるメロディラインやビートは打ち込むけど、その音を誰かに弾いてもらったり叩いてもらったりすることが前提でしたからね。音源として完成まで持っていくとなると、音色選びやビートの構築ももっと細かく突き詰めていかないといけない。必要とするスキルが全然違うんです。それに、デモの仮歌なんてもっと適当に入れてましたから(笑)。ボーカルまで自宅で録るっていうのは、今まで自分ではやってなかった。すべて自宅で制作できることには、メリットとデメリットがあると思うんです。例えば時間の制限がないということに対して「いつまでもやれてキリがない」と思う人もいるけど、僕にはメリットに感じました。好きなときに好きなものをレコーディングして、「今日は調子がいいから歌を録ってみよう」とかね。

──いろんな実りを得た1年であったと。

ここからさらに打ち込みを突き詰めていくこともできるだろうし、もしかしたらこれで終わるかもしれない。まだ決めてないんですけど、1つ言えるのは今回のアルバム制作で培ったスキルややり方が、次にスタジオでレコーディングするときや今後の制作に生きてくることは間違いない。自分に何か新しい要素が加わった感じがするんです。この歳で、またそういう気持ちを生み出せてることが、すごくいいなって思ってますね。

Keishi Tanaka

遊びの延長線上にある心地いいビート

──さて、ここからは作品の内容について聞いていきたいと思います。アルバムを通して聴いた全体的な印象として、時間の推移や場所の移動、あるいは気持ちの変遷だったり、グラデーションのように移り変わっていく感覚が収録曲の端々からうかがえました。

最初は意識していなかったけど、朝焼けとか夕暮れとか、グラデーションを感じる時間の表現だったり、情景が見える曲が多いなとは自分でも思いました。歌詞を書いていても、自分が今そういうモードなんだって途中で気付く、みたいな。打ち込みで音楽を作ろうと思ったのも、またここから始めるぞという意思みたいなものがあっただろうから、そういう意味でも夜明けの時間がしっくりきますね。

──今までたどってきた道は経験として蓄えながらも、今までとは違う何かをも追い求めてる。あるいは、ここではないどこかに向かって歩き初めている感覚のようなものは、アルバム全体に通底しているかもしれないですね。その堅い意思を、Keishiさんが打ち込むビートに感じました。例えばアルバムのプロローグとエピローグにはインストの楽曲が収録されていますが、ブレイクビーツが印象的なアレンジで。でも、いわゆるヒップホップやクラブミュージックのマナーに則ったブレイクビーツとは違う、ある種いびつな感じのビートが、いい意味でリスナーの心に引っかかるというか。

ああ、なるほど。まず一歩手前の話をすると、今までのアルバムにも序章の曲はずっと入れてたんですけど、今回はインストでいきたいと思ったことに、自分でも驚きがあったんです。自分のアルバムでインストの曲を本格的にやろうと思ったこと自体が初めてなんですよ。アプローチはビートメーカー的なものではあるんだけど、ビートの担う役割がちょっと違うというのが自分らしさにつながるかなとも思っていて。

Keishi Tanaka

──ビートを組んでいくことの面白さは、今回の制作の中で感じましたか?

それはありました。僕、ゲームとか全然しないんですけど、パズルを組み立てていくような感覚で面白いなと。ギターを弾きながら曲を作るのとはまた別の、トラックを作ることの楽しさみたいなものがあります。なんというか、「よし、曲を作るぞ!」と意識して作るビートではなく、ただ遊んでるだけのビートが自分のライブラリの中にかなり存在していて。これはどこかで使うかもしれない、いや、そこまで思ってすらいないような、ただ遊んだ結果みたいな。

──ある意味で遊びの延長で作ったものだったり、自分が心地よいと感じるままに音を重ねていったトラックを、最終的にトリートメントしすぎてない感覚がいいんですよね。それこそ正しく「Like A Diary」というタイトルにつながる感じがしました。

でも、1人でこのアルバムを作りきるってかっちり決めていたわけではないんですよ。ベースは基本的にシンセベースで作ったけど、やっぱりこの曲には弦のベースが欲しいなと思ったらベーシストに演奏してもらうし、アレンジャーを入れたのもそう。音楽がよくなるのであれば、その専門家に頼もうと。もちろん自宅スタジオでレコーディングすることは大きなテーマとして決めてたので、それをキープする範疇でお願いしました。