ナタリー PowerPush - 河野マリナ

自称「ややこしい子」“河野監督”の考える強力打線

2010年の「ANIMAX主催第4回全日本アニソングランプリ」で1万人の応募者の中から見事チャンピオンの座を射止めた河野マリナ。以来、神前暁をはじめとするMONACAのクリエイター陣とともにアニメ「Aチャンネル」オープニングテーマ「Morning Arch」、「夏目友人帳 肆」エンディングテーマの「たからもの」、「猫物語(黒)」エンディングテーマ「消えるdaydream」など、話題のアニメソングを多数発表し、4年連続でイベント「ANIMAX MUSIX」に出演するなど、現在最も注目を集めている若手アニソンシンガーだ。

そんな河野が1stフルアルバム「First Touch」をリリースした。本作は神前の全面プロデュース作。既発のシングル同様、明るくかわいらしい河野のイメージによく似合うさわやかでポップな12曲がラインナップされている。ナタリーでは今回河野のインタビューを敢行。気鋭の作家陣を従え、堂々たる歌声を響かせるボーカリストはいかにして生まれたのか。アルバムの制作エピソードとともに、その横顔にも迫った。

取材・文 / 成松哲

無愛想だし、そっけないし、甘えないし、ずっと寝てるし……

──今回取材させていただくにあたって、過去のインタビュー記事を掘ってみたんですけど、河野さんって発言が一貫してるんですよ。

河野マリナ

そうですか?

──2011年1月号の「リスアニ!」のデビュー前インタビューでは「初々しさや元気さが伝わってほしい」と言っていて、今年11月号の「CUT」では「たくさんの方に歌を届けられる」ことや「歌の宛先」があることを本当に幸せだと言っている。

ふふふ(笑)。そうですね。

──自分の歌を誰かに届けることや、リスナーに対して自分の歌を作用させることに自覚的な人だなって思ったんです。この意識っていつ頃芽生えたものなんですか?

たぶん小学校の頃ですね。きっかけはモーニング娘。さんとSMAPさんで、生まれて最初に買ったCDもミニモニ。さんの「ミニモニ。テレフォン!リンリンリン」だったんですけど、モーニング娘。さんもSMAPさんもすごく自分を魅せることができて、キラキラしていて。それを観ている私はホントにすごく元気をもらえたんです。

──じゃあモー娘。やSMAPのように元気を与えられる人になろう、と。

いえ、その頃は小さかったですし、そこまでは考えてはなくて。ちゃんと自分の思いを伝えられる人になりたいな、って思ってました。幼いときの私はすごくかわいげのない子だったというか(笑)。無愛想だし、そっけないし、甘えないし、ずっと寝てるし……。

──最後のはかわいげがないのとは関係ないですよね(笑)。というか起きてください。

あはははは(笑)。でもホントに空気を読まないし、なんかややこしい子だったんです。で、私には兄がいるんですけど、この兄は正反対というか、すごく愛想がよくて空気も読めて。人に心遣いができるし、顔もすごくチャーミングで「ジャニーズ系」って言われたりして愛でられていた存在で。家族は私のことをすごく愛してくれていたんですけど、それでも勝手に劣等感を抱いてたし、勝手に悲しくなったり、さびしくなったりしてたんです。いろいろ思ってることはあるのに伝わらないことがホントに悔しくて。で、その頃モーニング娘。さんやSMAPさんを知って、歌なら何かを伝えられるんじゃないか、ホントに気持ちを伝えるならしゃべるよりも歌ったほうが早いんじゃないか、って思うようになったんです。

大塚愛が教えてくれた「歌で伝えるほうが早い」ということ

──確かにインタビューでも「コミュニケーションを図るなら歌ったほうが早い」って繰り返してますよね。ただそれも不思議で。3分間のポップミュージックに乗せられる歌詞の量よりも、人が3分間でしゃべる言葉数や3分間で黙読できる文字量のほうが断然多い。より正確かつ細かく気持ちを伝えるなら話したり書いたりしたほうが手っ取り早くないですか?

確かにそうなんですけど、歌のほうが早いって気付いたのにも明確なきっかけがあって。私、中学生のときにテニス部を不仲で辞めまして(笑)、その後、ソフトボール部に入ったんですけど、やっぱりうまくコミュニケーションがとれなくて、ちょっと殻に閉じこもった感じだったんです。1人だけ「河野さん」って呼ばれてましたし(笑)。

──あはははは、すごく象徴的なエピソードですね(笑)。

自分から上手に話しかけることができなかったのと、あとたぶんみんなが立ち入りがたい空気を私が出していたからなんだと思うんですけど(笑)、あるとき部のみんなでカラオケに行こうって話になって。そこで自分なりに「どれを歌おう」って一生懸命曲を選んで、大塚愛さんの「大好きだよ。」っていう曲……「すごくあなたのことを思っています」っていう歌を歌ったら「河野さん、すごく歌がうまいね」って感じになって、みんなとすごく仲良くなれたんです。それ以来「歌で伝えるほうが早いな」って思うようになりました。

──でも過去の記事をいろいろ読んでいると、初めて受けたオーディションは2010年の「第4回全日本アニソングランプリ」ですよね。そしてその頃河野さんは大学生だった。小学生の頃に歌手に憧れて、中学生になって歌なら気持ちが伝わる確信も得たけど、中高の間は自分の歌を世に問うことはしなかった?

すごく自信を持てなかったので。歌手にはなりたかったんですけど、世の中には歌のうまい人ってやっぱりたくさんいるから、私の歌がどこまでいけるのか、っていうことに対する自信もなかったですし。もう1つ、自分にとっては歌っていうのがあまりにも身近なコミュニケーションツールになりすぎていて。ある意味アイデンティティみたいになっていたから、オーディションみたいな場所に自分の歌を持っていくのが怖かったっていう気持ちもありました。

──結果いかんでは歌=アイデンティティを否定されることにもなりかねないから。

そうですね。「歌が折れてしまったら私、もう人とはしゃべれない」「どうやって生きていけばいいかわからなくなる」と思ってました。

ニューアルバム「First Touch」 / 2013年12月11日発売 / アニプレックス
初回限定盤 [CD+DVD] / 3500円 / SVWC-7970~1
通常盤 [CD] / 3150円 / SVWC-7972
収録曲
  1. その声を覚えてる
  2. 消えるdaydream
  3. Morning Arch
  4. たからもの
  5. MAGIC OF MUSIC
  6. バルーンシアター
  7. Do!! Do!! Let me Fun♪
  8. Cheer for me!!
  9. snowdrop -河野マリナ ver.-
  10. Imperfect blue
  11. アラタなるセカイ
  12. この優しい世界のなか
初回限定盤DVD収録内容

河野マリナスペシャルドキュメンタリーDVD「First Touch」

河野マリナ 東京・大阪ワンマンライブ
インパーフェクト・ブルー+S
2014年1月25日(土)大阪府 OSAKA RUIDO
OPEN 18:00 / START 18:30
2014年2月18日(火)東京都 TSUTAYA O-WEST
OPEN 18:30 / START 19:30
料金:4500円(ドリンク代別)
一般発売:2013年12月28日(土)
河野マリナ(かわのまりな)

1990年福岡県生まれのボーカリスト。大学在学時となる2010年に「第4回全日本アニソングランプリ」において、応募総数1189組の中からグランプリを獲得し、翌2011年に神前暁(MONACA)プロデュースによるアニメ「Aチャンネル」のオープニングテーマ「Morning Arch」でメジャーデビューする。2012年には2ndシングルにして「夏目友人帳 肆」のエンディングテーマ「たからもの」をリリースし、またOVA「Aチャンネル+smile」のオープニングテーマ「バルーンシアター」や、作家入間人間の創作生活5周年を記念したメディアミックス作品「アラタなるセカイ」の同名イメージソングを発表。また2010年来、4年連続でアニメ専門チャンネルANIMAX主催のイベント「ANIMAX MUSIX」で神奈川・横浜アリーナのステージを踏み、2012年からはニコニコ動画にてレギュラー番組「おねがい♡マリナちゃん」の放送をスタートさせた。2013年にはアニメ「<物語>シリーズセカンドシーズン」内のエピソード「囮物語」「鬼物語」のエンディング曲となる3rdシングル「その声を覚えてる」をリリースし、春奈るなとともに同シリーズ「恋物語」のエンディングテーマ「snowdrop」を担当。そして12月、これらの楽曲も収録した1stフルアルバム「First Touch」をリリースした。2014年年明けにはアルバムを携えてのワンマンライブ「インパーフェクト・ブルー+S」が開催される。