ナタリー PowerPush - 河村隆一

社会を“刺激”するロックとは? 10thソロアルバム「Life」完成

河村隆一は果たして“エゴイスト”なのか

──今回のアルバムって前向きであると同時に、旅立ちに関する言葉が多いですよね。「Life」では「歩いてゆこう まだ見ぬ明日に 夢を描こう」と歌っていて、ラブソングの「My Life」ですら「今もう一度 あなたと 辿り着こう」と歩を進めようとしている。

河村隆一

やっぱり第一には今、前を向けない人たちを叱咤激励したいんですよ。その代わりセーフティネットは用意してやる。「若い子たちはどんどんチャレンジしろ。オレたちがケツは拭いてやるから」っていう時代作りができないと、やっぱりダメだと思っていますから。

──ただ、確かに社会的な問題を歌うのもロックミュージシャンの役割だとは思うんですけど、一方でロックミュージシャンだからこそちょっと浮き世離れしていてもいい。社会のことなんかお構いなしにエゴイスティックに振る舞っても周りは「まあロックミュージシャンだし」って見てくれる面もあります。

確かに僕自身、ある意味、社会の蚊帳の外にいるんだとは思います。街を歩いていても社会の一員のようで一員じゃないというか。たとえボーッとしていても、音楽を作り続けてさえいればその蚊帳の外で暮らしてはいける。だけど、僕の場合、ファンが全国、もっと言えばアジア中に、世界中にいるんです。そして全世界ではいろんなことが起きていて、そのファンの人たちがそれぞれの国や社会で一喜一憂している。そういうのを目の当たりにしてしまうと、やっぱり他人事ではいられないんですよ。確かに拳を振り上げて「オレたちは変わらなければならないのだ!」って社会に物申すのは僕には似合わないかもしれないけど、諦めずに歌い続けること、メッセージを発信し続けることで、みんなが「あっ、オレも社会に参加していいんだ。参加することは別に恥ずかしいことではないし、ちゃんと参加する場所もあるんだ」ということに気付いたり、「みんなが勇気を持って社会に参加できる仕組みを作らなきゃいけないんだ」って思うようになってくれるかもしれない。ちょっと他人任せかもしれないけど、僕がメッセージを送り続けることで、みんなにちょっとだけいろんなことを考えてもらいたい。自分の中にはそういうエゴがあるんです(笑)。

──ちょっと矛盾する言い方なんですけど「パブリックな存在でありたい」というエゴがある?

そうですね。それにエゴには2種類あると思っていて。「自分が振る舞いたいように振る舞うエゴ」と「自分が見られたい自分になりたいと思うエゴ」。この2つがあるとするなら、僕は完全に後者のエゴイストなんです。U2のボノもそうですし、だいぶ前に亡くなってしまったレイ・チャールズなんかもそうだけど、世界中の多くのアーティストが社会に対して問題提起したり、ときには社会と対決したりするアルバムやミュージッククリップを作っているのに、日本のアーティストだけがなんかずーっと「誰々ちゃんが好き」みたいな歌に終始してるというか(笑)。誰かを好きになることで生きている実感が湧くこともあるし、それを歌にすることはすごく正しいんだけど、僕はもっと社会的な存在でいたい。社会を刺激するアーティストでいたいし、そういう人間に見られたいんですよ。

「チャレンジして失敗しても手を差し伸べるから」

──隆一さんの考える、よりよい社会ってどういうものなんですか?

それが完璧な正解だとは言い切れないけど、以前のインタビューでもお話した通り、バブルの頃に1つの答えがある気はします。鬱がないタイプの人間だからかもしれないけど、社会がただただ元気で「なんかハチャメチャやっていれば、なんとかなるじゃん」みたいな明るいマインドはある意味必要なんだろうなとは思ってます。

──世代的にバブルの恩恵に与ったのは隆一さんの1つ2つ上。隆一さんの世代にとってのバブルの恩恵ってバイトの時給が今より高かったことくらいですよね?(笑)

そうですね(笑)。

──それでも六本木あたりの大バコディスコにガンガン繰り出して、1万円札を振ってタクシーを停めちゃう、あのバブルノリに憧れます?

いや、あれはあれで大変だったろうなあ、とは思います(笑)。みんながみんな好きで大金を動かしていたわけじゃない。そこにお金があるから自分も動かざるを得なかったっていう人も多かったでしょうし、お金を持つということは相当プレッシャーのかかることですから。だから今、見習いたいのはあくまでマインド。人って悪いマインドが頭をもたげると絶対に縮小してしまう。悪いときにもがいても状況ってあまり好転しないんだけど、「こんなことやったら面白いかな?」「こんなことやったら、もしかしたらみんなが求めてくれるかも。喜んでくれるかも」って思いながら物事を進めると意外といいように運ぶんですよ。だから「チャレンジして失敗しても何も恥ずかしくないし、そのときは手を差し伸べるから」ということを約束した上で、みんなに「チャレンジしよう!」って明るいマインドを抱いてもらえるものを提供したいですね。

ニューアルバム「Life」 2013年9月11日発売 / avex trax
「Life」CD+DVD / 3990円 / AVCD-38742/B
「Life」CD / 3150円 / AVCD-38743
CD収録曲
  1. Holy Song
  2. Life
  3. 星と翼とシグナル
  4. Sea of Love
  5. 七色
  6. トパーズの丘
  7. Love & Peace
  8. 永遠の詩
  9. My Love
  10. Miss you
  11. the earth ~未来の風~
  12. 女優 ~枯葉に落ちる優しい雨のように~
DVD収録内容
  • Miss you(Music Video)
河村隆一(かわむらりゅういち)
河村隆一

1970年5月20日生まれ、神奈川県出身の男性シンガー。1992年にLUNA SEAのボーカリストRYUICHIとしてメジャーデビュー。1997年、バンド活動休止期間中にシングル「I love you」でソロ活動をスタートさせる。2ndシングル「Glass」は100万枚以上、1stフルアルバム「Love」は320万枚を超えるセールスを記録。そのほかドラマ出演や小説の出版、他アーティストへの楽曲提供やプロデュースなどでも活躍。2000年12月のLUNA SEA終幕を経て、2001年よりソロ活動を再開。2005年にはLUNA SEA時代の盟友INORAN(G)と、H.Hayama(葉山拓亮 / Key)とTourbillonを結成し、日本武道館でデビューライブを行った。2009年3月にはBunkamuraオーチャードホールにて、マイクを一切使わないコンサート「No Mic, No Speakers」を実施。2011年5月には日本武道館にて、6時間半で104曲を歌いきるコンサートを行い、ギネスワールドレコーズに認定された。近年は復活したLUNA SEAの活動に加え、役者として「CHICAGO」「嵐が丘」「銀河英雄伝説シリーズ」「走れメロス」などのミュージカルや舞台にも出演。2013年5月、約2年ぶりとなるシングル「七色」をリリース。さらに9月には10枚目のオリジナルアルバム「Life」を発表した。