川口レイジが10月2日に「Tellin' Me」、11月6日に「in the dark」、12月4日に「アオイヒカリ」を配信リリースした。R&Bサウンドをベースにした「Tellin' Me」、歌謡曲を思わせる「in the dark」、アメリカ・ロサンゼルス在住の気鋭のクリエイターとコライトした壮大なバラード「アオイヒカリ」はいずれも夜をテーマに制作され、これらはまとめて「The Night:3 stories」と銘打たれている。
去る11月には、3月から延期となっていた自身のワンマンライブ「1st One-Man Live 『Departure』」を東京・TSUTAYA O-nestにてようやく実現させ、ファンとの再会に喜びの表情を見せていた。音楽ナタリーではそんな彼にインタビューを行い、「The Night:3 stories」制作のエピソードはもちろん、ワンマンライブを終えた心境、コロナ禍での過ごし方など近況を語ってもらった。
取材・文 / 黒田隆憲 撮影 / 星野耕作
お客さんへの感謝を込めた即興ソング
──先日のワンマンライブはいかがでしたか?
初めてのワンマンだったので、やっている最中は目の前のことで精一杯だったんですけど(笑)、終わってしばらくしてからようやく実感が湧いてきました。コロナの影響で日程を半年ぐらい延期したこともあって、やっとできてよかったという気持ちもあったし、来てくれたお客さんにも本当に感謝の気持ちでいっぱいでした。
──今回は1日2公演で、2部ではダブルアンコールにも応えたそうですね。
1度目のアンコールが終わってもお客さんがずっと残ってくださっていたので、またステージに上がらせてもらって「お客さん、ありがとうー」というリリックを即興で作って歌いました(笑)。すごく喜んでくださっていたので、やってよかったです。
──1部のMCでは「お客さんのマナーがよくてすごくうれしい」とおっしゃっていましたよね。
今回、感染予防対策としてさまざまな規制があったのですが、皆さん快く協力してくださっていて。本当にありがたいことだなと実感しました。大変な状況の中、今回のライブを滞りなく行うことができたのは、お客さんも含めて周囲の方たちの協力があってこそだと強く思いましたね。
──ライブではORIGINAL LOVEの「接吻 -kiss-」と、ブルーノ・マーズの「Versace On The Floor」のカバーを披露していました。
どちらもストリートライブやインスタライブなどで何度かカバーさせていただいている曲なんです。まず今回のライブではアコギと鍵盤、両方の弾き語りを披露したいと思って。それぞれの楽器に合いそうな曲で、邦楽と洋楽を1曲ずつにして、自分が今やっている音楽性からもかけ離れていない曲……というふうに絞り込んでいきました。
──弾き語りのときに使用していたギターが、とてもユニークな形で印象に残りました。
LAVAというカリフォルニアの新しいメーカーのエレアコ「LAVA ME 2」です。サウンドホールがボディの中央ではなく正面上部に空いていたり、ピックアップをUSBケーブルで充電したり、リバーブやディレイなどのエフェクトをかけたりすることができるんです。ボディは木材ではなくカーボン素材なのもインパクト大で、楽器屋さんで見つけて「めっちゃかわいい!」と思ったんですけど、お金もあまりなかったのでその日は諦めて帰りました。でも、帰宅してからもずっとあのギターが頭から離れず「もう、これは買うしかない!」と(笑)。楽器屋さんのポイントカードがけっこう貯まっていたので、それを使って買いました。実は鍵盤も、ワンマンライブが決まってから慌てて購入したんです。もう少し使いこなせるようになったら、鍵盤でもいろんな技を試してみたいですね。
ビビッときたものをリリース
──自粛期間中はどうしていましたか?
基本は寝ていました(笑)。デビューしてからずっとリリースが続いていたため、コロナ禍になるまではずっと忙しく動き回っていたんですよ。そういう意味では、自分とゆっくり向き合う時間を作ることができたことのはよかったと思っています。もちろん寝ているだけではなく、YouTubeでいろんなアーティストのライブ動画を観たり、Netflixで映画を観たり。「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」というアメリカのドラマにハマって、全シーズンを三日三晩、ほとんど寝ずに一気見しましたね(笑)。
──そういったインプットは、今後の曲作りにも影響を与えそうですか?
僕は多分、どんなことでも作品にフィードバックされるタチなんですよ。「ここからの影響が、この曲に」と具体的には言えないんですけど、自粛期間中の経験は何かしら要素として反映されていくとは思いますね。
──「自粛期間中には、過去に書いた曲をすべて聴き直した」とライブのMCでおっしゃっていましたよね。
例えば1コーラスだけできているとか、そういう断片的なデモがいくつかあって。作った当初は出すタイミングではないと思って手元に置いておいたんですけど、改めてそれらを聴いてみて、言っていることとか曲の雰囲気とか、今の自分の中でビビッとくるものがあって。「これ、リリースしましょうよ!」とスタッフに持ちかけたところ、「いいんじゃない?」と言ってもらえたので出すことにしました。それが「The Night:3 stories」のうち「in the dark」と「アオイヒカリ」です。ちなみに「Tellin' Me」は今回のテーマに沿って書き下ろしました。
アツアツの恋愛ソングにはしたくない
──ではその「The Night:3 stories」についてお聞きします。夜をテーマにしたのはなぜですか?
僕の生きている時間は基本的に夜なんですよね。昼ってタスクが多いので、自分自身を忘れて忙殺されるという感じがして。夜のほうが、やらなきゃいけないことから解放される気がするというか……楽でいられる。暗がりや夜の時間が好きだし、明るいところがあんまり好きじゃないんです。照明がまぶしい場所へ行くと体の調子が悪くなってしまって(笑)。自分の居場所は夜にある気がしているんですよね。太陽よりは月が好きだし、昼よりは夜が好き。なので「The Day」ではなくて、「The Night」にしました。
──10月にリリースされた「Tellin' Me」は、miletなどを手がけるシンガーソングライターYui Muginoと、中島美嘉やちゃんみななどに楽曲提供したRyosuke "Dr.R" Sakaiとのコライト作品で、このチームでは1stシングル「I'm a slave for you」も作っていますよね。
はい。「I'm a slave for you」の次に出すことは決めていたので、また違ったR&Bの解釈を意識しています。それに前回はタイアップだったので、今回は特にテーマを設けず自由に作れたと思います。
──「Tellin' Me」とリフレインするサビが軽快なポップミュージックに仕上がっていますよね。「自由に作れた」というのは、具体的には?
単なる“アツアツの恋愛ソング”にはしたくなくて。「君の代わりはいない どんな君でも構わない とりあえず今は側にいたい」というラインには、単に気持ちが燃え上がって「君だけ!」となっているのではなく、どこかに迷い込んだ似たもの同士の2人が、居心地のよさを感じつつ大切な存在になっていく、そんな恋愛の場面を描いてみました。
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焦り、悲しみ、恐怖をリアルに表現