ヒットメーカーと対等の関係で討論できる場所
──ロスでのコライトはいかがでしたか?
1人での曲作りは部屋にこもって自分の世界にひたすら没入していく感じなんですけど、コライトはまったく真逆というか。1つの部屋に大勢で集まるんですが、世間話が7、8割(笑)。そんな中でリファレンスの曲を聴いて、プロデューサーがその場でリフを弾くと、「ああ、それいいね」という話になってすぐトラックを打ち込んでいってくれて。それに対して歌詞とメロディを同時に付けていく。で、また世間話を始めたかと思ったら、途中で作業して、またしゃべって、みたいな(笑)。作業としてはめちゃくちゃ速いんですよね。
──そんな中に放り込まれたら圧倒されそうですけど。
でも僕の場合、日本では本格的な音楽制作をまだ経験していなかったので、意外と「ああ、こういうものなのかな」という感じだったんですよ。もちろんカルチャーショックはありましたけどね。「お菓子すごい食べるな」とか「みんな元気いいな」とか(笑)。
──あははは(笑)。そこでは川口さんも自分の意見をバシバシ投げていくんですよね。
そうですね。最初は「“小節”って英語でなんて言えばいいんだろう?」とか言葉的な部分での苦労はありましたけど、それもだんだん慣れていって。基本的に向こうは各自の主張を待ってくれてる雰囲気があるので、すごく意見を言いやすいんですよ。相手がどんなにすごいヒットメーカーであっても、対等の関係で討論できる。そこはすごくいいなって思いました。逆に自分の意見を主張しないと「なんだこいつは?」という空気にもなりますし。
僕にとっての音楽の故郷
──そういった環境の中、昨年配信されて話題を呼んだ「R.O.C.K.M.E. ft. Marty James」や、先日先行配信された「Like I do」「Summers Still Burning」などの楽曲が生まれていったわけですね。
ですね。骨組みからほかのクリエイターと一緒に作り上げたことで、曲のクオリティは各段に上がりましたし、今まで気付けていなかった自分の得手不得手みたいなところが見えてきたところもあって。そういう意味では本当に新しい川口レイジとしての音楽に出会うことができたと思います。
──ご自身から出てくる歌詞やメロディに関しても変化を感じるところはありますか?
もちろん全然違うと思います。コライトさせてもらった皆さんから生まれるメロディのレベルがものすごく高いので、必然的に僕自身のメロディも磨かれていくことになるんですよね。「こういうリズムに対しては、こういうメロディが合うな」とか、そういったツボもだんだんわかってきましたし。歌詞に関しても、昔は相当悩みながら時間をかけて書いていたんですけど、今はもうスッと書けるようにもなって。今やっている曲にはライムを盛り込んだものもあるから、そういうノウハウもしっかり学ばせてもらうことができましたね。自分のクリエイティブの質はどんどん上がっている実感があります。
──その中で見えてきた、現時点での川口レイジらしさってどんなものだと思いますか?
僕が歌っていること、ですかね。それ以外の部分での“自分らしさ”みたいなことに今はあまり執着していないんですよ。その時どきで自分の思う正しい判断、選択をしていけばいいと思っているので、まだ自分の作風を固める段階ではないのかなって。だから、なるべくいろんな人の意見を参考にしながら、いろんなことにトライしてみる姿勢で今はいます。「Like I do」のようにラテンなサウンド感を現状は重視しながらやっているし、それが今の僕の最大の特徴ではありますけど、今後はまったく違うことをやっていくとも思いますしね。自分のできることを増やしていけばいいのかなって。
──現在の川口さんの楽曲にはダンスミュージック的なアプローチが垣間見られるところがあると思うのですが、そのあたりはどう感じていますか?
ロサンゼルスで体感したダンスミュージックは、それまでの僕が知っていたダンスミュージックの音像とはまったくかけ離れたものだったんですよね。デジタルなのに、どこかアナログの感触があるというか。そこにどんなトリックや魔法があるのかがすごく気になったんです。僕はもともと、シンセを使ったダンスミュージック的な世界観が好きだったりもしたので、そこはこれからも掘り下げていきたいところではありますね。まあそれも全体的なバランスだとは思うんですけど。
──日本とロスを行き来しての制作は、相当な刺激を与えてくれそうですよね。
ホントにそう思います。向こうは居心地もいいので、気持ちがまったりできるところもあって。そこで音楽制作も含めて幸せな充実感を得られることで、日本でもまたがんばれるようになる。両方がいい相乗効果を生んでいるところもありますね。そういう意味では、僕にとっての音楽の故郷がロサンゼルスになってきている感覚もあります。
──川口さんにとっての、もう1つの故郷がロスであると。
はい。なんだか「アナザースカイ」みたいですけど(笑)。
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