ナタリー PowerPush - 川田まみ

ベスト盤&ニューシングルで魅せる過去と未来

「川田まみ=上条当麻」説

──そして、その「MAMI KAWADA BEST BIRTH」リリース直後の未来である2月20日にはニューシングル「FIXED STAR」をリリースするわけですけど、こちらは「BIRTH」から一転、ストレートでポジティブな楽曲になってますよね。

テーマは「BIRTH」と同じといえば同じ。「光」なんですけどね。今、自分の胸の中に光があるのをイメージできていることがホントにうれしいので。ただ、この曲は「BIRTH」よりも後に発表する楽曲なので「FIXED STAR」。自分の中に光を抱えるだけじゃなくて「FIXED STAR」「恒星」=自分で光る星になって、聴いてくださる方に光やパワーを届けられるようにまっすぐで前向きな表現にしてみました。それに劇場版「とある魔術の禁書目録 -エンデュミオンの奇蹟-」のエンディングテーマでもありますし。よりたくさんの人のものにしたいなと思ったので。

──「masterpiece」「No buts!」「See visionS」を通じて、長い間「とある~」シリーズに関わってきただけにやっぱり思い入れは強い?

そうですね。ただ最初、「masterpiece」を制作する以前は、主人公の上条当麻のあの暑苦しさ……。あっ、暑苦しさって言っちゃった(笑)。

──いや、いかにも思春期の中高生的な青臭い正論を真正面からぶつのがあのキャラクターの特徴ではあるものの、大人の目から見ると「いやそうは言っても、社会ってのは複雑にできててさあ」ってツッコミたくなる気持ちはわかります(笑)。

ですよね(笑)。で、その暑苦しさや自意識過剰な振る舞いにすごく嫌悪感を抱いていたんですよ。正直「いやあ、私はこれからこの人とどうやって付き合っていこう……」って。でも「とある~」と深く付き合ってみたら、だんだんあの暑苦しさが気持ちよくなってきて。

──なぜなんでしょう?

結局私にも彼のようなところがあるからなんでしょうね。初めに嫌悪感を抱いていたのも、似たようなところがあるにもかかわらず、彼のようにその熱さを押し出すことができなかったから。今思うと当時から実は憧れみたいなものがあったんだろうな、と。実際「No buts!」で上条当麻のように本音をぶつけてみたら気持ちよかったわけですし。それも、あの上条当麻の表現方法こそが「とある~」の一番の魅力だと感じたからですから。ただ、今回は劇場版オリジナルストーリーってこともあって……一度上条当麻から距離をとらなきゃって思いまして。

──川田さんにとって「とある~」の象徴なのに(笑)。

そう思って詞を書き始めてみたんですけど、結局「みんなに光を届けたい」という上条当麻みたいな詞ができあがっていたという。「よっこいしょ」って脇に置いておいたつもりなんですけど、今の私の中にある前向きな感情が彼の暑苦しさとシンクロしちゃったみたいです(笑)。

──でも、ポップカルチャーには、その思春期特有のモヤモヤを代弁して解消するという役割もありますよね。だからこそ「とある~」シリーズが中高生にウケているんだろうし。

ええ。「とある~」のアニメを見たり、原作を読んだりしている思春期の子たちはきっと上条当麻的な何かに突き動かされるものを感じているんだろうし、実はそのテイストって音楽にも必要なんですよね。実際、思春期の頃の私もそういうテイストを求めて音楽を聴いていた気がしますし。確かにファッションやカッコつけで聴いていた面もあったんだけど、大人になって改めて思い返してみると、実は「あのときあの曲を聴いていた」ことが当時の私を支えていて、今の私の根底を作っていたりするんですよ。そして、そのテイストは後輩を引っ張っていける存在になりたい今の私にとっても必要なことでもあるんです。

最後に私たちを突き動かすもの

──カップリングの「Intersection」も詞の方向性は同じですよね。「闇の果てで」「小さな光」や「絆」を「守りたい」と願っています。

ただ、どちらかというと以前からの川田まみの書き方をしているんですよね。「絶対に負けないわよ!」みたいな気持ちをパワーにしていますから。というのも、この詞を書いたのは「BIRTH」や「FIXED STAR」よりも早い時期。それこそ私が「引っ張っていかなきゃ」って葛藤していた時期だったので(笑)。「BIRTH」や「FIXED STAR」は引っ張っていくことに前向きになれた私が、あえて過去のマイナス要素も詞にすることで前向きさを表現しているんですけど、この曲はちょっと後ろ向きな私が前向きになりたくて前向きなことを歌ってみた。だからタイトルは「Intersection」=交差点だったりしますし。だから「MAMI KAWADA BEST BIRTH」の次のステップの第一歩めがこの曲なのかもしれませんね。

──「FIXED STAR」と「Intersection」ってサウンドも「MAMI KAWADA BEST BIRTH」以降の音になってますよね。楽器隊の構成は基本的にはドラムとベースとギターと太いリードシンセくらいのもの。それこそ「JOINT」以降「Borderland」まで続いた攻めのデジロックテイストよりも、もっとシンプルなヘヴィロック寄りになっている。

確かにすっきりまとめられた気はします。制作中はいろいろ音を足して、いわゆるI've的なボリューム感のあるアレンジにしてみたりもしたんですけど「そんなに音数はいらないな」「もっとメッセージをより伝わりやすくしたほうがいいんじゃないか」って話になって、足すことをやめてみたら、ああいうアレンジになったんです。「JOINT」以降、いろいろなサウンドに挑戦してみた結果、だんだん洗練されていったというか、研磨されていったんでしょうね。

──意図的なものではなく、自然とそうなった感じ?

そうですね。「FIXED STAR」は(作編曲の)中沢さんも尾崎さんも「魅せるためにはこんな音で」みたいなことを計算づくでやってはいないと思いますよ。「この曲が映画のエンドロールのバックで流れてたらテンション上がるよね!」とか言いながら作ってましたから(笑)。「Intersection」は「迷宮クロスブラッド インフィニティ」というゲームのテーマソングなんですけど、尾崎さんがいちゲームファンとして、バトル中心のゲームでどんな曲が流れてたら自分はうれしいか、みたいなことを考えて作っていましたし。

──「音楽制作集団I've」っていうくらいだし、職人たちが匠の技術を持ち寄って戦略的、コンセプチュアルに曲を作っているんだと思ってました。

意外と本能のままに作ってます(笑)。「FIXED STAR」のレコーディングが終わった瞬間、私も中沢さんも尾崎さんも、新しい表現ができたことに興奮して泣いちゃってましたから。それって自画自賛して泣いてるだけに見えるかもしれないし、ビジネスだからもっとクールに作るべきなのかもしれないんだけど、でも実はこの「泣けるか」「テンション上がるか」っていうのが物を作る原動力や根底になっているし、泣けるもの、テンションが上がるものが作れたときの喜びっていうのが、これから作り続けていくための一番の支えになるんですよね。

──「No buts!」の「やっちまえ!」の話と同じで、そういう気持ちって聴き手に伝わりますしね。

だから実はリスナーに届ける意味でも、最終的には自分のハートに任せるしかないんですよね。

ベストアルバム「MAMI KAWADA BEST BIRTH」 / 2013年2月13日発売 / ジェネオン・ユニバーサル
「MAMI KAWADA BEST BIRTH(初回限定盤)」[CD+Blu-ray] / 3675円 ジェネオン・ユニバーサル / GNCV-1032
「MAMI KAWADA BEST BIRTH(通常盤)」[CD] / 2940円 / GNCV-1033
CD収録曲
  1. radiance [テレビアニメ「スターシップ・オペレーターズ」オープニングテーマ]
  2. 緋色の空 [テレビアニメ「灼眼のシャナ」オープニングテーマ]
  3. 赤い涙 [劇場版「灼眼のシャナ」挿入歌]
  4. Get my way! [テレビアニメ「ハヤテのごとく!」エンディングテーマ]
  5. JOINT [テレビアニメ「灼眼のシャナII」オープニングテーマ]
  6. PSI-missing [テレビアニメ「とある魔術の禁書目録」オープニングテーマ]
  7. masterpiece [テレビアニメ「とある魔術の禁書目録」新オープニングテーマ]
  8. No buts! [テレビアニメ「とある魔術の禁書目録II」オープニングテーマ]
  9. See visionS [テレビアニメ「とある魔術の禁書目録II」新オープニングテーマ]
  10. Serment [テレビアニメ「灼眼のシャナIII -FINAL-」新オープニングテーマ]
  11. Borderland [テレビアニメ「ヨルムンガンド」オープニングテーマ]
  12. FIXED STAR [劇場版「とある魔術の禁書目録 -エンデュミオンの奇蹟-」エンディングテーマ]
  13. 風と君を抱いて -2013 ver.- [ゲーム「miss you」主題歌]
  14. eclipse [ゲーム「燐月 -リンゲツ-」主題歌]
  15. 明日への涙 [テレビアニメ「おねがい☆ツインズ」エンディングテーマ]
  16. BIRTH
初回限定盤Blu-ray収録内容
  • MAMI KAWADA 2012 LIVE TOUR “SQUARE THE CIRCLE”
川田まみ(かわだまみ)

2月13日生まれ、北海道出身の女性シンガー。学生時代から歌手を志し、2001年に島みやえい子の推薦でI'veのオーディションに参加し合格。同年11月に発表された「風と君を抱いて」で歌手デビューを果たす。2004年6月にリリースされた「I've Girls Compilation 6『COLLECTIVE』」収録曲「IMMORAL」「eclipse」で高評価を受け、2005年2月に中沢伴行プロデュースによるシングル「radiance / 地に還る~on the Earth~」でソロデビューした。以降、さまざまなアニメのテーマソングを手掛け、独特の繊細なビブラート、透き通るように伸びやか、かつ力強い歌声で幅広い層からの支持を獲得。2012年8月に通算4枚目のアルバム「SQUARE THE CIRCLE」をリリース。翌2013年2月には初のベストアルバム「MAMI KAWADA BEST BIRTH」、ニューシングル「FIXED STAR」を立て続けに発表。