片平里菜|光を放つアルバムで再スタート

この街で一花咲かせたい

──先ほど「東京という街が居場所になってきた」とお話しされたとき、9曲目の「bloom in the city」が思い浮かびました。

うれしい! 3月か4月くらいに書いたんですけど、当時の気持ちをそのまま書いているので、私にとっては日記みたいな曲です。

──「愛のせい」の収録曲「からっぽ」では「からっぽな東京」と歌っていましたが、「bloom in the city」では“この街で咲き誇りたい”ということを歌っていて。

「からっぽな東京にいたくない」という自分のままではいたくないですからね。ちょうどこの曲を書いていた頃、同じ時期にデビューした人たちが活動休止したり、地元に帰ったりしていて。もちろんそれも1つの人生だとは思うんですけど、ちょっとやりきれない気持ちもあって。「私はこの街で一花咲かせたい」という思いを歌いました。

──ライブでもすでに披露されている「オレンジ」は、「ありがとう」を繰り返す優しい歌詞が印象的です。

この曲ができたきっかけは震災の影響もあって福島や宮城、熊本を訪れたことですね。福島は地元なのでもちろんですが、宮城や熊本に何度も足を運んでるうちに、出会った人たちが家族みたいに「おかえり」と迎え入れてくれるんです。そしてその人たちはみんな絶対に同じことを言うんです。「震災のような悲しいことはなかったらよかったけど、震災がなかったら今こうやって里菜ちゃんにも、ボランティアで来てる人たちとも出会えなかった。だから出会えたのはよかった」って。その言葉を軸にこの曲を作りました。

片平里菜

自分から光を放っているようなアルバムに

──今作は全体的に歌い方も優しくなったように感じました。

確かに、高音で伸びるキーンとした音は少なくなったかも。全体的にキーを下げたんです。

──意図的に?

そうですね。自分の声の中音域に実はいろんな成分があることに気付いたんです。私は“旨み成分”と呼んでいるんですけど、その部分を聴いてもらったほうがいいんじゃないかと思って。それで優しくなったように聞こえるのかもしれないです。

──「一年中」という作品は、ご自身ではどういったアルバムになったと思いますか?

今までの私は“潜っていた”イメージが強くて、とにかく今作は“光のあり方”がこれまでと全然違うんですよ。今までは深く潜っている自分が上を見上げて差し込む光を見ていたイメージなんですけど、今回は自分が光の中にいる感じ。なんなら自分から光を放ってるくらいのパワーの放出の仕方をしてる。

──なるほど。

あとは前半と後半でちょっと雰囲気が違うんですよ。どちらも幸せを歌ってるんですけど、その種類が違うんです。なんて説明したらいいのかわからないんですけど……。

──前半は恋人と過ごす幸せ、後半は夢や目標を叶える幸せを歌っているようにも感じました。

ああ、そんな感じです。「この幸せが一年中ずっと続けばいいのに」って思うような幸せと、「それだけじゃ満足できない! 人生をまっとうしたい!」という思い。そのどっちもあるアルバムになったかなと思います。

片平里菜

聴いてる人たちを幸せにすることが自分のやるべきことだった

──再スタートとしてこのアルバムを出して、これから先の展望はありますか?

自分が幸せなので、聴いてくれる人を幸せにしたいです。

──今日お話を伺っていて、片平さんがご自身について「幸せ」と何度も言い切ることに少し驚きました。

そうですか? えへへ。超ハッピーですよ、毎日。でも一方で、音楽をやる理由を見失いそうになるときもあって。

──「幸せになりたい」「苦しいけどがんばろう」という気持ちが歌を歌う原動力だったから?

そうだと思います。でも本当はそうじゃなかったんですよね。聴いてる人たちを幸せにすることが自分のやるべきことだったんです。これまで「しんどいしんどい」と歌っていた人が、今は幸せを歌う。今までのマイナスな自分も武器にして、これからは聴いてる人を照らしてあげられたらと思っています。年齢的にも、与える側になるタイミングなんでしょうね。

──そう考えると、この苦しい2年間は片平さんにとって大事な時期だったんですね。

そうだと思います。私は2011年の東日本大震災の少しあとにメジャーデビューしました。そのとき地元・福島の方、東北の方がすごく喜んでくれたし、応援してくれた。そうやってみんなに期待されて5年間走ってきたけど、一旦ポキッと心が折れてしまって。止めようかなと思うタイミングもあったけど、それでも続ける選択をした。このアルバムがどういう結果を出すかわからないですけど、それよりも続けるということを選ぶことで、ファンの方、デビューから応援してくれていた東北の方たちも救われるかもしれない。私は、この自分のストーリーを、歌の中で体現していきたいんです。「女の子は泣かない」を歌ってた人が、幸せを歌ったアルバムを出すとか、「夏の夜」で孤独を歌ってた子が「オレンジ」で出会った人たちに「ありがとう」と歌うとか。

──これから先、片平さんがどんな音楽人生を歩んで、どんな歌を歌っていくのか、ますます楽しみになりました。

そうですね。今回は季節にヒントをもらって、「こういう歌を歌わなきゃいけない」という自分を一度壊せたと思うので、次、何を作るのか私も楽しみです。