作家陣にしてもらったのは“壊す作業”
──「一年中」は春夏秋冬がテーマとのことですが、このテーマにしたのはなぜですか?
ベストアルバムリリース後、なるべく早く次の作品をリリースしたいなと思って制作を進めていたんですけど、「変わりたい」と思う一方で「これは自分らしくない」と固執してしまう部分もあって、なかなか制作が進まなかったんです。そうこうしているうちに季節が巡り巡っていて。その間に作りためていたデモ曲の中で、“光っている曲”が夏の歌だったり春の歌だったりしたんです。制作を始めてから1年経つし、だったら春夏秋冬をテーマにしたアルバムにしちゃおうと。テーマを決めてからは曲作りもスムーズに進んだので、春夏秋冬というテーマには助けられましたね。
──「変わりたい」という気持ちの表れなのか、曲ごとにいろいろなプロデューサーの名前がクレジットされています。片平さんの作品に参加されるのは初めての方もいらっしゃいますよね?
ほとんどが初めてましての方ですね。「一年中」では“バンドの中にいる自分”を作りたいなと思って、オルタナっぽいとか、ロックっぽいけどポップスが上手みたいなアレンジャーさんにお願いしました。
──“バンドの中にいる自分”を目指したのはどうして?
最初に話したことにもつながるんですが、“アコギ1本持って女の子の歌う女の子”というパブリックイメージを一新させたかったんです。そのイメージがいい悪いじゃなくて。もともとバンドは好きなので、今回はそのアプローチでいってみようかなと。
──収録曲のうち半分ほどの作曲が、プロデューサーとの共同クレジットです。これまで基本的に作詞作曲は片平さんが手がけていたので、これも新たな挑戦の1つですよね。
はい。今回は皆さんに“壊す作業”をしてもらったというか。5年の間についた作曲の癖を壊して作り変えたいと思っていたし、曲だけではなくて歌詞の方向性に関しても相談して、いろんな方に手助けをしてもらいました。と言いつつも、最初はほかの人が作ったものを受け入れるのが難しくて。「自分のメロディじゃない」「私らしくない」みたいな。でも変わろうと思ったのは自分だから、「変わるためにはちゃんと受け入れなきゃいけない」と思っているうちに楽しくなってきました(笑)。
「女の子は泣かない」の友人との「JUMP」
──先行配信された「冬の魔法」では歌詞の書き方もこれまでの片平さんとは全然違うなと思いました。片平さんの歌詞は基本的に主人公の主観でつづられていると思うのですが、この曲はものすごく俯瞰していて。
そうかも。今までは感覚でワーっと歌詞を書いていたんですけど、この曲に関しては“冬のキラキラしたイメージ”というテーマを自分の中で決めて、頭の中で男の子と女の子を歩かせてみたんです。そういうイメージをもとに書き始めたから、普段とは違うものができたんだと思います。
──まさに冬のキラキラしたイメージにぴったりなアレンジも印象的です。この曲のアレンジとプロデュースは渡辺拓也さんですね。
渡辺さんとは一緒にスタジオに入って、曲を構築していきました。これまでアレンジャーさんにはできた曲をお渡ししてアレンジしてもらうことしかなかったので、その作業が新鮮でしたね。「ここもうちょっと音符欲しいよね」と言って音を増やしたり、聴いていて気持ちのいいメロディにあわせて言葉をはめていくように歌詞を書いていったり。
──「JUMP」も同じく渡辺さんがアレンジおよびプロデュースを手がけた曲ですね。シンセサイザーの入った疾走感あるアレンジが新鮮でした。
初めてシンセを取り入れました。意外性もあって面白い曲になったと思います。
──「JUMP」は歌詞の内容からして、もしかして「女の子は泣かない」のモデルになったお友達とバンジージャンプに行かれた経験をもとにしたのかなと思ったのですが。
わかりました? バンジージャンプに行ったときは「この日のことを曲にしよう」とは全然思ってなかったんですけど、渡辺さんと曲を作っていく中で、仮で歌詞を入れようとしたら、あのときの風景や友達に言われたセリフがパッと浮かんで。
【女の子は泣かない】『よし、里菜!バンジー行くぞ!』なぜか1年前からその親友から冗談のように交わされていた約束は、この夏本気で有言実行された。。まさに、その親友が”女の子は泣かない”を作るきっかけになった女の子。歌ってすごい。本当に歌った通りになる。 #fdhkr #片平里菜 pic.twitter.com/kB0t2DQCmM
— 片平里菜 OFFICIAL INFO. (@KATAHIRA_INFO) November 2, 2018
──「女の子は泣かない」のモデルになったお友達との思い出が「JUMP」という曲につながることで、その友達や片平さんの成長を感じてなんだか応援したくなりました。
成長してますよねえ(笑)。
──「赤い目の空」は明るい曲調が多い今作では少し異質な雰囲気がある、切なさを感じさせる楽曲です。作曲やプロデュース、アレンジを手がけた野村陽一郎さんとはどのようなお話を?
明るい作品にしようと思ってアルバムを作り始めたのはよかったんですけど、全部明るい曲になってしまうのもよくないなと思って。ちょっとは暗い部分も出したくて「1990年代のオルタナっぽいサウンドで」と野村さんにイメージをお伝えしてトラックを作ってもらったんです。
──トラックを受け取ってから歌詞を?
はい。歌詞はアルバムの中で一番時間がかかりました。というのも、野村さんから仮歌も入った状態でトラックをもらったんですけど、その仮歌が洋楽っぽい譜割で。
──完成した歌詞では秋の風景と切なさがキレイに描かれています。
秋の曲にしようと思ったのと、たまたま歌詞を考えていたのが10月だったんです。虫たちが求愛の歌を歌う活発的な夏から、気付いたら秋になっていた。そのとき自分もいろんな悔しさみたいなものを抱えていて、落ち葉を踏みしめながら歩いてたんですよね。そんな自分の気持ちと秋の風景を重ねて書きました。
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この街で一花咲かせたい